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農地転用で市街化調整区域の農地の売買を可能にする

田中 裕治田中 裕治

2020/12/14

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やっかいな農地の売買

不動産の売買にあたっては、必ず登記簿を確認します。このとき、地目が田や畑になっている不動産を農地と言いますが、地目が田や畑になっていなくても、現況が、農地として判断された土地も農地とされてしまいます。

農地の中でも市街化区域にある農地であれば、農地法に則り届出をすれば比較的問題なく売買ができます。しかし、やっかいなのが市街化調整区域や未線引き区域にある農地です。市街化調整区域にある農地を売るには、農業委員会の許可が必要になります。そしてこの許可を得るための審査が厳しいのです。

原則として買主は農家や農業法人でなければなりません。さらに「本当に農家としての実体があるか」「なぜこの土地を買いたいのか」といったことを事細かに農業委員会から聞かれ、審査されます。

そこでこうした市街化調整区域の農地の整理方法としては、農地法の許可を取得した現況が農地以外の土地であれば地目を農地以外の山林や雑種地・原野などに変えるという方法があります。農地を農地以外の用途に帰る事を「農地転用」といいますが、すでに農地法の許可を取得できていれば、土地を売るときに農地法の許可が必要なくなります。

市街化調整区域の農地を売買するのには、農地転用をするのがよいのですが、これはなかなかハードルが高いということもあります。しかし、あきらめず取り組めば、意外なところから打開策が見つかることがあります。
今回はこんなケースをご紹介します。

【実例紹介】過去に遡って調査――市街化調整区域の農地転用(埼玉県桶川市)


駅からバス便の県道沿いの土地
・土地面積327㎡(建物の新築不可)・市街化調整区域内の農地(農振農用地)・毎年使っていなくても固定資産税がかかる
・過去に売却物件の木が倒れ、隣地駐車場の車を損傷させるなど、持ち続けることによる所有者責任リスクがある

ご相談の内容は、15年前に相続で取得した農地売却のご依頼でした。

農地といっても現状は雑木林で、過去に何度かその雑木林の木が倒れ、隣の駐車場の車を損傷させてしまい、所有者の方は車の修理代を負担したことがあるということでした。その所有者の方は、これまでも10社以上の不動産会社や行政書士にご相談されたとのことでしたが、全ての方から「市街化調整区域の農用地」のため、「売れない」と言われてしまったそうです。売主様も、将来の相続のことを考えるとこの土地を子どもに残したくないということでした。

お客様との打ち合わせ後、早速、調査を開始しました。まずは市役所などでの法令上の制限について調べると、売主様よりお聞きしていた通り、売却物件は原則建物の建築ができず、他の用途に変更することもできない市街化調整区域の農振農用地ということを確認。確かに売りづらい物件ですが、その他は特に問題となるようなことはありませんでした。

売却物件は、バス通沿いに面しており、農地というより山林に近い状態で、樹木の一部は電線より高い位置まで伸びていました。隣地には事業所と駐車場があり、複数の車が駐車されていました。なるほど、以前、木が駐車場に倒れ、駐車していた車を破損させしまったということも理解できました。

現地調査をひと通り終えたところで、隣の事業所の方にお話をうかがいました。代表の方のお話では、「以前にも売主さんより買ってくれないか」と相談を受けたとのこと。しかし、そのときは最終的に農地ということで売買できず、話はそのままと流れてしまったということでした。それを聞き私は「御社で購入できたら購入されますか?」とすかさず質問をすると、代表の方は「購入できるのであれば、検討する」という前向きなお答えをいただきました。

とはいえ、市街化調整区域の農用地の売却は、通常、農家または農業法人しか購入することができません。では、どうするか――。

方法は農地転用しかありません。

売却物件は登記地目と、農業委員会の見解ともにいずれも農地(畑)となっていました。たぶん、これまで関わってきた不動産会社などもこのことから「売れない」と判断されたことは容易に想像がつきます。ただ、往生際の悪い私は決して諦めませんでした。

地目の矛盾をきっかけに、絞り出した秘策

そして、私が目をつけたのが市役所の固定資産税課で取得できる評価証明書の地目でした。

幸いにも今回の売却物件の評価証明書上の地目はなぜか「山林」になっていたのです。ここから状況を打破できないか考え始めたのです。いつもお世話になっている土地家屋調査士の先生と打ち合わせをしていく中でも、評価証明書上の「山林」という地目がポイントになるとのことで意見が合致しました。

そこで気づいたのは、「この土地はいつから農地なのか」ということでした。早速、国土地理院に依頼し、昭和25年以前、それ以降現在に至るまでの昔の航空写真を購入して見ると、農地法施行時前後も当該物件は雑木林(山林)で農地としては使われていなかったことが判明したのです。

市街化調整区域が定められた農地法が成立したのは昭和25年7月のことでした。つまり、売却物件は登記の地目は農地ですが、農地法という法律ができる以前から山林だったのです。実際には山林だったということです。
このことを理由に、土地家屋調査士の先生のお力添えもいただき、農業委員会とも協議、「売れない農地」とされていた当該物件の地目を見事「山林」に地目変更登記を完了することができたのです。

事前に農業委員会の方からは地目が農地から山林になれば、農用地(農地法の規制含む)の規制も解除され、自由に売買することができる旨、見解を得ており、このことで晴れて当該土地の売買ができるようになったのです。

ただ、こうした地目変更登記はかなりレアなケースなので、売却までは通常の2倍以上の時間を要しました。

地目変更によって売却可能にはなりましたが、建物を建築できないことに変わりはなく、買主を探すのは難しそうでした。そこで以前、お話をした隣地の事業所の代表者の方にお話しすると、100万円近くの金額でご購入いただけることになり、売主様より売却のご依頼をいただいた「売れない農地」を無事売却することができました。

これまで1年間にわたり、負動産を富動産に変える、売れない負動産をどうすれば売れるかということについて、実例を交えながらご紹介してきました。どの案件もそうですが、ポイントはなんといっても「知恵を絞る」ということです。方法はそれぞれの物件によって異なります。

しかし、絶対にいえることは、「売れない不動産はありません」ということです。

1年間、本当にありがとうございました!

「売れない不動産はない〜負動産を富動産に変える〜」田中裕治氏のコラム一覧
第1回   どうしても売れない不動産をどう売るか
第2回   「苦しい物件」を早く処分するために必要なこと
第3回   狭小住宅や築古物件、売却しようとしたらトラブル発覚 注意したいポイント
第4回   車が入らない、市街化調整区域…マッチングで売れない不動産を売る
第5回   売却しやすい農地、売却しにくい農地――農地の相続・売却は早め早めの対応で
第6回   共有名義の自分の持分だけの売却――いったいいくらで売れるのか?
第7回   「事故物件」は売れるのか? 事故物件を売るために必要な取り組みと事前対策ポイントとは
第8回   共有名義の「農地」の売却――売るための準備と超えるべきハードル
第9回   別荘の売却――コロナ後の「新しい生活様式」で人気が高まる別荘の見切りの付け方
第10回 使えない、建て替えできない……市街化調整区域の「分家住宅」の対処法
第11回 底地と借地の売却で重要なのはタイミング
第12回 農地転用で市街化調整区域の農地の売買を可能にする

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この記事を書いた人

一般社団法人全国空き家流通促進機構代表理事、株式会社リライト代表取締役

1978年神奈川県生まれ。大学卒業後大手不不動産会社に勤務したのち、買取再販売メインとする不動産会社に転職。その後、34歳で不動産会社を設立。創業以来、赤字の依頼でも地方まで出かけ、近隣住民や役所などと交渉。売れない困った不動産売却のノウハウを身につけてきた。著書に『売りたいのに売れない! 困った不動産を高く売る裏ワザ』『本当はいらない不動産をうま~く処理する!とっておき11の方法』などがある。

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