誰が呼んだか、『勝手橋』!一休さんも驚く?「この橋渡るべからず」
南村 忠敬
2022/08/26
イメージ/©︎kamchatka・123RF
天気がおかしい。
今年は気象観測史上最も短い“梅雨”を更新した地点が全国12のブロック中8ブロックで、関東甲信の21日を除き殆どの地域で僅か2週間ほどだった注1。平年の梅雨は全国的に概ね40日前後だというから、いかに短かったかがわかる。6月末には太平洋高気圧が勢力を増し、「これは大変な夏になりそう」と、皆さんも猛暑・酷暑を覚悟したはずだ。
しかし、その後の天候は戻り梅雨の様相で、梅雨末期の特徴的な豪雨に見舞われた各地で、河川氾濫や土砂崩れによる豪雨被害をもたらした。
注1
梅雨入り、梅雨明け発表に関しては、気象庁が各都府県を南から沖縄・奄美・九州南部・九州北部・四国・中国・近畿・東海・関東甲信・北陸・東北南部・東北北部の12の地域(北海道除く)に分け、地域別に情報を発信している。確定値は昭和26年(1951年)からのデータ。「平年」は、令和2年(2020年)までの過去30年間の平均(入り・明けを特定しなかった年は除外)。
昨年は中国地方、九州南部(島根県、鳥取県、鹿児島県)において発達した梅雨前線の影響による豪雨災害と8月の台風9号、10号に刺激された前線がもたらした暴風、豪雨災害(青森県・長野県・島根県・広島県・福岡県・佐賀県・長崎県)による甚大な被害は記憶に新しいが、文字通り「舌の根も乾かぬうちに」8月3日から東北、北陸地方を中心に猛烈な雨が降り、山形県置賜地区と新潟県岩舟、新発田地域には「大雨特別警報」が、その他の各地に「記録的短時間大雨情報」が発表された。豪雨の被害に遭われた地域の方々には衷心よりお見舞い申し上げると共に、くれぐれもご自愛願いたい。
繰り返す豪雨被害のニュースに必ず映し出されるのが、土砂崩れによる道路の埋没と河川に架かる橋の崩壊映像だ。水の力や自然の破壊力に言葉が失われる。以前にも書いたが、この国の平野部は地形学上ほぼ例外なく沖積平野であり、氷河の形成・融解がもたらす海水面の上昇、下降によって、大小無数の河川が山地間の谷底や山地を離れた平地(扇状地)に流れ込んでいる。ひとたび氾濫すれば、低地である市街地は水没し、広大な湿地に戻るのである。
道路と橋は陸上輸送の動脈であり、これらが寸断されればライフラインもストップし、道路や橋で結ばれていた地域地区は完全に孤立する。特に橋は復旧に長い期間を要するため、雨が止み、水が引いたからといって地域住民の生活が元通りの姿に戻ることは無い。普段、何気なく通行している橋。あなたの街にも多くの橋が架かっているはずだ。今月はそんな大切な“橋”について考えてみた。
橋とは何だ?
一般的に橋といっても、その定義は様々。ならば国(行政)では橋をどのように定義しているのか。
橋の起源は人類の歴史と共にある、というのは想像に難くない。とにかく地上に川や水流があれば、そこを超えて行こうとする本能的な欲求が湧くからだ。初めは人工物ではなく、自然の倒木が小河川を跨ぐように架かっていたところを人間や動物が往来していたが、人類が道具を使う頃からは、適当な倒木や人の手で伐採した木を使って丸木橋のような形のものを作ったと想像できる。つまり、橋とは“水の上を渡るために造られた構築物”というのが本来の定義だ。
一方、国交省が道路橋定期点検要領において橋梁をこう定義している。「道路法第2条第1項に規定する道路で橋長2.0m以上の橋、高架の道路等(道路橋という)」。橋梁の定期点検などを行う地方公共団体の現場では、「河川、湖沼、海峡、運河などの水面を超えるため、あるいは水のない谷、凹地または、建築物や他の交通路等を超えるために桁下に空間を残し、架設される道路構造物で橋長 2m以上のもの」を橋梁として定義しているらしい注2。
また、土木学会編・土木工学ハンドブック第29編の第1章、1.1.1橋梁の定義・名称において、「橋梁とは、道路、鉄道、水路等の輸送路において、輸送の障害となる河川、渓谷、湖沼、海峡あるいは他の道路、鉄道、水路等の上方にこれらを横断するために建設される構造物の総称である」としている。
注2
道路的には「橋」と「橋梁」は意味が異なるとし、橋梁を「橋」、「高架橋」、「桟道橋」の三種類に分類しており、「橋」は、水面を渡すための橋梁をいう。なお、「桟道橋」とは、は山腹に棚のように建設され、車道に横断的に及んでいる橋梁のこと。
まあ、何だか分かったような、分からないような、どっちでも良いようでもあるが、結局は我々一般人がイメージする“橋”が河川や渓谷、海峡や海上に架かる橋だけではなく、道路として認識している高架橋や桟道橋も行政的には“橋”というのだそうだ。
いつ造られたのかも分からない
勝手橋?という橋が話題になっているそうだ
共同通信が今年の6月~7月に掛けて実施した全国の地方自治体河川管理者へのアンケートによれば、令和4年3月末の時点で、住民らが許可なく設置した橋(通路状の簡易なものを含む)や、行政の手続き上で何らかのミスがあり、管理者が指定されずに放置されているものなどを含め、回答してきた27府県だけでも約9000か所に及ぶという。その他の地方自治体は調査中ということだが、一方で、青森県や東京都など6都県では「ゼロ」回答だったらしい。これには不動産業を営む拙者として“?”である。行政が把握していないだけではないのか?通報や監視下に無いだけではないのか?と。
誰が名付けたのか、「勝手橋」と呼ばれる橋は、地域住民やその橋を独占的に利用する個人などが、幅、数メートル未満の水路、開渠などの上に通行目的で架けたものが殆どのようだ。鉄板や木製の板を敷いただけのものから、コンクリート製の立派な?ものまで。しかし、設置過程については近隣住民でも「知らない」というものも多く、いつから在るのか、築造後何年経っているのかも不明なものが多い。
京都市左京区岡崎円勝寺町の白川に架かる「もっこ橋(通称)」は有名で、橋長約5m、幅員は人がひとり通れる程度というから数十センチ程度、鉄製の桁を渡し、天端をモルタルで舗装した一本橋で、中央部分に鉄製の橋脚(直接基礎)が支えている。映画「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の撮影場所としてファンから注目され、観光スポットとして人気が出たのだという。そもそも明治時代、この界隈が工場地帯であり、製氷工場で作った氷の保冷剤として当時使われていた《おがくず》を、白川を挟んだ向こう岸の敷地に干すための近道として造られた勝手橋である。“もっこ”とは、持ち籠(藁むしろのザル)を天秤棒の両端に下げて野菜などを運搬する道具のことで、おがくずをもっこで運ぶ労働者が往来した様子が目に浮かぶ。
明治31年、京都で創業の製氷企業・龍紋氷室の工場稼働時からその後日本冷蔵株式会社(現株式会社ニチレイ)に吸収合併され、昭和55年の工場閉鎖まで、同企業が管理していたらしいが、工場跡地の所有者が代わってからは管理者がおらず、行政も関与せずに今日まで現存している。ただ、この橋は前述した映画ブームをきっかけにして地元有志による保存会が出来たようで、行政とも連携して維持管理を続けていきたいとのことだ。
京都市・白川に架かる通称「もっこ橋」
建築確認申請にも一役
不動産を生業とする者にとって、時に橋は重要な役割を果たす。一般的な業務では、水路等(主に普通河川を言い、一級、二級河川及び準用河川については管轄行政庁によって取り扱いが異なる注3)に面し、建築基準法上の道路の接道義務(法42条)を満たしていない宅地の開発や建物の建築においてである。また、既存の通路橋(敷地に繋がった水路上の橋)が在ったとしても、それこそ“勝手橋”である可能性も否定できないので、役所の調査を怠ることは出来ない。特に普通河川では、その管理者が細分化されていることが多く、都道府県や市町村、農用水路にあっては農業委員会及び組合など、県が良くても市町では許可されないというようなことにならないよう、しっかりと事前確認が必要だ。
注3
一級河川は国土水系上特に重要として国土交通大臣が指定、二級河川は一級河川以外の水系で公共の利害に重要な関係がある河川で都道府県知事が指定、準用河川とは一級および二級河川以外で二級河川の規定(河川法)を準用する河川で市町村長が指定し、普通河川は上記以外で公共の用に供される河川で条例等に基づき指定管理者が管理する河川。
また、それぞれの特定行政庁による建築基準条例や、河川等管理条例が制定されているので、他市で許可されたことが、ここでは制限されるなんてことは当然にある。例えば、建築基準法上の接道義務についても、水路占用許可をもって満たすとする役所と、許可取得後に建築審査会の同意と知事(建築主事)の許可(法43条2項2号:旧43条但し書き)を必要とする行政庁があることも注意が必要だ。更に、水路上の橋の間口や面積制限なども其々で、特筆すべきは通路橋の面積を、対象とする敷地面積に算入してくれる役所もあれば、そのような取り扱いが出来ないところもあるのだ。
あと、これはもう殆ど(全ての自治体の調査を行ったわけではないので)の行政庁が水路の使用料を義務付けている。当然、私的利用目的の通路橋については、構築から維持管理、最終的に撤去するまで全て利用者負担であるし、技術的基準も年々厳しくなっているので、狭い水路上の橋であっても、それなりに費用は掛かる。上述した占用許可についても永久的な権利ではなく、行政庁によって異なるが、概ね3年~5年に一度、更新手続きが必要となる。
通路橋
最後に忘れてはならないのが、出来上がった通路橋は原則道路として看做される(法定外公共物と言う)ため、通路橋の入り口側に門扉を付けたり、ポスト・インターホンの設置や、駐車場としての使用は出来ない(車庫証明も出ない)ということ。そこそこ広めの通路橋を我が物顔で取り込んでいる使用者をよく見かけるが、“勝手橋”でなくとも、“勝手利用橋”になってしまっては言語道断である。
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この記事を書いた人
第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事
大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。