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BOOK Review――この1冊 『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』

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日経コンピュータ、山端宏実、岡部一詩、中田敦、大和田尚孝、谷島宣之/著 日経BP刊 1980円(税込)

「2025年の崖」という言葉を知っているだろうか。

2025年には、日本企業の基幹系システム(その企業の業務の中核を支える情報システム)のうち、稼働が21年を超えるものの比率が、全体の6割を超えるのではないかとみられている。経済産業省は、この問題を「2025年の崖」と名付け、システムの老朽化によって、年間12兆円もの経済損失が生まれる可能性があると、警鐘を鳴らしている。

今からわずか5年後の話であり、どんな企業にとっても深刻な課題だ。ただ、多くの人には、今ひとつその重要性がピンときづらいのではないだろうか。「基幹系システムの老朽化への対応が必要」といわれれば、「確かにそうだろうな」と、誰もが思うだろう。でも、ITに明るくなければ、システム老朽化が何を引き起こしうるのか、具体的にイメージしづらい。

世界市場を席捲するGAFAの例をひくまでもなく、今やビジネスはITを抜きに語ることはできない。しかし実際のところ、「IT戦略はなんのために必要か」、「実際の運用にあたってはどんなリスクが生じうるか」、自分の言葉で明快に説明できる人はそんなに多くはないはずだ。

そこで、本書だ。本書は、IT専門誌「日経コンピュータ」の取材を基に、みずほフィナンシャルグループが、19年の歳月をかけた勘定系システム(預金や融資等に関わる、銀行業務に必須のシステム)の刷新と統合のプロジェクトについて解説。「苦闘の19年史」というタイトルにふさわしい七転八倒の歴史と、なぜ〝苦闘〟せねばならなかったのか、その原因に鋭くメスを入れる。

勘定系システムの刷新と統合は、みずほフィナンシャルグループの19年越しの悲願だった。

旧来のみずほ銀行の勘定系システムは、1980年代末に開発されたもの。1999年の、旧第一勧業銀行、旧富士銀行、旧日本興業銀行による統合発表に際し、みずほフィナンシャルグループとして、新しい勘定系システムの開発に着手することがアナウンスされ、2000年以降、作業に着手した。しかしながら、旧3行の主導権争いなどがシステムの開発を妨げた結果、2002年のみずほ銀行の経営統合直後、一度目の大規模なシステム障害が発生。

それを契機とし、旧3行の勘定系システムを一本化する再編成作業を本格的に開始。4000億円もの巨費を投じ、2年がかりで完了させた後、ようやく「本丸」である勘定系システムの刷新プロジェクトをスタートさせた。しかし、経営陣が勘定系システムの刷新を現場に任せっきりにしてしまい、必要な資金や人員をスムーズに投入することができずプロジェクトは混迷。計画は遅れに遅れた。

その混乱のなかで発生したのが、2011年3月に東日本大震災だ。殺到した義援金に、旧来の勘定系システムでは対応しきれずに大規模なシステム障害が発生。解決までには10日近くを要した。その間、義援金とは関係のない、給与振込みなどの取引も通常通りに行えなくなり、みずほは社会から厳しく叱責される。結果的に、当時の頭取とシステム担当役員の引責辞任にまで発展した。

このときのシステム障害によって、みずほフィナンシャルグループは、勘定系システム刷新の重要性を骨身にしみて実感するに至った。それを経て、グループのITシステムへの携わり方を見直し、ようやく2019年に悲願であった勘定系システムの刷新・統合を完了させたというわけだ。

本書では、システム障害の原因をシステム担当部門の問題に終始させず、システム老朽化を放置しシステム障害のリスクを軽視してきた経営陣の責任にまで踏み込んだ議論を展開。経営陣が、自社の基幹系システムについてシステム担当者と会話を交わせる程度の知識を身に付けておくことがいかに大切か、障害発生時のみずほフィナンシャルグループの混乱ぶりを紹介しながら、指摘する。

ITの活用の効果は、業務効率改善やコスト削減という角度から語られることが多い。現状では確かに、ITへの投資が短期的かつ直接的に企業の売上に貢献することは少ないかもしれない。しかし、健全なシステムを維持し必要があれば刷新することは、企業の長期的な発展のためにどうしても必要だ。だからこそ経営戦略とIT戦略は、切り離せない。

みずほフィナンシャルグループの19年にも及ぶ苦闘の歴史が、IT化という新潮流にもまれ悩みながらも前進しようとする日本のビジネスマンに多くのことを教えてくれる。

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