マンション、タワーマンション、テラスハウス…住まいの呼び方、ただいま混乱中
朝倉 継道
2021/07/05
イメージ/©︎algeba・123RF
「マンション」で事件が起きた
「不動産仲介会社の社員が福岡市のマンションの一室で、内覧に訪れていた女性に無理やりわいせつな行為をした」……今年の4月に起きた事件での、あるニュースサイトによる報道だ。
「住所職業不詳の男女が江東区のマンションで内覧客を装い、不動産会社の女性にケガを負わせ、現金などを奪った」……こちらは3月に発生した事件での、あるニュースサイトでの報道だ。
どちらも「それって、分譲マンションなの? 賃貸なの?」と、読んでいていまひとつイメージが湧かなかった人も多いはずだ。原因のひとつがマンションという言葉にある。実は、誰もが知るこの5文字、意外な曖昧さを含んでいる。
そんな「混乱している住まいの呼び方」のうち、近ごろ顕著なものを3つ挙げてみよう。
もはや“不可逆的名称”のマンション
マンションはもともと英語だ(mansion)。意味は豪邸・大邸宅・立派なお屋敷といったところ。ご存じの方も多いだろう。
千葉の有名なテーマパークに「ホーンテッドマンション」という、豪壮な一戸建てを模したお化け屋敷がある。ここでは言葉が正しい使われ方をしているというわけだ。
その「マンション」の語が、経緯あって、日本では集合住宅を指す言葉として定着した。ただし、同じ集合住宅でも、木造や軽量鉄骨造などで、おおむね2階建てまでの建物は「アパート」と呼ばれる。
一方、主に3階建て以上で、鉄筋コンクリート造(RC)か、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)の場合、マンションと通常呼ばれることになっている。なので賃貸か持ち家かはここでは関係ない。「私の住んでいるマンション」といっても、その人が部屋を所有しているのか、借りているのかは、判別できないかたちになっている。
ただし、一方ではRC造10階建てを超えるような、堅固で大規模な集合住宅であってもマンションと呼ばれないケースもある。例えば、都営、県営といった、公営住宅の多くがそれにあたる。
そのため、これらで事件が起こっても、「都営のマンションで」などとは、まず報道されることがない。「都営アパートで」「県営住宅で」「団地で」と伝えられることになる。
なぜなのか? 一気に分析までしてしまおう。
それはセーフティネットのための施設である色合いが濃い住宅をマンションとは呼ばない不文律が、おそらくわれわれの社会に存在するからだ。つまり、マンション=豪邸という本来の意味は、言霊のようにして、ここに生き残っている。
さて、そんな曖昧な「マンション」だが、2000年に、ややこしい“事件”がもうひとつ起きている。
「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」の公布がそれだ。
これにより、マンションの語は法令用語となり、さらに定義も設けられた。そこで、ざっというと、この法律では分譲マンションのみをマンションと呼ぶことにしている。そうでない賃貸マンションは、マンションの範囲から外された。
そもそもの英語の意味との違いに始まり、マンションという言葉には、ここでさらに混乱の要素が加わったことになる。
タワーマンションってそんなに低かったの?
「タワーマンション」の基準は? イメージ/paylessimages
マンションのなかにはタワーマンションと呼ばれるものもある。文字どおりタワー(塔)といえるような、細く、高く、天を衝く建物だ。
このタワーマンションという言葉には公式な定義はない。が、近年おおむね一個の基準に収斂しつつある。それは、建築基準法の条文を根拠とした、「高さ60m超」というモノサシだ。
そのうえで、60m=階数にすると20階建て程度ということで、20階建て以上のマンションをもってタワーマンションと呼ぶ例が、いまはかなり見られるようになってきている。
しかし、この60mという高さ、実際に眺めてみても分かるが、結構低いのだ。ちなみに、東京ドームのグラウンド面からの天井高が61.69mだという。
そのため、「日本で最初のタワーマンションは?」となると、はるか1976年という昔に建てられた、昭和レトロな物件が該当してしまう。埼玉県与野市(当時)の「与野ハウス」(66m)だ。
すると、「いやいや、タワマンのさきがけといえば、もっとあと。バブル期の後半を飾った東京の『大川端リバーシティ21』あたりでしょう」と、そんなイメージを抱く向きからは、60m基準は何やら違和感いっぱいな、モヤモヤした数字とならざるを得ない。
ちなみに、大川端リバーシティ21エリアに並ぶタワー型のマンションといえば、100mを超えるものが林立している。ここまでになると、その姿かたち、ともに「タワマン」であることに異論を差し挟む人はいないはずだ。
そこで、タワーマンションには実はもうひとつ、定義候補とされるマイナーなモノサシが存在する。それは「高さ100m超」というもので、根拠は消防庁によるヘリコプター屋上緊急離着陸場の設置要請のための基準となる。
60m・20階よりもこちらの方が、私も断然しっくり来るのだが……。
意味が膨張? 暴走中の「テラスハウス」
「テラスハウス」の定義といえば、不動産・建築業界では昔からほぼ決まっている。プロが最初に習う、イロハのイのうちのひとつといっていいだろう。
その姿といえば、一戸建てスタイルの家が壁のみ隣の住戸と接し合い、横長になって仲よく並んでいる。住戸ごとに、外に通じる専用の玄関も備えている。いわゆる「長屋」のかたちだ。なおかつ、テラスハウスでは、住戸の下の敷地も他と分筆され、住戸ごとの所有権が確保されている。よって、各戸に庭がある場合、そこは共有・共用ではなく、専有・専用の庭ともなるわけだ。
テラスハウスのイメージ/©tang90246・123RF
一方、テラスハウスと似たものにタウンハウスがある。こちらは、見かけはテラスハウスに似ていても、権利の形態が異なっている。すなわち、住戸は区分所有。土地は共有。各戸の持ち主が皆で敷地全体の所有者になるという、分譲マンションと似たかたちが普通だ。
ところが、最近、テラスハウスという言葉が一部で暴走(?)を始めているらしい。テレビ番組のタイトルになり、一躍有名になったことで、そこに出てきた「シェアハウス」をテラスハウスと思い込む人が増えてきたという。
さらには、タウンハウスがテラスハウスに吞み込まれてきてもいるようだ。タウンハウスのオーナーが、「うちはテラス。タウンハウスってなんですか?」と、近ごろそんな声も耳にするようになっている。
ちなみに、テラスハウスとタウンハウスの所有形態の違いにあっては、いま記したとおり、住戸を借りる人にとってはほとんど意味がない。そのことも、言葉の混乱に拍車がかかっていく要素のひとつといえるだろう。
内見・内覧・内覧会 違いはある?
以上、近年巷で混乱している住まいの呼び方3つを挙げてみた。
そこで、冒頭に掲げた2つの記事だが、事件はいずれも賃貸物件で起こっている。つまり、ここに記されている「マンション」は、賃貸マンションを指している。
しかしながら、それらのニュースの記事文中では、賃貸で多く使われる「内見」ではなく、「内覧」という、どちらかというと購入物件を連想させる言葉も使われている。そのことも相まって、これらの記事は、読む人に若干イメージが伝わりにくいものとなっている。
賃貸マンションの「内見」あるいは「内覧」、中古マンションの「内覧」、新築分譲マンションの「内覧会」と、言葉は同じだったり、似ていたりしていても、人々が思い浮かべる風景はそれぞれに違う。そこで起きたことについても、イメージは大小違ってくることになるはずだ。
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。