土地は有利な資産か? 土地白書「土地問題に関する国民の意識調査」に見る2019~2020年にかけての異変
朝倉 継道
2021/07/02
イメージ/©︎jjesadaphorn・123RF
混沌としてきた土地への価値観
「土地は預貯金や株などに比べて有利な資産か?」
この質問に対して、約5割にのぼる人が「どちらともいえない」「わからない」と答えている。すなわち、土地への価値観がいま混沌としてきている……。そんな状況を示す数値が、国土交通省が6月15日に公表した「令和3年版土地白書」に採り上げられている。詳細を見てみよう。
「あなたは、土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産であるとお考えですか?」
出典/国土交通省「令和3年版土地白書」を基に作成
ご覧のとおり、「どちらともいえない」と「わからない」を合わせると、49.8%の高い数値となる。なお、このデータの出典は、同省が昨年12月から今年2月にかけて調査、分析をした「土地問題に関する国民の意識調査」の結果となっている。
過去にはない結果
そして注目したいのは前回調査と比べての変化だ。
「どちらともいえない」は前回に比べ10ポイント近くの増加。「わからない」にいたっては、大幅に増えるとともに数値が前回の3倍まで一気に伸びている。その割を食うかたちで「そう思う」「そうは思わない」の意思明確派が、大きく減少している格好だ。
ちなみに、当調査は1993年度分から実施されている。以降、回数は28回を数える。そうしたなか、「どちらともいえない」は前回までに最高で25.6%にまでしか伸びたことがなく(14年度)、「わからない」も10.6%までしか伸びたことがない(04年度)。
過去にはない異様な数値を示したのが、20年度の結果ということなる。
異変はコロナ前から前からあった
この原因として、すぐに思い浮かぶものといえば「新型コロナウイルス」の影響だ。「コロナ禍」により生じた国内各地においての土地価格の下落が、大きく影響していると見るのは揺るがぬひとつの正解だろう。
ただ、どうもそれだけではない様子もある。
どういうことかというと、実は、コロナの影響を受けていないはずの前回調査(アンケート実施期間19年11月~12月)の数字からして、すでに過去とは様相が異なっているという現実がある。
前ページ「あなたは、土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産であるとお考えですか?」の表をもう一度みていただきたい。前回調査では、この問いに対する「そう思う」の答えが初めて3割を切り、それまでの過去最低(27.1%)の数値に。さらに、「そうは思わない」が初めて45%を超え、それまでの過去最高(45.3%)の数値だったのだ。
これが前回調査における“異様”な結果だ。つまり、今回分(20年度調査)に先駆けて、すでに「事件」は起きていたということになる。
土地は役立ててこそのもの
そこで、次の表を見ていただきたい。おそらく以上のことと関係が深いだろう。
質問は、「土地を資産として有利と考える理由は何か?」となっている。さきほどの「土地は有利な資産か?」で「そう思う」を回答した人に尋ねた、その結果だ。
出典/国土交通省「令和3年版土地白書」を基に作成
1位は「土地は生活や生産に有用だ(役に立つ)」となっていて、これは、土地に関し、これを継続的に活用しての実益的価値を重視する考え方を示している。いわゆるキャピタルゲイン(売却益収入)を期待する方向性とは異なるものだ。
そこで、興味深いのは、この答えにおける最近の推移となる。
このとおり、ここ2年間で割合が急上昇している。なお、これ以前(95~17年度)においては、20%を超えたことは1度しかない。(14年度・20.9%)
すなわち、ここでもやはり「異変発生の19、20年度」が成立するといってよいだろう。
何かが動き出した? この2年
以上、まとめるとこうなる。
国交省の「土地問題に関する国民の意識調査」に表れているデータの推移から見られる状況に限っていえば、この19年、20年というのは、おそらく、何かが動いた時期とみていい。
この間、われわれ日本人の土地に対する意識においては、
・その価値の持続性に関する迷いや困惑、もしくは不信
・所有価値から利用価値への明確な意識のスライド
これらが急激に表れたようにも感じられるし、あるいは、そうした新たなフェーズの始まりが示された可能性も感じられる。
加えて、こうした動きについては、新型コロナが途中から拍車をかけたようにも思われるし、あるいはコロナがなくとも結局のところ、同様の傾向が浮かび上がっていたようにも思われる。
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。