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理由は偽装免震ゴムか、それとも?――30階建て・築15年のタワーマンションが解体へ

朝倉 継道朝倉 継道

2021/07/19

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福岡市の大濠公園 当該物件はこの公園から徒歩圏内にある/©︎paylessimages・123RF

壊すにはまだ新しすぎる

「30階建て、築約15年のタワーマンションが解体される」――この7月16日、建設・不動産関係者の耳目を大いに集める報道がされた。

壊されることになったのは、福岡市中央区に建つ「カスタリア大濠ベイタワー」だ。建築時期は2006年9月、鉄筋コンクリート(RC)造・戸数215(内住戸212)のタワーマンションである。

いまや全国に林立するタワーマンションは、将来どのように修繕され、どのように解体されていくのか。その作業方法やコストについて取沙汰されることは多いが、まだ若すぎるこのタワーマンションに一体何があったのだろうか。

 

建物は偽装免震ゴム事件の舞台のひとつ

このニュースの第一報が届いた際、ほとんどの人の注目は記事の見出しに踊ったある6文字に集まったはずだ。 

「偽装免震ゴム」との記述だ。

これは、6年前に起きた事件に関わるもので、15年の東洋ゴム工業(現TOYO TIRE)による「免震ゴム性能データ改ざん事件」がそれとなる。 

事件の発生理由にも、発覚後の対応にも、ある意味、見事といえるほどのお粗末さを指摘されたこの件は、歴史ある企業が、歴史あるがゆえに起こした企業コンプライアンス破綻の教科書的事例といってもいい。当時、性能データが改ざんされた地震対策用の免震ゴムが設置された全209棟のうち、重要文化財1棟を除いた153棟が違反建築物となった。この問題の製品が使われていた建物の1棟が、このカスタリア大濠ベイタワーだった。

そのため、今回、まだ築約15年の建物を解体する判断がなされたことについては、当然このことが原因かと思いきや……実は、そうではない様子もある。

地元西日本新聞の7月16日付記事によれば、問題の偽装ゴムについては、その後、交換・改修が進んでいて、「対象となる154棟のうち、今年4月末までに149棟で着工し、148棟で作業を終えている」という。

そういう状態であるならば、なぜ当物件では交換や改修ではなく、解体となるのか。その理由について、上記報道の時点では、住人もまだ説明を受けていないとされている。 

一方、その疑問を解く糸口となっているかもしれないのが、当物件のそもそもの権利・運用形態、さらには運用の“結果”だ。

いわゆるタワマンとなれば、誰もが分譲物件をイメージしやすいが、実は、このカスタリア大濠ベイタワーは賃貸で運用されている。

実質の所有者は大和ハウスリート投資法人。つまりこのマンションはリート(不動産投資信託)物件だ。

権利(信託受益権)は13年に同法人が取得した。信託銀行に預けられたうえで、運営はマスターリース会社がパススルー方式で行っている。すなわち、賃料保証はせず、入居者から受け取った家賃は、入居者がいる住戸の分だけ賃貸人に渡されるかたちだ。

そのうえでこの6月、当物件は大和ハウスリート投資法人から別の事業者に譲渡されることが決まり、7月2日には契約も交わされた。なお、譲渡先については、国内の事業会社であるというほか、社名等はいまのところ開示されていない。

ともあれ、物件引渡日の予定は21年9月30日とのことで、今回行われた解体という判断については、当然ながらこの譲渡先による意向が大きいと見ていいだろう。

譲渡の直接要因は低い賃貸稼働率

そこで、当該譲渡の決定を報告している大和ハウスリート投資法人6月30日付のプレスリリース、「国内不動産信託受益権の譲渡に関するお知らせ」を見てみると、そこには最近の物件稼働率が記されている。

「カスタリア大濠ベイタワー」稼働率

出典/ 大和ハウスリート投資法人「国内不動産信託受益権の譲渡に関するお知らせ」

数字はなるほど非常に厳しい。率が低いうえにジリジリと尻下がりの状態で、同プレスリリース上、今回の譲渡はこれが主な理由となっている。

すなわち、抜粋すると、「近年の稼働状況及び賃料動向等より、今後の収益力の維持、向上は難しいものと考え(た)」とのことだ。

そうなると、物件稼働率が振るわないその理由こそが、例の偽装免震ゴムによる市場イメージの悪化なのかとも考えられるが、そうであれば、ゴムを交換すれば挽回の可能性は開けることになる。まだ築古とは到底いえない当物件ゆえに、そこで蘇ってもよい理屈となる。

しかしながら、それをしないことについては、ゴム交換が当物件ではできない理由が何かあるのか? あるいは、免震ゴムの問題が解決したうえでも、賃貸経営の将来をこれ以上見通せないほどの弱みが当物件には存在するのか?

そのあたりが、やはり気になるところだろう。

なお、免震ゴムが建築物に導入されるにおいては、将来、交換が必要となる事態が発生する可能性を踏まえ、それに対応できるだけの機材搬出入ルートや作業スペース等が確保されていなければならない。

そこで、たとえばそうした面での設計の不備が、今回、当物件で免震ゴムの交換を行おうとしたところ発覚したなどといったことが、ありえないだろうがもしもあれば、ぜひ詳細な報告が残されることを望みたい。

それは貴重な他山の石となって、今後に大いに生かされるはずだ。

博多港の岸壁そばに佇む当物件

ちなみに、当物件のロケーションだが、福岡市地下鉄空港線「大濠公園駅」徒歩8分(広告表示上)の立地にはあるものの、人が歩ける地面は当物件敷地の少し先で終わり、そのあとは博多港の海面となっている。つまり、建物は岸壁に迫る位置にある。

一方、南側、駅方向に向かっては、マンションを中心にほぼ住宅地化しているが、それでも物件東隣には製氷工場と冷蔵倉庫が建つなど、港湾物流エリア側から見てもその一部末端といえるのが当物件の位置だ。なお、南隣には地元でも有名なラブホテルが建っており、かなり広い敷地を構えている。

この、やや性格微妙なこの場所で、今後誰がどのようなプロジェクトを動かそうとしているのか。どんな将来の可能性がこの土地に見いだされているのか。誕生20年を待たず姿を消すタワーマンションへの鎮魂を祈るとともに、次の青写真が公にされるのをいまは待ちたいところだ。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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