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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#23 コロナ禍を契機に変わる家選びの基準(2/3ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2021/07/28

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「フーテンの寅さん」のような生活が実現可能に

いっぽうで、会社ファーストの家選びを強いられてきた実需層の動きは、だいぶ多様化してきている。これまでの会社まで1時間以内、できれば40分以内。そのためには駅近、徒歩5分以内といった法則から解放され、居住環境を重視する生活ファーストの家選びにシフトを始めているのだ。

夫婦で在宅ワークをするのには、都心部のマンションでは部屋が狭すぎる。隣戸との音漏れやWi-Fiの容量不足なども気になる。なんといっても都心マンションの価格は夫婦でそれぞれ20年から35年にもわたる長期のローンを組んで返済しなければならない。通勤のウェートが下がれば、何も無理をして都心居住を選択しなくてもよくなるのだ。

首都圏郊外の中古戸建て住宅は都心のマンションに比べれば格安だ。かつての通勤圏で今では都心まで1時間半はかかるところだった、たとえば湘南の茅ケ崎や平塚、大磯、横須賀や三浦ならおおむね2000万円から3000万円も出せば、かなり質のよい物件を手にすることができる。毎日ではなく週1回、月2、3回の通勤なら無理なく暮らせる範囲だ。海を身近にテレワークするにはこれらの街は、絶好の環境といえるだろう。

二拠点居住を選択する人も出てきている。都心のマンションはそのままに、軽井沢など、自分のお気に入りのエリアに家を構え、基本的にはそこに生活しながら、都心に出てきた時だけマンションですごす。毎日通勤する必要がなくなってくれば、自らの拠点をその日のスケジュールやイベント、季節や天候に応じて住み分ける生活も可能となる。

働き方のほとんどがパソコンなどの情報通信端末で働く人、たとえば弁護士や会計士、コンサルタントなどのプロフェッショナル系になると、二拠点居住を超えて、「好きなときに」「好きな場所で」「好きな仕事」をするようになってきている。

昔から夏は北海道、冬は沖縄に住みたいなどと言われてきたが、最近の働き方の変化はこうした「フーテンの寅さん」のような生活が実現可能となっているのだ。

そのような世の中になってくると、さて都心部に高額のローンを背負って、所有しているマンションの資産価値なるものは維持できるのだろうか。当たり前だが、需要がない限り不動産価格を保つことはできない。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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