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これを創り出さないと日本の“仕事”は滅びていく 「心理的安全性」を確保せよ

朝倉 継道朝倉 継道

2022/01/21

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イメージ/©︎yupiramos・123RF

気疲れの国「日本」

「心理的安全性」が重要であることが、このところあちらこちらで採り上げられている。大いに賛成したい。

心理的安全性とは、仕事の場において、文字どおり「心」が安全であることを意味する。忌憚なく安心してものが言える職場こそがよい職場だとするモノサシ、あるいは意見のことだ。そうした心理的安全性が保たれた職場こそが、人も組織も成長するよい職場であり、会社であるとする、考えてみるとあたりまえの常識が、いまあらためて確認されていることになる。

ともあれ、近年ますますその度合いが増していく“気疲れの国”日本にあって、心理的安全性に支えられた職場環境を創り出すことは、官・民にわたりまさに喫緊の課題だ。わが国のあらゆる組織が、より高い価値を創造していくことへのもっとも大切なアプローチこそがこの心理的安全性であると、私も心からそう思っている。

心理的安全性を支える車の両輪

もっとも、気になるのは、こうした心理的安全性を呼びかける発信のなかに、いわゆる現場ノウハウをレクチャーするものが目立ちすぎることだ。

「みんなに平等な発言の機会を与えよう」「上司はアイスブレイクを心掛けよう」「ただし、緊張感に欠けたぬるま湯の組織は作らないようにしよう」等々、この話にはたびたびマネジャーやリーダーに向けたマネジメントノウハウが、参考書のごとくつきまとう。

それらはもちろん大事なことだろうとは思うが、私にはどこか車のタイヤの片側が外れてしまっている印象がしてならない。なぜなら、組織の心理的安全性は、心理的安全性をつかさどるマネジャーやリーダーがもつノウハウや能力以上に、その組織が与えられた「権限」と「裁量」とに影響されるところが大きいと感じられるからだ。

意見交換のメタ(高次)化

企業が心理的安全性にすぐれた組織やチームをその内部により多く持ちたいと思う場合、やるべきことはなんだろうか?

私の答えは、第一にそれら組織・チームに対し、権限と裁量を与えることとなる。彼ら自らが判断し、決められることをなるべく増やすこと。そのうえで大事なのは、彼らの意思決定がそのまま企業の意思決定となる大原則を設けてやることだ。平たくいえば――

・君たちのチームが
・君たちの権限と裁量の内において決めたことは
・基本として全社の意思になるからね

この後ろ盾、もしくは背中押しが得られることで、その組織やチームには必然的に心理的安全性がはぐくまれやすくなる。

なぜか? それは、こうした組織・チームにおいては、どんなに立場の小さな個人の意見であっても、それが彼らのもつ権限と裁量の内にあるかぎり、それらは企業の意思決定につながり得る高次な意味を持つものになるからだ。

それゆえ、彼らは自身の発言や意見、提案には自然と重い責任を感じるようになる。それとともに、仲間の発信するそれらに対する反論や修正についても、態度が慎重になる。すなわち、そこには傾聴が生まれ、互いへの尊重が生じてくる。発言に対して、見下した否定やからかい、辱めを受けたり、ペナルティを負わされたり、感情的な反発を抱かれたりするリスクのない、心理的安全性が醸し出されていくことになるわけだ。

控え目さんいらっしゃい

もっとも、そうした心理的安全性が保たれた職場であっても、よい視点を持ちながら発言を差し控える“控え目さん”は必ず出現することになる。なぜなら、心理的安全性は「意見を言わないこと」への安全性もまた平等に保証するものだからだ。

そこで、マネジメントの出番がやってくる。水がジャージャーと溢れ過ぎの“お喋りさん”の蛇口(口)は適当に締めてやりつつも、沈黙のポンプに対しては時折呼び水を流し込んでやるMC(司会者)のスキルが、心理的安全性の保たれた組織では重要になってくる。知ってのとおり、集団の中での控え目さんの意見というのは、ミーティングの場が高揚するなかで独り冷静に本質を見抜いていたり、一見的外れのようでいて実は隠れた別のマトの中心を射抜いていたりすることがよくあるからだ。

加えて、アイスブレイク(緊張の解きほぐし)も大事だが、心理的安全性の保たれた組織・チームでは、意見交換の熱量が上がるため、逆にクールダウンも重要になってくる。TVの人気トークバラエティを切り盛りするベテランMCが、バックヤードでは1on1で若いレギュラー出演者の熱い想いに静かに耳を傾けてやっている図を想像すれば、そのことの理解は容易いはずだ。

手ごねしてつくる心理的安全性

「サラリーマンは気楽な稼業~」と唄う古い歌詞ではないが(ハナ肇とクレージーキャッツのドント節)、昭和のサラリーマン生活は、いまの若者の前では若干言いにくいが平均して楽しかったといえるだろう。

その楽しさの底辺を支えていたひとつに名前をつけるとすれば、実はそれこそが心理的安全性だったことに昨今気付かされている年配者は、私を含めて多いのではないか。

もっとも、かつての心理的安全性は、マニュアル仕立てに組み立てられたマネジメントがこれを生んでいたものでは決してなかった。それは、現場、現場における権限と裁量の厚みこそが基本的には生み出していたものだ。

すなわち、ITという便利な道具がまだ出現していない時代のビジネス現場にあっては、上意下達はいまよりも格段にスムースではなく、企業は中央集権的にはなりたくともなれなかった。

そのため、企業の意思決定たる権限や裁量は、部や課あるいは支店といったセクションに自ずと分散されやすく――ともすればそこで勝手にはびこってもしまいやすく――その意味では、かつての企業は総じて封建社会的であったといっていい。そのことは、例えば当時の大手メーカーの支店等があちこちにこしらえていた城下町的情景のことをご存知の方は思い出せば、おそらく理解に足るはずだ。

企業はいま、そういった昭和のタナボタ的な心理的安全性ではなく、自ら汗をかいて捏ね上げた、手ずからの心理的安全性を社会と国のために創り上げていく必要がある。 

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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