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立退料と正当事由

森田雅也森田雅也

2016/11/30

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不動産の賃貸借でよく問題になるのが立退料です。立退料とは、賃貸人側の事情により、賃貸借契約を終了させ、賃借人に明け渡しを求める時に賃貸人が賃借人に対し支払う金銭のことです。 もちろん、賃貸借契約も契約の1つなので、賃貸人・賃借人間において契約を終了させる合意が成立するのであれば、賃貸人は立退料を支払う必要はありません。 しかし、賃貸人が賃貸借契約を終了させたくないなど、解約に応じてくれない場合には契約解除の合意が成立しません。

このような場合において、賃貸人の解約申し入れは、様々な事情を考慮して『正当の事由』がある場合のみ認められます(借地借家法28条)。これが、正当事由と呼ばれるものです。
この正当事由は、まず自己使用の必要性が判断されます。この判断基準は「賃貸人及び賃借人双方の利害得失の比較考察のほか、公益上、社会上その他各般の事情も斟酌し」たうえで、判断されます(大判昭19・9・18)。すなわち、賃貸人と賃借人どちらが本件建物をより必要としているか、従前の契約の場合どちらが不利益をより被るかなどで判断されます。

次に、立退料を除く諸般の事情を考慮して判断されます。例えば、建物が老朽化しているので、建てかえる必要があるなどです。

最後に、賃貸人が立退料を支払うことによって賃貸人側の正当事由を補完するという手法があります。
したがって、立退料は諸般の事情のみでは、正当事由が認められないおそれがあるという場合に賃貸人側は金銭を賃借人に支払い正当事由を認めてもらう役割をもちます。

しかし、必ずしも立退料を支払うことによって正当事由が認められるとは限りませんし、立退料を支払わなくても正当事由が認められることもあります。個々の事案によってその都度判断されることになります。
いくつか立退料についての判例を紹介します。

将来、賃貸人の息子を居住させる予定である旨を、賃借人にも伝え、同意を得た賃貸借契約において、息子が結婚し居住の必要性が高まったとして500万円の立退料により正当事由が具備する(大阪地判昭57・4・28)。
賃貸人は、病弱な二人の子供を養っており、さらに別宅で居住している姑が歩行困難になったため、賃貸建物において同居する必要があるので、立退料100万円と代替家屋の提供をすることによって、正当事由が具備される(大阪地判昭62・11・27)。
ビルの一部を賃貸借する契約について、賃貸人から賃借人に対し、本件建物の老朽化及び土地の高度利用による建替えの必要性を理由及び立退料4億円の提供により正当事由が具備する(東京地判平1・9・29)。
賃貸建物に賃借人がいることを知って買い受けた賃貸人から、本件建物を取壊して自社ビルを建築する必要があるという理由での解約申し入れと立退料4500万円について正当事由は補完されていない(東京高判平5・12・27)。
賃貸人は、本件建物が老朽化しているので、これを取壊し建物の敷地を有効活用する必要があるとして、賃借人に明け渡しを求めた事案で、1審は立退料363万円を条件に正当事由を認めたが、控訴審において本来、立退料を要せずとも正当事由は具備されているが、賃貸人において、立退料についての控訴がないとして、立退料提供による明け渡しが認容された(東京高判平15・1・16)。
このように立退料を支払うことによって正当事由が具備することもあれば、立退料を支払っても正当事由が認められない場合もあります。

正当事由は、個々の様々な事情を判断して認定されるものなので判例は1つの指針にはなります。しかし、必ずしも同じ判決になるとは限りません。したがって、賃貸借契約を解約させたいけど、賃貸人が応じてくれない場合には、専門家に相談することをお勧めします。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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