スルガ銀行不正融資に見る 賃貸住宅「建築基準法違反」の実態
大谷 昭二
2021/10/08
©︎編集部
不正融資に潜む「既存不適格の建物」の存在
スルガ銀行不正融資の問題では、調査が進むにつれて、その内容が明らかになってきています。調停の場ではスルガ銀行も、被害者が示す「不正融資」についてほぼ認めているようです。
しかし、不正融資にもとづく損害賠償を求めても、スルガ銀行はなかなか応じようとはしません。その理由は、損害賠償を求める側に根拠がある賠償金額が示されていないからです。
根深い問題をはらんだスルガ銀行の不正融資――建築基準法の観点から不正融資の実態を検証していきます。
スルガ銀行の不正融資には、現在の建築基準法に適合しない「既存不適格建築物」が一定の割合で存在します。これは建物に相当な知識がなければ、これに気付くことはありません。なかには建物調査をしなければ、分からない事項もあります。こうした物件の建物は、売りたくても売れない。場合によっては入居者募集すらできなくなります。
「大規模修繕が必要な建物」がほとんど
スルガ銀行不正融資対象の多くの収益物件は、築30年経過しています。多くのマンションのトラブルは、築30年を超えたあたりから表面化します。具体的には「防水の劣化」「目地シールの劣化」「コンクリートのアルカリ化」「外壁タイルの剥落」「鉄部の錆の発生」「排水管の目詰まりと劣化」「給水設備の劣化」……と、きりがありません。これらは建物検査をしなければ分かりません。これらの大規模修繕再生には、数千万から億を超える費用がかかります。
しかし、これらの建物を放置した結果、入居者に被害が及んだ場合の損害賠償責任は管理者ではなく、所有者にあることを、賃貸住宅経営を行っている方は肝に銘じておく必要があります。
容積率のちょろまかしが不正融資の2割に
スルガ銀行の不正融資の調査の結果、多くは収益物件のなかでもいわゆる「賃貸マンション」に建築基準法に違反した状態であることが分かりました。
実際にあった事例は次のようにものでした。
■ 東京都下の物件
1階駐車場、2~3階を事務所として建築確認申請し、その後1階の駐車場を住居に改築して、すべて「社宅」と変更。そして、社宅からワンルームマンションとして入居者募集した事例
■大阪市内の物件
1階を駐車場として4階建ての共同住宅として建築確認を申請。しかし、実際は5階建てのワンルームマンションとして建設した事例
■兵庫県内の物件
1階を駐車場として4階建ての共同住宅として建築確認を申請。駐車場予定地に部屋を建設し、実際は4階建てのワンルームマンションとした事例
これらの事例に共通しているのは1階を駐車場として建築確認の申請をしておきながら、実際は住居にしてしまうという点です。これらはすべて「容積率超過」にあたります。
ご存じのように容積率は敷地面積に対して建築可能な延床面積を定めたものです。自治体では設定している都市計画の規制のなかで、建築していい建物の建築面積と延べ床面積の割合が制限されています。不動産の取引では、重要事項説明において、この土地は、建蔽率60%、容積率200%といったことが記されます。この制限を超える建物の建築は、特別の緩和措置がない限り建築を許可されません。
しかし、「1階を駐車場」にすることで、この容積率をごまかすことが可能なのです。
容積率は、建築基準法52条に次のように規定されています。
「容積率=延べ床面積÷敷地面積」
しかし、建物は実際には住居として使われていない共有の廊下、エレベーターなどがあり、こうしたところも延べ床面積に加えてしまっては住居して使用できる部分が狭くなってしまいます。そこで建築基準では、共用の廊下、地階、貯水槽設置部分、駐車場、エレベーターなど延べ床面積に含めなくてよい部分があります。
建物を建築する際、行政に申請するわけですが、図面など必要書類を揃えて、ここでは法律に則って、1階を住居や店舗ではなく駐車場として申請。駐車場であれば容積率に含まれないので、申請通りであれば、その部分を除いた面積が延べ床面積なり規制内として許可されます。
しかし、実際の建築では1階部分は駐車場ではなく住宅や店舗として建築するというわけです。調査の結果、こうした容積率を超えている建物が2割以上あったのです。
不正を見抜けない役所の事情
なぜ、こうしたことが可能になるのか。
役所は巡回で調査はしません。そもそも全てを調査する人材は役所にはいないため、できないというのが実態です。また、確認申請だけでは、いつ建物が建てられるかは分からないため、これも調査しない理由になっています。もちろん、建物が建てられた時点で、建築主は完了検査を依頼する義務はありますが、罰則はありません。
つまり、性善説にたって処理されているわけです。ただ、一般の住宅では、この検査を受けて検査済証を取得しないと公的融資が実行されないので、キャッシュでもない限り建設できません。
しかし、デベロッパーなどでは、公的融資を受けるわけではないので、実務上は検査済証がなくても資金に問題がなければ、検査を受けず建てられてしまうというわけです。しかも、登記申請には建築確認許可は必要ありません。土地家屋調査士が作成した申請する図面があれば、法律違反でも登記されるのです。
さらにこのような建物であっても、賃貸に供する際の制約もありません。
賃貸マンションでは、一部屋でも多ければ収入が多くなるのですから、違反だと指摘されなければ購入者にとっては“ありがたいこと”になってしまうわけです。
つまり、こうした法律の抜け道を使って、違法な建物が建てられてきたのです。本来、建物を売買するときには、重要事項説明をしなくてはなりません。この時点で、建築基準違反であると買い主に気付かれてしまえば、契約不成立か、あるいは大幅な値引きを要求されるでしょう。言い換えれば重要事項説明のときにバレなければ、どうにでもなるということなのです。
こうした不正をどう見極めるか。
一言でいってしまうと、内容と実際の物件が合っているかを確認することです。そのもっとも簡単な方法は、地域の行政の建築指導課(自治体によっては名前が違います)に問い合わせするだけです。仮に、こうした不正が発覚した場合は、建築士など専門家に相談するしか解決方法はありません。
スルガ銀行の不正融資では、こうしたさまざまな抜け道が使われていたのです。
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この記事を書いた人
NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事
1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。