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キーワードは「平和とサッカー」 広島・長崎で進む旧市街の再開発(1/3ページ)

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イメージ・上/©mmphotoart ・123RF 左下・広島 平和記念公園/©pabkov・123RF 右下・長崎 平和祈念像/©birdiega・123RF

旧軍都、被爆都市…共通項の多い広島・長崎

広島市と長崎市の新しい街づくりが注目されている。

というのも、変貌する広島市と長崎市には意外な共通点が数多いからだ。共に、終戦直前に被爆した旧軍都であり、三菱重工業などの企業城下町だったこと。また、路面電車が残り、JRの駅と中心市街地を結ぶことや、市街地はコンパクトで「狭いことが心地よい」街であるということ。そして、空港が郊外にあることから玄関口のJR駅前の再開発が進んでいること、などだ。

さらに両都市とも駅と離れた所に中心街があり、駅前開発と競いあっている点でも共通している。具体的には広島市は、オバマ元米国大統領が訪問した平和記念公園や原爆ドームの景観を守るという観点から中心街の乱開発は避け、バランスよく再開発が進む。


広島と長崎には「路面電車」など共通項が多い/©loeskieboom・123RF

一方、長崎市は旧市街の大型再開発計画はなく、今後も情緒あふれる古い街並みが残りそうだ。しかも、長崎は江戸時代から「出島」を拠点にオランダとの貿易など世界に開かれてきた街。そして坂の街ということもあり市街地が狭く、こうした街の佇まいが異国情緒と夜景など観異国情緒や夜景などとともに観光資源になっている。

都市の特色は地形や歴史が影響するが、これに加えて、広島・長崎とも街づくりの象徴がサッカーとそのスタジアムという点でも共通する。広島はJ1(Jリーグ1部)、長崎はJ2(同2部)があり、全国が注目する新スタジアムの建設が進む。実は広島と長崎の2つの都市ではサッカーを通したつながりも縁が深い。

トレビア的な話になるが、サッカー日本代表の森保一監督は、長崎出身でJ1のサンフレッチェ広島でプレーし、MFとして日本代表も経験した。引退後はサンフレッチェ監督を5年半務め、うち3期も優勝した。大人になってからはほとんどを広島で過ごし、サンフレッチェ監督時代、広島でのホームゲームの前は平和記念公園で祈っていたという。

また、V・ファーレン長崎は、長崎出身の高木琢也氏の監督時代にJ2では有数の強豪になった。高校サッカーの名門の長崎県の国見高校出身の高木氏もまた選手時代はサンフレッチェで活躍。現役時代は森保氏とも同時期に活躍。日本代表当時の高木氏は「アジアの大砲」とも言われた大型フォワードだった。

広島市、旧市街への回帰の理由と背景

そんな広島、長崎での再開発とその背景を詳しく見ていこう。

広島市は人口119万人を擁する、中四国最大の都市。しかし、市内を流れる太田川によって旧市街地(平野部)は狭い。戦後、政令指定都市として100万都市づくりを目指すなか、ヤマ側の自治体を合併し、住宅地は中国山地の方角へと広がった。

丘陵や山岳地帯に大型の住宅地が切り開かれたが、広島は越水の可能性のある「ため池」の多さは全国有数である。近年、中国地方は激しい豪雨に見舞われることが多くなり、その被害も増え、行政の防災対策が十分ではないと指摘されてきたエリアでは、がけ崩れや住宅街の崩壊が何度も起きている。

また、拠点空港も市中心部から便利だった広島市西区の旧広島西飛行場から、広島中央部の中国山地の中の旧本郷町(現在は三原市)に移転。このように広島は、太田川の狭い扇状の三角州という地形的な限界を破るため、旧市域を越えた郊外開発に非常に熱心だった。しかし、こうした相次ぐ豪雨被害、中心部と郊外の乖離などによって、都市開発の指向を一転、中心部回帰へと動き出した。

その核となったのが、サッカースタジアムだった。

サンフレッチェ広島は広島市、県、商工会議所などと協力して、広島市の都心部にある中区基町の広島市中央公園広場(8.5ヘクタール)に、世界に誇るサッカースタジアムを建設中だ。



HIROSHIMAスタジアムパークプロジェクトのイメージ 出典/サンフレッチェ広島

収容人数は主要な国際試合が開催できる3万人規模を想定。「青空と広大な芝生広場を満喫できる憩いの空間」を謳う。

2024年夏開業予定のスタジアム建設に伴う集客目標は、中央公園広場全体で現在の年96万人から約2倍以上の220万人に置いている。さらにサッカーの試合がある日だけでなく、イベントやスタジアムパークの施設利用を見込んでいる。

こうした強気の見積もりができるのも広島が「国際平和文化都市」として、世界的に圧倒的な知名度を誇るということが挙げられる。

東京や大阪に次いで欧州の著名オーケストラの公演が多く、欧米からの訪日客が多いことがある。スタジアム周辺ではカフェやレストランなどの設置に加え、年間を通じてさまざまなイベントができる空間になる予定だ。

スタジアムに隣接する広場の整備、運営を行うのはNTT都市開発を代表とする企業グループに事実上決まり、計画が動き出そうとしている。

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この記事を書いた人

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。

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