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賃貸仲介会社社員が入居希望者に強制わいせつ 業界は昔と変わっていないのか?

朝倉 継道

2021/06/08

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写真/エイブル プレスリリスース(5月27日発表)

密室を利用した卑劣な犯行

5月末、残念なニュースが不動産業界を駆け巡った。福岡市で起きた賃貸仲介会社社員による強制わいせつ事件だ。賃貸物件の空室という、周囲の目が届かない密室を利用した卑劣な犯行が明らかとなった。

事件は4月に起きていた。被害者は、物件探しのため容疑者の勤める店を訪れた26歳の女性だった。

その女性に対し、内見案内の途中、無理やりわいせつな行為をした疑いで、エイブル博多駅前店勤務の42歳の社員が5月26日に逮捕された。捜査員に前後を固められながら、任意同行のため店を出てくる容疑者を捉えた映像をテレビのニュースやインターネットでみたという人も多いだろう。

事件当日、被害者と容疑者の2人は3つの物件を巡っている。そのうち2つ目の部屋で容疑者は犯行に及んでいる。女性はなぜ、そのあとすぐに逃げ出さなかったのだろうか?

報道によれば、その理由について女性は、「住所や携帯電話の番号など、個人情報を渡していたので、逃げるのは怖かった」旨、語っているという。もっともなことだろう。女性はおそらく恐怖におびえながら、3件目の部屋の案内もおとなしく受け、その後、警察に被害を届け出ている。

一方、容疑者の方は、何か勘違いして調子に乗ったのか、内見終了後、女性に対しLINEアカウントの交換まで要求したということだ。

社員の物件入室をやめると会社は声明

この事件を受け、エイブルは5月27日にリリースを行った。

今後、物件の内見案内をする際、従業員は「入室を控える」という。なおかつ、「おひとりでご来店された女性のお客様には、女性社員がご案内できる体制を整えてまいります」ともある。

とはいえ、入室を控えるというのは、現場としてはかなりの難問だ。部屋の奥や、トイレ、バスルームなどにいる入居希望者からの質問に、従業員は玄関ドアの外から答えなければならなくなる。入居希望者にハンディカメラを持って部屋に入ってもらうなどしなければ、「この設備、何ですか」「見えないのでわかりません」といった状態になるため、徹底はなかなか難しいだろう。

なお、古い時代を知る人であれば、「昔の内見はそんなもんだった」と、言うかもしれない。90年代前半頃までは、入居希望者が鍵を渡され、一人で物件を見に行くことは普通にあった。

しかし、現在、それは非常識なこととなっている。物件や設備の汚損、毀損が発生した場合など、責任問題がきわめてややこしくなるためだ。

つまり、仲介会社等の従業員ではなく、どちらかというと入居希望者側の行動こそが警戒されているのが、現在の「密着付き添い型」内見スタイルの重要な一面といえるだろう。

業界はバブルの昔と変わっていないのか?

今回の事件をうけて、多くの業界関係者がショックを受けている。それは、不動産仲介会社の従業員が、警察の捜査員に囲まれ、店から引き出されていくという情景が、まるで30年も前の悪しき世界のよみがえりのように映るからだ。

当時といえば、世の中は「バブル」末期の頃にあった。不動産業界の一部はかなり荒れた状態になっていて、賃貸仲介の窓口でも、店選びをうっかり間違えれば、客は大変なリスクに見舞われることが多々あった。

客だけではない。彼らと仕事で付き合う側も大変だったと言っておく。

賃貸情報誌の女性営業スタッフが悪質ないたずらをされた例もあれば、不正な行為を諫めた取引先の人間が、「殺す」と脅される例もあった。そんな店の裏口に回れば、覚せい剤の注射に使用した注射針が無数に散らばっているといったことも、いまでは考えられないが、現実に見られたことだ。そうしたなか、従業員による強制わいせつどころか、客が殺害される事件も発生したことがあった。

昔を知る人からは、「あなた方は変わっていなかったのか」と、呆れ顔で言われてしまうことを業界の人々はいまとても心配しているというわけだ。

30年ですっかり変わった賃貸不動産業界

それでも、事実をいえば、賃貸仲介業界は、悪しき問題も見られた過去からは目覚ましく変わっている。もっとも大きな変化は、彼らが、客である入居希望者の気持ちに寄り添うようになったことだ。

CS(顧客満足)を重視する意識が、この間大いに浸透した。そのため、窓口スタッフの言葉遣いからして、いまは過去とはまるで違っている。このことについては、荒々しい時代が過ぎ、人々が優しくおだやかになってきたこともあるが、賃貸管理会社が成長したことも要因として大きい。

管理会社がオーナーの、仲介会社が入居希望者側の、それぞれのベネフィットにより傾斜するポジショニングが生まれたことにより、仲介側における、いわゆる窓口レベルが上がったことも、大いに指摘できるポイントだろう。

そうした意味では、今回、重大な事件の容疑者を出してしまったエイブルも、業界の地位向上にあって果たした役割が大きかった1社だ。

「従業員は入室を控える」については、混乱の中、難しい条件を自らに課してしまったのかもしれないが、試行錯誤のよいきっかけにはなるだろう。

今回の「コロナ」対応で、貧困者へのサポートなど、総じて社会性の高まったところを見せた家賃債務保証業界。賃貸不動産経営管理士の国家資格化などによって、社会的責務が一段と増した賃貸管理業界。

これらとともに、賃貸仲介各社も、社会の幸福の底上げのために、より一層努力をかさねていってほしいものだ。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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