賃貸経営における永遠のテーマ「空室対策」——なぜ、入居者を絞り込んで考えるのか
廣田 裕司
2021/11/19
イメージ/©️takasuu・123RF
皆さんこんにちは。大家兼不動産屋の廣田裕司です。
今年もあと1カ月と少しで新しい年を迎えます。年があけると、入退去が多くなる繁忙期が始まります。昨年と今年の繁忙期はコロナ禍の影響で、入退去も少なかったように思います。
緊急事態制限などで出されていた規制も解除され、通常の動きに戻りつつありますが、来年の繁忙期の動きはどのようになるのでしょうか?
以前に、ここのコラムで効果的な空室対策のために「入居者を絞り込んで考える」と書きました。今回のコラムでは、「入居者を絞り込んで考える」と、なぜ、効果的な空室対策につながるのか、について書いていきます。
「入居者を絞り込む」ってどういうことか
物件の面積、間取りで、単身用とか、ファミリーとの入居者の家族構成は決まってしまいますが、家族構成だけでなく、年齢、性別、職業、収入というような属性や、勤務先の場所、通勤手段など、入居者を具体的に絞り込んでいきます。
例えば、この物件には「20代の女性会社員で料理が好きな人に住んでもらいたい」という感じで、この物件に住んでもらえる入居者を具体的に絞り込みます。絞り込んだ入居者を意識して、物件のリフォームや募集広告を考えます。
入居者を絞り込んで考える有効性
空室対策を考えるとき、より多くの人に受け入れられる物件にした方が、早く入居者が決まると思います。しかし、万人に受け入れられる物件は、周辺のライバル物件との同じような部屋になってしまい、埋もれてしまいます。そもそも、誰にでも好まれる物件作りを目指して、最新の人気設備をすべて導入するのは難しく、結果的に無難な平均的物件になってしまいます。
逆に、絞り込んだ入居者を意識して作り込んだ物件の方が、特徴が明確になり、結果として早く入居者が決まると思います。例えば、「20代の料理が好きな女性」いうように、物件に入居してもらいたい入居者を意識し、キッチンを重点的にリフォームし、キッチンが充実していることを募集広告で強調することにより、料理が好きな人の目に留まりやすくなります。
平均値の罠
物の寸法などを決めるとき、平均値が利用されます。平均身長とか、平均体重などがこれにあたります。この平均値に合わせれば、多くの人が満足できると思われますが、必ずしもそうではありせん。
例えば、流し台の高さを考えるとき、平均身長の人に合わせて高さを決めると、平均身長の人にはピッタリですが、平均身長より背が高い人にとっては、流し台が低く、腰を深く曲げないと使えなくなります。一方、平均身長より背の低い人にとっては、流し台が高くなりますが、背の高い人のように、腰を曲げることもなく使うことができます。また、高さを調整する台に乗ることで、高さの問題を解決することが可能です。平均身長より高い人は、全体の半分程度存在するので、平均身長に合わせた流し台は、半数に人にとっては使い難いものとなってしまいます。
平均値をベースに考えると、実は半数程度の人にとっては、使い難いものになってしまう場合があります。全ての人に満足してもらうために、平均値で考えるよりは、特定の入居者を絞って考えた方が、結果としてより多くの人を満足させることができる場合があります。
個人の価値観を追求する時代
高度成長期からバブル時代は、「みんなと同じ」ということが求められていましたが、成熟期に入った現在は、個人個人の違った価値観を追求する時代になってきました。
住まいに関しても、自分らしさが求められています。万人に受け入れられるような同じような部屋を作るよりも、入居者を絞り込んで考えた、尖った物件の方が、入居者に受け入れられると思います。
現在の入居者を調べる
「入居者を絞り込む」ためには、物件の現状分析が大切です。現状分析というと、物件の周辺環境、間取り、設備なども重要ですが、入居者の絞り込みという観点では、まず、対象の物件に住んでいる(住んでいた)入居者を調べます。
現在入居している人の居住年数、属性、勤務先(学校)などの入居者の人物像を調べ、一覧表にまとめます。
【現在の入居者調査】(例)
一覧表にまとめてみると、会社員が多いとか、勤務先・通学先はどこが多いとか、その物件に住んでいる入居者の傾向が見えてきます。
現在入居している人は、ほかの物件と比較してその物件に入居を決めたのですから、同じような人がその物件に入居してくれる可能性が高く、入居者を絞り込むのに参考になると思います。
物件の特徴を明確に
次に、物件の特徴を調べます。特徴を考える場合、部屋の間取り、設備、共用部、周辺環境に分けて整理すると分かりやすいと思います。
洗い出した特徴を魅力に感じる人を考えます。例えば、充実したキッチンが特徴の物件は、料理好きな人には魅力的に感じます。物件の特徴を魅力に感じる人が、入居者の候補となります。
現在の入居者の傾向や物件の特徴を加味して、その物件を魅力に感じると思われる方が入居者になります。
まとめ
空室対策を考える際、万人に気に入られるような物件を作ると、平均的な特徴の物件になりやすく、ライバル物件のなかに埋もれてしまいます。縛り込んだ入居者に合わせて、尖った物件を作った方が、結果的には早期に入居者を獲得できると思います。
効果的な空室対策を進めるために、現状の入居者像や物件の特徴を把握し、絞り込んだ入居者を意識して進めることが重要です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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この記事を書いた人
「合同会社アップ」代表 「行動する大家さんの会」代表
妻の実家の賃貸事業を引き継ぎ、賃貸経営に関わるようになる。サラリーマン時代の経験を活かし、原状回復費の低減、稼働率アップに成功。賃貸経営での経験をベースにセミナー講師としても活動。2014年大家仲間と一緒に、管理会社「みまもルーム」設立に参加。大家さんとしての経験、不動産業者としての経験を活かし、大家さんの賃貸経営をサポートする会社「合同会社アップ」を設立。大家さんのサポート活動を展開中。