賃貸借物件内での死亡
森田雅也
2016/06/10
高齢化が進んだ日本において、お年寄りの一人暮らしは決して珍しいことではなくなり、病院ではなくご自宅で亡くなられてしまうケースも少なくありません。賃貸物件内でご遺体が放置されてしまった場合、悪臭や汚れが室内に充満し、改修工事をしなければ次の住人に貸すことができないということも想定されます。このような場合に、賃貸人は、賃借人の相続人や保証人に対して、どのような対応をとることができるのでしょうか。
まず、賃貸借契約における賃借人の基本的な義務として、賃借人は、適切な注意をもって賃貸物件を利用する義務(善管注意義務)を負っています。自然死と同じく賃借人が賃貸物件で亡くなってしまう例として自殺が挙げられますが、自殺の場合には賃借人が自らの意思で賃借物件にキズをつけてしまうものといえます。そのため、自殺の場合、賃借人が善管注意義務に違反したとして、賃貸人は、賃借人の相続人や保証人に対して、一定の損害賠償を求めることができることがあります。
他方、賃貸物件内での自然死について、東京地裁昭和58年6月27日判決は、賃借人に善管注意義務の違反を認めることはできない判断しています。なぜなら、自然死においては、賃借人が自らの意思によってその部屋で亡くなることを選択したわけでも、自らの死を具体的に予測できたとも基本的に言えないからです。
もっとも、自然死によるご遺体が賃貸物件内で放置されて腐敗が進み、建物に汚損や悪臭が生じているにもかかわらず、賃貸人が賃借人に対して修理費用や工事期間の賃料相当額すら請求することが一切できないというのでは賃貸人にあまりに酷です。
そこで、さきほどの裁判例では、賃借人は、賃貸借契約が終了する際に、部屋を借りたときの状態に戻して賃貸人に返す義務の一環として、部屋に生じた汚損や悪臭を回復する措置を講じる必要があると認めました。その上で、壁紙の張替えや交換にかかった改修工事の費用、悪臭が消えるまでその部屋を貸すことができなかった期間の賃料に当たる金額を、賃貸人に生じた損害として認め、賃借人の保証人に対して、その支払いを命じたのです。
賃貸物件内での賃借人の死亡といっても、その原因や具体的な状況によって、損害賠償が認められるかどうかや、認められる損害額がいくらかということは、状況によって変わってきますので、お困りの方は弁護士に相談することをお勧めします。
この記事を書いた人
弁護士
弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。