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人口減少が生み出す格差に警戒せよ――5年で100万都市約1個分が消滅「令和2年国勢調査」

朝倉 継道朝倉 継道

2022/01/18

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イメージ/©︎timmz1904・123RF

5年で100万都市約1個分の人口が消滅

昨年の11月30日、令和2年(2020)国勢調査における「人口等基本集計結果」の確定値が総務省統計局から発表されている。不動産的視点を多少交えながら、これを見ていこう。

まずは総人口だ。20年10月1日現在のわが国の人口は1億2614万6099人となっている。前回調査時の2015年からは約94万9千人が減少している。増減率はマイナス0.7%となっている。

要は、この5年で100万都市約1個分の人口が日本から消え去ったかたちだ。それでも国別には日本は世界11位の人口大国であることを維持している。なおかつ、人口密度も11位だ。人口密集国のひとつである地位はいまだ変わっていない。

「こんなに人が増えてしまって、未来はどうなるのか。日本の食料は足りるのか」などと、人々が不安げな顔をしていた70年代辺りの気分を古い人であれば一瞬思い起こすランキングといってもいいだろう。

とはいえ、日本の人口は確実に、しかも急速に減ってはいる。国立社会保障・人口問題研究所による将来人口推計によると、あと20年ほどでその数は1億1千万を切る。さらにあと30年と少しくらいで1億を切るものと予測されている(平成29年推計・出生中位/死亡中位)。

なお、こうした30年間・2千数百万人クラスの人口変動といえば、わが国においては1965~95年辺りの状況がこれに相当する。この間における社会の変化や経済の浮き沈みなどを思い起こせば、今後の20~30年というのは、まさに傾いたまま揺れ動くステージが、我々の足の下に広がっている状態といっていい。

政治的にも、社会的にも、経済的にも、手練れのスノーボーダーのようなスムースな滑降が要求される時代が始まっているといえるだろう。

人口減少が生み出す「資産の濃縮」

こうした急激な人口減少シーンのなか、我々不動産を多少かじった者がおしなべて気になることとして、資産の濃縮がある。

「資産の濃縮」とは、私が以前に勝手に考えた言葉だが、要は、人口減少下においては相続人が被相続人よりも平均して少なくなることをいう。

これは、極端な仮定として「日本の人口が仮に1人になれば、日本の全資産はその人のものになる」などといわれるあの話のことだが、こうした資産の濃縮は、最近は私のそばでもちょくちょく目にするようになっている。

つまりは、4人の祖父母、2人の親が築いた6人分の資産が、ついには1人の孫に引き継がれていくといった「少子化相続」とでもいうべきかたちを想像すると、これに関しては理解がしやすい。

なおかつ、あからさまな話だが、資産家の子どもは資産家の子どもと結婚している可能性が高く、また、資産形成能力に優れた者は、同じく資産形成能力もしくはその補助能力に優れた者と結婚している可能性も高い。

よって、相続税に限らず、資産が生み出す所得の分配を上手にコントロールする税制・諸規制を国は巧みに制度化していかないと、これらは今後莫大な経済的格差を国民の間にもたらしていくはずだ。

その意味で、例えば先般の22年度税制改正大綱に盛り込まれた「財産債務調書制度の見直し」(調書提出義務者における総資産10億円以上での所得条件撤廃)などは、国民資産の正しい把握という面で的確な準備といっていい。

一定の規模を超える個人資産(実質が同等の法人資産も含む)およびその動向の把握は、ある意味社会のリスク管理として、今後は国家行政の重要なテーマとなっていくはずだ。

もっとも、誤解のないよう付け加えておくと、私はいわゆる富裕税的財産税は、財産をもたない貧乏人ながら好きではない。財産=資産への課税は、相続や贈与といった移動を含めて資産価値が現に所得化・利得化したときのみを捉えて行うのが公平だと思っている。

なので、もしも上記見直しが、仮に貯蓄税的思想にもとづく強引な施策への足掛かりとなっていくものであるならば、それは多くの富裕層の方々と同様、憂鬱のタネであるといっておきたい。

ある程度許されるのは、公が民間の資産の存在に対してなんらかのコストを負担しなければならないケースでの手数料的課税や(固定資産税や自動車税)、社会・経済の混乱を避けるための真に緊急措置的な徴税のみだ。

人口の増加が加速する首都圏中心部

さて、以上を絡めて、今回の国勢調査の結果をさらに見ていこう。注目は「都道府県別人口増減率」のデータだ。

壮観(?)なことに、47都道府県中39の道府県で2015~20年にかけて人口が減少し、なおかつ、そのうちの33 道府県が前回調査に比べてその率を拡大させている。つまり減少の加速だ。

対して、首都圏1都3県は、いずれも人口が増えるだけでなく増加率も拡大させている。こちらは増加の加速だ。地方ではどんどん人が減るなか、首都圏中心部ではますます人口が過密化してきていることになる。

このことは、単純な結果として、首都圏における不動産価値の上昇と、それ以外の多くの地域におけるいわゆる資産デフレの深刻化が進むことを意味している。つまりは、両者における資産価値格差の加速度的進行をも示していることになる。

なおかつ、いうまでもないが、さきほどの相続に絡む「資産の濃縮」は、不動産資産のみならず、金融資産においてもまったく同様に進行する。加えてこれらの資産は、両方がそれを“持つ者”のもとに一手に集まっていることが多い。

資産の格差は、人類の歴史が語るとおり、給与の格差などより数倍恐ろしいものだ。端的には、資産または相続予定資産をもつ無職は無職でも貴族だが、そうでない者は失業によって奴隷化しやすい。

よって、今後数十年、税制、土地・不動産行政、金融行政は、国と社会を資産格差のクサビをもって壊すことのないよう、いよいよその正念場を迎えることとなる。ぜひとも各分野横断的見地をもって、英知の結集に尽くしてほしいところだ。

首都圏では京都府一個分の世帯増が発生

さらに今回の国勢調査では、前回に続くかたちで日本の人口におけるある「相反」が表面化している。

それは、人口と世帯数の関係だ。国勢調査におけるわが国の人口減少は、前回の2015年分から始まっているが、このとき世帯数の方はその前回分に比べて減っておらず、逆に増えていた(増加数約149万8千世帯・増加率2.9%)。

今回も、その状況には変わりがない。15~20年の間において、総世帯数は約238万1千世帯の増加、増加率は前回よりも大きく伸びて4.5%となっている。

つまり、話を一気に持っていくと、これが住宅・不動産関連産業においては間違いなく僥倖となっている。いわゆるアベノミクス以来、“良心”ある業界関係者が叫び続けていた、不動産金融バブルの破綻がこれまで起きてこなかった理由の大きなひとつがこれといっていい。

1都3県の数字を挙げてみよう。この間の東京都における一般世帯増加率は7.9%、神奈川県は6.2%、埼玉県は6.4%、千葉県は6.3%となっている(一般世帯=施設等の世帯を除いた世帯)。

その結果、増加した世帯数はなんと112万を超えている。ちなみに、この数字は京都府全体の一般世帯数に近い。すなわち首都圏では15~20年の5年間のうちに京都府一個分ほどの世帯が、懐に飛び込んできたり、地生えしたりして生じたことになる。

これこそが、例えば15年の相続税改正を機に盛り上がった――とともに需要がかなり心配されていた――賃貸住宅の着工件数増加による戸数増を消化した、主たる要因であるに相違ない。

一方、その「世帯」について、類型別では単独世帯が一般世帯のうちの38.1%を占め、今回調査においてはいよいよ数字が4割に迫っている(実数約2115万1千世帯)。加えて、増加率は14.8%となっている。いわば激増だ。

その結果、単独世帯は、夫婦と子供から成る~いわゆるファミリー世帯のシェア25.1%を大きく超え、要は一人暮らしこそが、現在の日本の代表的世帯といってよいものになっている。

もっとも、そもそも人口が減り続けている国において世帯が増えているのだから、世帯ごとの平均人数が減るのは当然のことだ。よって、そのことがいわゆる「お一人様」の増加にそのまま表れているのが、いまの日本の単純かつあからさまなかたちとなる。

繰り返そう。単独世帯は一般世帯のうちの4割近くを占めている。これに夫婦のみの世帯を加えると合計で58.2%となる。6割に近い。よって、日本の標準的な世帯を「親と学生以下の子ども」が暮らす世帯と見ることは、いまやかなり苦しくなってきている。

「子育て世代・世帯を応援する」は、国の将来に向けてもちろん大事なことだが、そうしたスローガンを受け取る社会の側に悶々とした空気がつねに漂わざるをえないことにも無理はないといえるだろう。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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