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新築マンション価格1億円を突破――その影に日銀とメジャーセブンがあり?

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「MAJOR7(メジャーセブン)」ホームページ 撮影/編集部

マンション探しで出てくる「メジャーセブン」とは何だ?

不動産経済研究所によると、東京23区内で4月に販売された新築マンションの平均価格は1億180万円と1億円を突破した。

今年4月はたまたま高額物件の発売が集中したという特殊要因があるが、前年の2020年4月と比べても43%も上昇した。平均価格の1億円超えは20年1月(1億511万円)以来で、91年のバブル経済崩壊後では2度目となった。ここまで価格を高くした立役者は「メジャーセブン、日銀、それにコロナ、新富裕層」の4者によるところが大きい。

このうち、高価格形成に最も早い時期からから「貢献」したのが、「メジャーセブン」だ。

メジャーセブンとは、「大手不動産会社7社が提携し、豊富な新築マンション販売情報と、マンション選びに役立つ様々な関連情報を提供する新築マンションポータルサイト」のことで、このサイトは2000年4月に開設された。ネットなどで分譲マンションを探している人であれば、1度や2度は「メジャーセブン」の説明や比較などで、このポータルサイトを見た人も多いのではないだろうか。

 そうしたメジャーセブンを紹介したサイトなどでは、「大手だから安心」「信頼性が高い」と評価も高い。とはいえ、19年の台風19号による豪雨では多摩川が溢水、タワマンで人気の川崎市の武蔵小杉一帯では、メジャーセブンのマンションも停電や断水、地下浸水など生活機能のマヒが起こり、こうした「安全・安心」も一時的に揺らいだ。

その7社とは住友不動産、大京、東急不動産、東京建物、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンスである。有り体にいえば、この7社の新築分譲マンションを「MAJOR7」と名付けて差別化、ブランド化を図ろうということらしい。

とはいえ、単に各社が自社物件をサイトに集めているというだけではなく、運営組織もあるようで、その住所は不動産情報検索大手、LIFULLと同じ。また、問い合わせのメールアドレスも「@LIFULL.com」になっている。

マンション業界の栄枯盛衰に見るメジャーセブン

そんな“ハイソ”なイメージのメジャーセブンだが、サイトがオープンした当時は華々しい感じではなかった。2000年というと、1990年代の不動産バブルの処理(不良債権問題)が終わらず、大手金融機関やゼネコンの連続破綻で市場が冷え込んでいた時期にあたる。90年代の終わりには“マンション不況”という言葉もあったほどで、マンションデベロッパーは厳しい状況にあった。

実際、2000年の首都圏のマンション平均価格は4034万円で、価格は底をはっていた。それでも業界としては大手の寡占は進んでおらず、首都圏の供給戸数は9万5000戸、全国の供給戸数では18万戸を超えていた。この戸数は近年の2倍程度になる数字。まさにマンション業界はミレニアムの2000年に向けて生き残りをかけていた。

資料としては古いが、そんなマンション業界の栄枯盛衰を感じさせる資料がある。

不動産経済研究所の「全国マンション市場40年史」(1973年~2013年)によれば、1973年第3次マンションブームのころのマンション供給ランキングのトップ10ではメジャーセブンの三井不動産が10位、18位に三菱地所の財閥系2社があるだけで、実は7社はマンションの一定の供給ができないノウハウ不足の「マイナーセブン」だった。

上位に名前を連ねるニチメン、日商岩井、丸紅、蝶理、住友商事、トーメンという商社が多いのは「商社冬に時代」に対応した新規事業としてマンションに進出してきたことがうかがえる。

ランキングにある会社の中には、今では事実上経営破たんした会社や社名の変わった会社もあり、上位20社のうち、半数以上がマンション供給事業から撤退している。ちなみに藤和不動産は、73年時点では下位にあった三菱地所にその後、吸収(救済)されている。

【表1】1973年事業主別供給ランキング(全国上位20社)

出典/不動産経済研究所「全国マンション市場40年史」

この時代、供給数首位になったことがある野村不動産や住友不動産、また30年近く供給数で首位だった大京といったメジャーセブンのメンバーの名はない。ちなみに、大京はマンション事業主別発売戸数全国第1位になるのは78年のことで、90年代以降、徐々に経営が厳しくなり、銀行から債務免除を受け、さらに2005年にオリックスグループの傘下に入って、現在も親会社の意向などによって供給量を絞っている。

2008年からの世界金融危機(リーマン・ショック)で、新興や中堅のデベロッパーが相次いで行き詰まり、上場企業も含めて10社近くが事実上、マンション市場からの撤退や休止、身売りを余儀なくされた。これによって供給者が減り、都市開発など他の儲かる事業も得意な総合不動産会社の独断場になり、ほぼ寡占的な市場が成立した。

直近の2020年の供給トップ10の顔ぶれは、①プレサンスコーポレーション、②野村不動産、③住友不動産、④三井不動産レジデンシャル、⑤エスリード、⑥あなぶき興産、⑦大和ハウス工業、⑧三菱地所レジデンス、⑨日鉄興和不動産、⑩東急不動産と、メジャーセブンといっても、東急不動産は10位で、大京は18位、東京建物は20位にも入っていない。

1位のプレサンスコーポレーションは(関西系)、あなぶき興産や穴吹興産は四国・西日本系で、首都圏の人にとっては馴染みのない会社だろう。

【表2】2020年売主・事業主別発売戸数(全国上位20社)

出典/不動産経済研究所「2020年の全国マンション市場動向」

メジャーセブンの強さの源泉はどこにあるか

メジャーセブンにとってのライバルは同業だけではなく、そのときどきによって変わる。

インバウンドブームの時期は、都心のマンション適地は、ホテル事業地と競合することが多かったが、新型コロナによってホテル用の土地取得は下火になり、一時期ほどではなくなっている。その一方で、コロナ禍によるテレワークと巣ごもりといったことを背景に郊外のマンション適地が、EC(通信販売)の物流施設や配送拠点の用地と競合。ここで新たな競争が起きているといった具合だ。

それでも日銀の超金融緩和で不動産事業への融資額は史上最高水準にあり、メジャーセブンの中でも土地購入に競り負けないのが、財閥系の三井、住友、三菱といったところ。しかも、この3社は土地を高値で買っても、そのブランド力で強気の価格でも売れる。資金力もあるため、売れ行きが悪くても値引きせずに在庫を長期にわたって抱える体力もある。

加えて、五輪や再開発ブームで建築費が上昇したものの、大手デベロッパーのメジャーセブンはマンション建設工事でもゼネコンとの価格交渉力は強い。逆にゼネコンやマンション建設最大手の長谷工コーポレーションや大手ゼネコンの尻をたたけば、土地情報も入ってくるという塩梅なのだ。

日銀と二人三脚? 低金利政策がもたらすもの

こうしたメジャーセブンの“強い追い風”になっているのが日銀の低金利政策だ。

ご存じのように、日銀のマイナス金利政策(長期金利の指標の10年国債の利回りのマイナス化を目指す)で、長期金利が指標になる住宅ローンの金利は大きく下がっている。さらにローン金利のもう一つの指標の短期プライムレートも低いので、変動金利の住宅ローンの金利は年1%割れも珍しくない。

だから、強気な価格設定のメジャーセブンの物件が買いやすいというわけではない。こうした低金利がメジャーセブンのブランド力、収益性をより高くしている。

つまり、低金利によって住宅ローンの金利負担が少なくなって返済総額が抑えられる。その分をマンション価格に載せても購入できるため、マンション価格のレンジが高くなり、それが高級化によるブランド力、収益率を高めるというわけだ。


メジャーセブンの“強い追い風”になっているのが日銀の低金利政策 撮影/編集部

なかでも大企業の正社員同士の夫婦(世帯年収2000万円超)にとっては、こうした低金利下では、中古になっても資産性が落ちないメジャーセブンの物件は住み替えを考えた、場合によっては転売目的で購入するには魅力ある物件だ。

加えて、裕福な高齢者が相続税対策のためにメジャーセブンの得意客となり、こうした「新富裕層」がメジャーセブンのブランド力を強化しているのである。

【グラフ】メジャーセブンの供給戸数とシェアの推移(首都圏)

出典/不動産経済研究所

その裏では住宅購入層の所得による物件価格の二極化を生み、資産性が維持できない物件を量産しているという側面もある。

冒頭に指摘したように、20年の23区のマンションの平均価格は2度も1億円を突破した。これまでの金融緩和に加え、新型コロナ対策の過剰な金融緩和で、有り余るマネーはますます資産価値の高い都心のマンションに注ぎ込まれる。富裕層にとっては、株高の資産効果で金融資産が増え、不動産投資も積極化、高額化する。

不動産経済研究所によると、20年度の首都圏の坪単価は90万円を超え、バブル経済ピークの90年度に迫る2番目の高い水準になっている。

インフレ率2%を目指した日銀の低金利政策だったが、この目標を今なお達成できずにいる。しかし、マンション価格に限っては目標達成どころか、マンションの平均価格を億ションへと押し上げた。

そればかりか、今の日銀は超金融緩和で、ローンの金利を下げているだけでない。

金融市場で、国債、社債、リート(J-REIT)、株(ETFなど)の「4点セット」で大量に買いまくる世界で唯一の、そして史上初の稀有なマンモス中央銀行(主要国における対GDP比の中央銀行資産残高において)となった。

メジャーセブンにとっての追い風はまだある。株高などの「資産効果」により、金融資産も増やした富裕層が住宅や不動産投資に前向きになっていることだ。

メジャーセブン7社が日銀から受ける恩恵は、①主要225社(日経平均)に選ばれた銘柄なら自社の株価が安定する、②傘下にリート投資法人があれば、日銀に自社系列リートを買ってもらえる場合もある、③自社の社債も買ってもらえる可能性がある、④日銀が株高、リート高を演出し、その結果生まれる「資産効果」でマンション購入予備軍も増える、などなどメジャーセブンは笑いが止まらないわけだ。

メジャーセブン内で差が出る理由は何か

こうした追い風に乗るメジャーセブンだが、メジャーセブン内にも優劣がある。

その差は主要都市の再開発に関われるか否かによる。こうした再開発には補助金が付きものだ。例えば、東京都心の大手町・丸の内・日本橋・八重洲などで超大型再開発では、1つの再開発プロジェクトで公共的施設の整備など公共貢献をすれば、100~200億円規模の補助金が出ることは珍しくない。この金額は、文化庁の重要文化財保全のために出されている補助金予算を大きく上回る規模なのである。

そのうえ、こうしたプロジェクトでは、容積率ボーナスも得られ、さらに高いビルが建てられる。これに住宅(マンション)を組み合わせて、上に延ばして戸数を増やせば収益性は飛びぬけて高くなる。これこそが雨後のためのタケノコのようにタワマンが次々と建つカラクリの1つで、その結果が供給戸数の差となり、東京建物や大京の順位が他のメジャーセブンと水をあけられている理由になっている。

現在、東京東部の下町に限っただけでも再開発プロジェクトは中央区/月島、江東区/亀戸、江戸川区/小岩・平井、葛飾区/立石、北区/十条などがあり、いずれも昭和の佇まいを今に伝える街並みが残る地域だ。こうした地域で進むジャーセブンも高層住宅建築と再開発は防災・不燃化・道路拡幅事業が再開発事業等とセットで行われている。

そして、メジャーセブン各社は「素敵な新築マンションライフ」「街づくりに貢献」をPRしているがその裏では、「古い町壊し」や「文化財壊し」と地域住民の反発を受ける場合もある。

本来、日銀の低金利政策は住宅ローン金利も下がり住宅購入がしやすくなるはずが、逆に物件価格を押し上げ、新しい街づくりの再開発はどこも似たようなコンセプトで、古い街並み、地域文化の消失を招く結果に――。

日銀とメジャーセブンをはじめとした大手デベロッパーの動きを見ていると、「つくっては壊す」を繰り返す日本の住宅政策の貧しさを感じざるをえない。

 

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この記事を書いた人

経済アナリスト

マクロ経済面から経済政策を批評することに定評がある。不動産・株式などの資産市場、国や自治体の財政のバランスシートの分析などに強みを持つ。著書に『若者を喰い物にし続ける社会』(洋泉社)、『世代間最終戦争』(東洋経済新報社)、『地価「最終」暴落』(光文社)などがある。

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