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自力救済における賃貸人の責任

森田雅也森田雅也

2016/07/15

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賃貸人の中には、建物の賃貸業務を、管理会社に委託している方も多いのではないでしょうか。専門的な知識やノウハウを持っている管理会社に賃貸業務を委託することで、管理業務の煩雑さから解放され、自ら管理するよりも円滑に賃貸経営できることが、管理委託のメリットといえるでしょう。しかし、管理会社に任せきりにしていると、管理会社が賃貸人の意図しない問題を引き起こすこともあり得ます。

管理会社の行為から生じた問題について、賃貸人が責任を負うことはあるのでしょうか。
一つの例として、管理会社が賃借人に対し、違法な明け渡し請求や家賃の取り立てをしていた例をあげましょう。

そもそも、賃借人が明け渡しに応じてくれないからといって、賃貸人自身が、勝手にその部屋の鍵を変えたり、部屋に立ち入って残っているものを売却・処分したりする行為は、違法な行為に当たります。
では、管理会社がこのような行為をしていた場合に、管理業務を委託していた賃貸人が、損害賠償請求されることはないのでしょうか。

管理会社が、賃借人に対して、違法な手段を用いて家賃の取り立てや明け渡しを求めた場合に、賃貸人自身が協力していた場合のみならず、賃貸人が、実際には何らの行為を行っていないとしても、管理会社が違法な手段を用いていることを知りながら、その行為を黙認し、何らの対応もせずに放置していた場合にも、共同不法行為として、賃貸人自身も、損害賠償責任を負うことになるおそれがあります。
したがって、賃貸人側としては、自ら違法な手段を用いて家賃の取り立てや明け渡しを求めないことはもちろんのこと、管理会社と適切に意思疎通を図り、その行動に目を光らせておくことが重要といえるでしょう。

それでは、賃借人が明け渡しに応じてくれない場合に、残置物の搬出等の自力救済行為は一切許されないのでしょうか。

このことについて、直接判断した裁判例はありません。しかし、福岡地裁平成20年12月25日判決では、その判断の中で自力救済行為が正当化されるためには、「原告(賃借人)において、賃貸借契約の終了事由の存在を認識した上で、本件ドアロック等につき個別的な同意を与えるなど、原告(賃借人)が自ら任意に本件建物から退去したものと同視しうる事情が必要」と述べています。このことから、賃貸借契約終了後に、残置物の搬出等について個別的な同意を取り付けた上であれば、違法な行為とは判断されない可能性があります。

したがって、残置物の搬出等をする場合には、賃貸借契約終了後に、賃借人の個別的な同意を得てから行うと良いでしょう。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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