マンション売却に強い不動産会社の選び方と知っておくべき業界の4つの仕組み
菅 正秀
2017/05/09
マンション売却でいちばん大切なのは不動産会社選び
マンション売却というと、購入するとき以上に高いハードルを感じる人は多いと思います。「本当に売れるのか」「いくらで売れるのか」「税金はどれくらいかかるのか」などいろいろな不安を感じることでしょう。
マンション売却を成功させるために、いちばん大切なことを一言で申し上げるなら、「あなたのマンションを売るために真剣に努力してくれる不動産会社を見つけること」です。なぜなら、実際に売却のために活動してくれるのは不動産会社だからです。しかし、実はこの不動産会社選びが、いちばんむずかしいことでもあるのです。
候補となる不動産会社を絞り込む方法
いい不動産会社を選ぶためには、あまたある不動産会社からいきなり一社を選ぶのではなく、数社の候補に絞ることから始めましょう。
まずは、あなたのマンションの近くにある不動産会社をピックアップしてみましょう。不動産会社も出店にあたって市場調査をします。売りたい、売れるマンションがあるから出店してきています。
次に、そのなかから、あなたのマンションにアプローチしてきている不動産会社に絞りましょう。自宅の郵便受けを見てください。そこには「マンション売却をお考えの方はご相談ください」とか「◯◯区限定でマンションを探しています!」といったチラシやダイレクトメールが入っていませんか?
よく、こういったチラシには要注意といった記事を目にすることがありますが、実は、そのように積極的にアプローチしてきている会社のなかから不動産会社を選ぶのが順当です。
積極的にアプローチしてきている会社は、あなたのマンションの特徴をよく知り、売買事例も把握している可能性が高いからです。
マンション売却を依頼する不動産会社を選ぶときには、決して「大手だから」といったネームバリューや、そのマンションを分譲、販売していた不動産会社の系列だからといった理由だけで選ばないようにしましょう。
また、最近ではマンションの管理会社のなかも不動産仲介業に参入して、マンション売却を手がけている会社があります。ですが、そういった会社の場合、営業マンも実務経験も乏しいケースもありますのでじっくり吟味しましょう。
不動産会社を選ぶときには、それぞれの会社のホームページやポータルサイト(スーモ、アットホーム、ホームズ等)も見て見ましょう。
売却の依頼をする前に業界の仕組みを知っておこう
こうして数社に候補を絞り込んだら、実際に依頼する会社を選ぶことになります。
ですが、その前に知っておいてほしいことがあります。それは不動産仲介業界の仕組みです。業界のどんな仕組みにしたがって、不動産会社や営業マンが活動するのかを知っておくのは、彼らが信頼できるかどうかを見きわめるためにも大切なことと言えるでしょう。
(関連記事)
お客さんには絶対見せない! 知らないと損する不動産業界の4つの仕組み
<仕組み1>仲介営業マンの多くはインセンティブ(歩合制)で働いている
あなたを担当する営業マンの多くは歩合制で働いています。つまり、営業成績によって給与の額が左右されます(歩合の比率は会社によってさまざまです)。
ですから、多くの営業マンがいる不動産会社であっても、あなたのマンション売却がうまくいくかどうかは、担当する営業マンの個人プレーに任されます。営業マンが連携したり、チームで動いたりすることはありません。
それは多店舗展開している会社でも、全国ネットの会社でも変わりません。会社内の連携、店舗間の連携も基本的にはありません。個人商店の集まりと同じようなもので、担当の営業マンの力量ですべてが決まってしまうと考えておいてください。
<仕組み2>不動産会社は「専任媒介契約」を志向する
実際に不動産会社を選ぶときには、通常、マンションがいくらで売れるか、何社かの不動産会社に売却価格の査定を依頼することになります。そのとき、どの不動産会社も判で押したように「専任でお願いします」と言ってくるでしょう。なぜなら、不動産仲介は成功報酬の世界だからです。
マンションを売却するとき、無事に買い主が見つかって売買契約が成立すると、売り主は不動産会社に仲介手数料を支払います。
この仲介手数料は成功報酬ですから、いくら広告費をかけても、営業マンが走り回っても、実際に売買契約が成立しなければ報酬は発生しません。そのため、確実に仲介手数料を受け取りたい不動産会社は「専任媒介契約」を希望するのです。
この媒介契約についてご説明しましょう。マンションの売却を不動産会社に依頼するときには、売り主と不動産会社の間で媒介契約を結びます。この媒介契約には大きく分けるとふたつあります。
ひとつは、複数の不動産会社に媒介を依頼する「一般媒介」です。この場合、複数の不動産会社のなかで売買契約を成立させた1社だけが仲介手数料をもらえます。つまり、ほかの不動産会社はいくら頑張っても売上げはゼロです。
もうひとつは、1社にだけ媒介を依頼する「専任媒介」です。専任媒介を受けた不動産会社は、自分たちで買い主を見つけなくても、売買契約が成立さえすれば、売り主から仲介手数料を受け取ることができるのです。そのため、不動産会社は安心して活動ができる専任媒介契約を志向することになります。
ちなみに、専任媒介には、「専属専任媒介」と普通の「専任媒介」があり、専属専任媒介の場合には、あなた(売り主)が自ら買い主を見つけた場合であっても不動産会社に仲介手数料を支払わなければいけません。
なお、宅地建物取引業法では、専任媒介契約には7日以内にレインズ(不動産会社しか見られない物件情報データベース)に登録することと、2週間に1回以上、販売活動の状況を売り主に報告することを義務づけています。さらに専属専任媒介契約には、5日以内のレインズへの登録、1週間に1回以上の報告義務を課しています(図表1)。
(図表1)一般媒介と専任媒介の違い
もちろん、3種類の媒介契約のどれを選択するは、売り主であるあなたが自由に選べます。何社か競わせたほうがいいと考えるのであれば「一般媒介」がいいでしょうし、信頼できる1社に任せたほうがいいと考えるのであれば「専任媒介」がいいでしょう。
ただし、一番やってはいけないのは、大手数社に一般媒介で任せることです。これだとどこの会社も手数料が発生しないリスクを恐れて積極的に活動しないことが起こり得ます。
一般媒介にする場合は、地場中小の会社も入れることをおすすめします。
地場中小の不動産会社のなかには、売上げを上げるために、買い手を見つけてくる不動産会社にバックマージンを支払ってでも売買契約を成立させようとするなど、小回りのきく地場中小ならではの手法を取る会社もあり、積極的に販売活動をしてくれることが期待できます。
<仕組み3>不動産会社は基本的に両手取引を志向する
(図表2)両手取引とは?
不動産会社ではマンション売却の依頼を受けると、自社に登録している購入希望のお客さんに紹介したりチラシを撒いたり、ポータルサイトに物件情報を掲載したりして広告活動を行ない、積極的に購入希望者を見つける努力をします。
これは、宅地建物取引業法が、ひとつの売買取引で売り主・買い主の双方から手数料をもらうことを認めているからです。
これを業界では「両手取引」と言います(図表2)。
不動産会社も営利法人ですので売上最大化を目指すのは当然の行為と言えるでしょう。また、実際にあなたを担当する営業マンも、両手取引が成立すれば、倍のインセンティブを得られるわけですから真剣に努力をするという仕組みです。
こうした業界の仕組みから考えると、マンション売却を成功させるには、まず数社の不動産会社に売却価格の査定依頼をすること。そして、そのなかで信頼できる価格を提示(このためにあらかじめ売り主も相場調べをしておくべきです)してきた会社の営業マンと面談し、この人なら任せてもいいと思えるような、信頼できる人と「専任媒介」契約を結ぶのがおすすめです。
その営業マンに任せてもいいかどうかを判断するには、まず、過去にあなたのマンションの別の部屋の売却を手がけたなど、あなたのマンションについてよく知っている営業マンであることが大前提です。そして、どのような販売手法を取ってくれるのか(広告方法、オープンハウス等)をしっかりヒアリングして、あなたとフィーリングが合うのかを見きわめましょう。
<仕組み4>「囲い込み」されていないかには要注意
(図表3)囲い込みと両手取引
信頼して任せた営業マンが、すぐに購入希望者を見つけてきてくれれば問題ありませんが、「両手取引」志向が強すぎて業界でいう「囲い込み」をされてしまうと、売り主にとっては不利益になります。
「囲い込み」とは、媒介を受けた不動産会社が、ほかの不動産会社が連れてきた購入希望者をシャットアウトしてしまう行為です。具体的には、ほかの不動産会社から問い合わせがあった場合に「商談中です」と返答して、話を断ってしまうのです(図表3)。
そうなると、媒介契約を結んだ不動産会社が購入希望者を見つけるまで、ほかの購入希望者とのマッチングが成立するチャンスがなくなってしまいます。ほかに好条件の購入希望者がいたにもかかわらず、低い条件で契約しなければならなくなるのです。
両手取引を成立させたい営業マンは、契約を成立させやすくするために、わざと値下げをさせて買い手がつきやすくするなど、売り主にとってマイナスになることをする場合があるからです。
マンション売却を成功させるためのコツは?
そうならないためにはどうしたらいいのでしょうか? マンション売却を成功させるためのコツはあるのでしょうか?
まず、1カ月目は黙って営業マンの販売活動を見守りましょう。
あなたのマンションを紹介する物件資料を作成したり、レインズに登録したり、ポータルサイトに掲載する、自社に登録しているお客さんに紹介するなど、あなたのマンションを売るための準備があるからです。
ただし、2カ月経っても内覧に来る購入希望者がないなど、反響が少ない場合には要注意です。
通常、媒介契約は3カ月が契約期間になっていて自動更新はありません。ですから、3カ月目にその会社との契約を継続するかどうか判断できるようになっています。ダメだと思ったら契約を継続せずに不動産会社を変えましょう。
もちろん一度契約すれば3カ月間絶対に拘束されわけではありません。媒介契約は民法で云う「委任」契約になりますので、いつでも解約は可能です。解約された不動産会社のほうは、それまでの実費を請求することは可能ですが、実務上請求されることまずありません。
つまり、一度信頼して任せても、「囲い込み」をしていたり、努力不足が感じられたりすれば、いつでもほかの会社に乗り換えてもいいということです。
これがマンション売却を成功させるためのコツと言えるでしょう。
(関連記事)
業界の裏を知る私が教える、不動産一括査定の賢い使い方
不動産会社の販売活動はこうしてチェックする
では、具体的にどのようにして不動産会社の販売活をチェックすればいいのでしょうか? いくつかのポイントがありますので、最後にご紹介しておきましょう。
(1)実際に購入希望者を内覧に連れてきたかどうか
媒介契約時にアピールしたほど内覧に購入希望者を連れてきたかどうかチェックしてください。
(2)専任媒介であれば、レインズに物件情報が載っているか、載っていても商談中になっていないか確認する
以前は、個人の売り主がレインズを見ることはできませんでしたが、いまは、個人売り主が自分のマンションがレインズに登録されているかどうかを自分で見ることができるようになりました。
(例)近畿レインズ http://www.kinkireins.or.jp/sell_request/
レインズへの登録が完了したら、担当営業マンから報告と説明がありますので、不審に感じたときには必ず自分の目でチェックするようにしましょう。
(3)「売主報告書」の記載内容をよく読み、検証する
専任媒介の場合、販売活動について売り主に報告をする義務があると申し上げましたが、多くの不動産会社は「売主報告書」を提出しています。ですから、そこに記載されている活動内容をよく読み、疑問があれば担当営業マンに聞くことです。
また、記載内容通りの販売活動が行なわれているか、チラシやポータルサイトの掲載内容を確認することも大切です。
違うと感じたら不動産会社を変えることも考える
マンション売却のポイントは、あなた自身が相場や業界の仕組みを知った上で、信頼できる不動産会社の信頼できる担当営業マンと2人3脚で活動することが必要です。
あなたが「司令塔」で担当営業マンが「実務担当」の相棒というイメージで考えていただくとわかりやすいでしょう。そして、イメージ通りでないなと感じたら、不動産会社を変えることも考えてみてください。
(関連記事)
「物件の募集図面」を見れば不動産会社の裏側が手に取るようにわかる!
知っておきたい! 不動産営業マンの笑顔の裏にある3つのホンネと理想の物件の探し方
人口減少時代に30年後も資産価値が落ちない住宅の4つの条件
この記事を書いた人
株式会社フェリーズディア 取締役チーフコンサルタント
宅地建物取引士、マンション管理士、住宅ローンアドバイザー、福祉住環境コーディネーター。 1958年、大阪府大阪市生まれ。創価大学法学部卒業。大学卒業後、弁護士事務所に勤務、宅地建物取引士資格取得を契機に大手不動産会社に転じる。法律知識を活用し中古住宅、中古マンションの仲介営業を担当。 その後、顧客と一緒にモノづくりをするために、地域中小建設会社に移り、注文住宅・賃貸マンションの受注営業を担当。大手建設会社との競合が激しい中、操業以後に流入してきた近隣住民のクレームにお悩みの経営者さんに、不動産会社時代の人脈を使い工場の移転先を斡旋した上で、その跡地に93戸の賃貸マンション建設の受注をするなど、15年間で約32億円の受注する実績をあげる。現在は、建築にも明るい不動産コンサルタントとして、不動産会社のエスクロウ業務(契約管理)・新人社員指導等を行なっている。 一生に一度の買い物ともいえる住宅の購入をアシストできる人材を育成し、業界の健全な発展に貢献すべく活動中。