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春になると自殺者が増える!?――薬を使わずメンタルを整えるためによい方法は

遠山 高史遠山 高史

2021/03/23

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イメージ/©paylessimages・123RF

季節の変わり目は要注意

最近急に暖かくなってきた。都内では桜が早々と開花し、湿気を含んだ風が吹くようになった。こぶしの花はすでに満開で、菜の花の黄色が、畑を縁取っているのを見ると、気分が高揚する。春は待ち遠しいものであるが、生き物にとって、境目の時期であり、環境の変化に合わせて身体を調整せねばならないときでもある。

毛のある生き物が、冬毛を捨てるのもこの時期が多い。猫を飼っている方は、毎年、春先の抜け毛に苦労されていることだろう。人も同じように、環境の変化に合わせるべく、体内の働きを変化させなければならない。

そのためか、春先に体調を崩しやすいというデータがある。自殺者が最も多い季節は3月だそうだ。暖かくなってきたからといって、手放しでは喜べない。原因は明確にされてはいないが、免疫や自律神経のバランスが崩れるからというのが理由の一つとされている。
 
刻々と変化する環境に適応するために、身体は結構頑張っている。それに加えて現代人は、しなければならないことだらけだし、ストレスのもとはそこかしこに転がっている。季節の境目は行事も多いから、心身ともに付加がかかり、メンタルの不調を訴える人も増える。

月別自殺者数の推移

出典/警視庁自殺統計原票データ

スポーツジムは「適度な運動」に足りない?

予防策としては、規則正しい生活をし、適度な運動をするということにつきる。下手な投薬よりずっと効果的なのだが、忙しい現代人にはなかなか支持されないのがつらいところである。

外来でよく、軽く運動をするようアドバイスをするが、「ジムに通っている」と返されることもしばしばある。が、ジムでは不十分だと思っている。

自律神経を適切に機能させるためには「外」がいい。会社帰り、深夜に蛍光灯の下でトレーニングするよりも、太陽の光を浴びて、田舎道を散歩する方が生物として自然である。

個人的には、特に農作業をおすすめしたい。数年前から、農園を運営している。引退した農家の知人から借り受けている土地で、季節の野菜を栽培しているが、土に触れていると、それだけで気分がいい。

土いじりに、抗ストレス作用があるというのは以前から知られていたことであるが、最近、土壌に生息する細菌には、抗炎症や免疫調節などにも効果があることが確認されたそうだ。

実際、畑で土を耕していると、些細な悩みなどはどうでもよくなってしまう。野鳥が虫を追うのを見るのも楽しい。何より、農作業で身体を動かした後は、ほどよく疲労していて、よく眠れる。

昔の人は意識せずとも土と共にあったから、わざわざ土壌菌は健康にいいぞ、というようなことを説明する必要はなかったし、春先に鬱々とすることも、なかったのではないだろうか。

ベランダでもできるメンタルヘルス

名医というものは、むやみに薬を出すものではない。むろん私も(手前みそだが)、無駄な投薬はしない。よく患者さんから、薬を出して欲しいと言われるし、必要があると判断すれば、もちろん処方するが、昨今、不調があれば、薬を飲めば治ると信じている人が多いと感じる。これは危険な考えである。

懇意にしている製薬会社の営業にはとても言えないが、薬などは、できれば飲まないほうがいいに決まっている。土をいじって、改善するものならば、これほどよいことはない。

コロナの脅威はいまだ去ってはいないが、野外なら感染のリスクも少ない。農作業とはいかなくても、ベランダに花を植えるところから始めてはどうだろうか。もう少し欲を出して、菜園を作ってもいいだろう。春は、待ち遠しい、喜ばしい季節であるべきで、部屋に籠って悶々としていてはいけない。

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この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

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