女性がハイヒールを脱ぐことには「理」も「利」もある 令和3年建築着工統計を考察
朝倉 継道
2022/02/19
イメージ/©︎belchonock・123RF
数字はコロナショックからやや回復
1月31日、国土交通省が「建築着工統計調査報告」の令和3年計分を公表している。対象となる期間は文字どおり令和3年(2021)通年となる。「コロナ禍」2年目にあたる1年間の状況がすっぽりと反映されるかたちだ。
早速、数字を見ていきたい。
・全国の新設住宅着工戸数 85万6484戸
・前年比5.0%増 5年ぶりの増加
と、なっている。
ただし、増加とはいっても、それは前年・令和2年(20)の落ち込んだ状況(概ねコロナによる)に対してのものだ。上記、約85万6千戸自体はさほどの数字でもない。ここ10年のうち2番目に少ないものとなっている(1番は言うまでもなく令和2年)。
利用関係別にはこうなっている。
持家、貸家、分譲一戸建てでは「増」の結果が並んでいるが、これらもやはり落ち込んだ前年実績に対する幾分かのリカバリーに相当する。よって、どの数字も前々年分には及んでいない。並べてみよう。下記のとおりだ。
ちなみに、コロナが春から影響した令和2年(20)の新設住宅着工戸数の落ち込みは前年比マイナス9.9%で、これはリーマンショック翌年(09)のマイナス27.9%にははるかに及ばない。とはいえ、コロナが住宅の新設着工にそれなりのインパクトを与えていることは、上記のとおり明らかに数字には示されている。
「マンション」はその名前の意味本来の姿に?
興味深い数字を挙げてみたい。まずは、東京都における「(分譲住宅)マンション」のここ7年分の新設着工戸数だ。
このとおり、数字はざっと下がり基調で、目下のところコロナに関係なく新築分譲マンションの「希少化」が進んでいる様子が窺える。
次に、同じ東京都における「貸家」のここ7年分の新設着工戸数を挙げてみよう。
見てのとおり、基調の上がり下がりはいまひとつ判別しにくいところだが、ともあれ分譲マンションに比べて目を引くのはここ3年の推移となる(19~21)。コロナも絡むなか、投資が底堅い。
希少化・貴重品化・高額化しながら聳え立っていく、まさに「マンション(本来の意味は大邸宅)」と、その足元を広汎に埋めていく「チンタイ」……。
同じ集合住宅である(貸家には一戸建てもあるが割合は少ない)両者の対比について、将来の東京の社会的風景への展望も含め、これには想うところがある人も多いだろう。今後も注視していきたいデータだ。
ハイヒールを脱ぐに理あり
「非居住建築物(民間建築主)」の着工データを見てみよう。まずは全体分だ。
・棟数 6万2165棟
・(総)床面積 4万3874千㎡(前年比10.5%増 3年ぶりの増加)
ただし、ここでの「増」も繰り返すがあくまで前年(20)の落ち込みに対してのものだ。前々年分(19)と並べてみよう。
・棟数 19年:7万793棟 /21年:6万2165棟
・床面積 19年:4万3581千㎡ /21年:4万3874千㎡
このとおり、棟数では21年分が大幅に下回る。なお、6万2165棟というこの数字は、実にリーマンショック翌年(09)の6万3517棟にも及ばない。
一方、気がつくとおり、上記では床面積の数字にはあまり差が無い。両者はほぼ同じ程度といっていい。つまり、19年に着工された建物に比べ、(棟数の少ない)21年着工のそれらは、1棟あたりの面積が平均して広いことになる。そこで、面白い数字を引き出してみよう。民間非居住建築物の「使途別」それぞれ――すなわち事務所、店舗、工場、倉庫について、総床面積を棟数で割った数字を現在と過去とで比べてみる。現在=21年、一方過去は20年前の01年(平成13年)としてみよう。
事務所
01年 | 着工棟数 1万5765棟 | 床面積 7296千㎡ | 1棟当たり 0.46千㎡ |
21年 | 着工棟数 1万89棟 | 床面積 7087千㎡ | 1棟当たり 0.70千㎡ |
店舗
01年 | 着工棟数 1万7011棟 | 床面積 8037千㎡ | 1棟当たり 0.47千㎡ |
21年 | 着工棟数 5364棟 | 床面積 4262千㎡ | 1棟当たり 0.79千㎡ |
工場
01年 | 着工棟数 1万5496棟 | 床面積 1万1414千㎡ | 1棟当たり 0.74千㎡ |
21年 | 着工棟数 6416棟 | 床面積 6752千㎡ | 1棟当たり 1.05千㎡ |
倉庫
01年 | 着工棟数 2万3244棟 | 床面積 7053千㎡ | 1棟当たり 0.30千㎡ |
21年 | 着工棟数 1万2861棟 | 床面積 1万3025千㎡ | 1棟当たり 1.01千㎡ |
見てのとおり、すべての使途で「過去」の建物の方が狭い。さらに、もう5年さかのぼればこうなる(1996年)。
事務所 1棟当たり 0.41千㎡(01年よりさらに狭い)
店舗 1棟当たり 0.60千㎡
工場 1棟当たり 0.70千㎡(01年よりさらに狭い)
倉庫 1棟当たり 0.33千㎡
このとおり、21世紀に入ってから、あるいは平成の間、われわれの周りにあるこうした建物の構造に何が起こったのか、それが上記の数字からはとてもよく見てとれる。つまり、単純に人々の働く場所はこの20年くらいでまことに広くなった。なので、職場の中で人々が歩く距離自体、それに合わせて実際に増してもいるはずだ。
女性がオフィスではハイヒールをやめ、フラットなローファーやスニーカーに履き替えることは、健康上も完全に理(利)があるということだ。
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。