少子高齢化、空き家問題…どうしても売れない不動産をどう売るか
田中 裕治
2020/01/20
増える空き家と不動産の“負動産”化
空き家問題は、少子高齢化、人口減少に伴う大きな課題になっています。実際、5年に1度、総務省が行っている「住宅・土地統計調査」(2018年10月時点)の調査結果によると、日本国内には846万戸の空き家があり、前回行われた13年に発表された調査に比べ、戸数では26万戸、率にすると3.2%も増加しています。また、総住宅数に占める空き家の割合は13.6%にもおよんでいます。
出典/総務省「平成30年 住宅・土地統計調査」
こうした増え続ける空き家や空き地の問題に対して、法律改正や自治体の条例などさまざまな対策、加えて、子ども食堂や地域のコミュニティの場としての活用などが行われていますが、どれも決め手になるようなものがないのが実情のようです。
大都市などの一部を除き、不動産を取り巻く環境は大きく変わっています。なかでも、不動産をお持ちの多くの方は、「家や土地を売りたいと思ったら、不動産会社にいけばどんなものでも売ってもらえる」と思っているようです。
しかし、いまは「不動産は簡単に売れる」ものではなくなっています。もちろん、大都市圏、商業地、駅から近い、人気のエリアなど立地条件が整っているところは売れます。また、不動産会社も売りたい、買いたいと思う不動産は数多くあります。その一方で、不動産会社にも「扱いたくない」という物件があります。
私も不動産会社を営み、不動産コンサルタントとして数多くの不動産を扱ってきましたが、「正直、これは苦労しそうだ。扱いたくない」という物件がいくつもありました。活用されない不動産が増えるなかで、空き家問題がクローズアップされていますが、こうした空き家の不動産の多くが、まさに不動産会社も扱いたくない物件ともいえます。
一方、持ち主にとっても、こうした不動産は税金がかかるだけの金食い虫的な存在の困った不動産、まさに「負動産」になっています。そこで私はこうした負動産を「1円不動産」として売り出しました。すると「1円」という価格が、注目されたこともあって新聞、テレビや雑誌で紹介されました。
「話題の1円物件」/静岡県賀茂郡東伊豆町の別荘で、土地面積は271㎡(81.97坪/全て傾斜地)。建物面積は1階47.19㎡・2階39.74㎡の合計86.93㎡(26.29坪)。間取りは1階にダイニングキッチン、6畳の和室。2階は6畳と8畳の和室の3DK。温泉付き
さらにこの負動産を、活用できる「富動産」に変えて、流通、活用促進を図る「全国空き家流通促進機構」という一般社団法人を19年7月に立ち上げました。こうした経験やノウハウをお伝えして、少しでも空き家問題解決の一助になればと思っています。
不動産会社も嫌がる物件とは
さて、不動産会社も扱いたくない「負動産」とはどういった物件なのでしょうか。それは次のような物件です。
・価格の安い物件
・売れなさそうな物件
・売るために手間がかかりそうな物件
・地方の物件
仮にこうした物件を所有されていたとしたら、売却を不動産会社に依頼しても売れない、そもそも依頼を断られる可能性があります。しかし、あきらめる必要はありません。
じつは工夫次第で「負動産を富動産」に変えることができるのです。どんな方法かを一言でいってしまうと、“必要な人”に売るということです。これはどんな商品も同じですが、不動産にもいえることなのです。それをいかに見つけ、根気強く交渉するか。私はさまざまな物件を扱ってきた経験から、やり方次第でそれは可能だと確信しています。
バブル経済崩壊後、日本の土地神話も崩壊しました。まさに誰にとっても不動産が資産とはなり得ない時代になっています。そんな負の資産の不動産をどう売却するか、あるいは富動産に変えるか。
次回からは、事例をあげながら具体的なお話を進めていきます。
「売れない不動産はない〜負動産を富動産に変える〜」田中裕治氏のコラム一覧
第1回 どうしても売れない不動産をどう売るか
第2回 「苦しい物件」を早く処分するために必要なこと
第3回 狭小住宅や築古物件、売却しようとしたらトラブル発覚 注意したいポイント
第4回 車が入らない、市街化調整区域…マッチングで売れない不動産を売る
第5回 売却しやすい農地、売却しにくい農地――農地の相続・売却は早め早めの対応で
第6回 共有名義の自分の持分だけの売却――いったいいくらで売れるのか?
第7回 「事故物件」は売れるのか? 事故物件を売るために必要な取り組みと事前対策ポイントとは
第8回 共有名義の「農地」の売却――売るための準備と超えるべきハードル
第9回 別荘の売却――コロナ後の「新しい生活様式」で人気が高まる別荘の見切りの付け方
第10回 使えない、建て替えできない……市街化調整区域の「分家住宅」の対処法
第11回 底地と借地の売却で重要なのはタイミング
第12回 農地転用で市街化調整区域の農地の売買を可能にする
この記事を書いた人
一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事、株式会社リライト代表取締役
1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で不動産会社を設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。著書に『売りたいのに売れない! 困った不動産を高く売る裏ワザ』『本当はいらない不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』などがある。