コロナ禍でも倒産件数は史上2番目の低さ――その背景にあるもの
小川 純
2021/03/04
イメージ/©︎takasuu・123RF
30年ぶりの低い倒産件数
新型コロナの影響で大きく傷ついた経済。2020年の日本のGDPは宣言期間の4~6月期に29.2%減と戦後最悪の下落幅となった。宣言解除後の7~9月期は上向きの転じ、10~12月期も回復傾向は続いていた。
しかし、21年1月7日に関東の1都3県に2回目の緊急事態宣言が出され、その後、13日に大阪府など7つの府県が加わり対象は11都府県に拡大した。2月7日までとされた期間も10都府県は3月7日まで延長された。
問題はこの2回目の緊急事態宣言による経済への影響だ。
日本経済新聞の報道によれば「国内総生産(GDP)の落ち込みは民間エコノミスト9人の予測平均で従来の1.7兆円から、さらに1.5兆円膨らむ。1~3月期の成長率は年率換算で前期比マイナス7.4%と、延長前の予測より3.1ポイント下がる」と厳しいものになりそうで、実体経済への影響が見えてくるのはこれからだ。
こうした厳しい状況下では、企業の倒産も増えそうに思えるが、東京商工リサーチの発表によると、20年(1~12月)の全国企業倒産(負債総額1000万円以上)は、7773件で19年に比べて7.2%減。負債総額では1兆2200億4600万円で、こちらは19年に比べると14.2%減だった。
コロナ禍にありながら、倒産件数が抑えられた背景は、各種支援策に支えられことによる。実際、7月以降の倒産件数は、6カ月連続で前年同月を下回っている。年間を通した倒産件数は18年以来、2年ぶりに前年を下回っており、8000件を下回ったのはなんと30年ぶりのことだった。1971年以降の50年間では、バブル期だった89年の7234件の低さ。負債総額も71年およそ7125億円あまりに次ぐ、44番目の低水準だったという。
企業倒産年 次推移
出典/東京商工リサーチ「企業倒産年次推移」
新型コロナで背中を押されて
しかし、肌感覚としては1月に出された2度目の緊急事態宣言後、街を歩くと閉店を告げる貼り紙をしている飲食店が一気に増えたように感じる。なかでも「この場所で○十年にわたって営業してきましたが……」というように、その地域にしっかりとした商売をしてきたであろう店舗の閉店が増えているように思える。
実際、東京商工リサーチが1月に発表した「2020年『休廃業・解散企業』動向調査」によると、20年(1~12月)に全国で休廃業・解散した企業は4万9698件で、19年に比べて14.6%増。しかも、これまで最多だった18年の4万6724件を抜いて、2000年の調査開始以降最多で、倒産件数とは真逆に数字になっている。
営業年数で見るともっとも多いのは10年以上20年未満の21.6%。次いで、20年以上30年未満の15.5%と、スタートアップではなく、それなりに営業年数を重ねた企業が多い。
また、休廃業した企業の代表者の年齢を見ると41.7%が70代、60歳以上でみると84.2%と8割を超える。この傾向はここ数年続いており、原因は社長の高齢化と後継者のいないことによる。しかし、20年はこの数字が延びている。ここから想像されるのは。新型コロナが「ここらで終わりにしようか」とこれまで頑張ってきた社長が、この新型コロナに背中を押されるかたちで休廃業に踏み切ったのではないかということだ。
休廃業・解散 年次推移
出典/東京商工リサーチ「休廃業・解散、倒産件数 年次推移」を一部抜粋
飲食業より厳しい業種
新型コロナが広がる要因としてヤリ玉にあげられた飲食業の厳しさについては、さまざまな場面で指摘されてきている。しかし、産業別で見ていくと違った面も見えてくる。
実際、構成比で見ると最多は飲食業や宿泊業、非営利的団体などを含むサービス業で、全体の31.4%・1万5624件、前年比17.9%増だった」。次いで建設業8211件(同16.5%、同16.8%増)、小売業6168件(同12.4%、同7.2%増)と続き飲食業の厳しい状況が見て取れる。
しかし、産業を細分化した業種別で見ると飲食店は1711件/前年比6.5%増、飲食料品卸売業が1002件/同22.6%増と、増加率では飲食料品卸売業のほうが多くなっている。さらに劇団やフィットネスクラブなどを含む娯楽業は425件/同30.3%増、社会保険・社会福祉・介護事業は629件/同13.3%増、織物・衣服・身の回り品小売業は844件/同9.3%増といずれも飲食業に比べ増加率は高くなっている。つまり、飲食業への補償が足りないと批判されているが、それ以上に補償のないそのほかのサービス・小売業の厳しさが浮き彫りになっている。
会社を畳むにもお金はかかる
新型コロナよる企業倒産がそれが抑え込まれている背景はここまで指摘してきたように補償金や無利子の融資制度などさまざまな支援策があったこともある。しかし、それ以上に倒産や廃業ではなく、「休業」というかたちで幕引きを行う会社が増えている一面もあるようなのだ。
そもそも、倒産・廃業と休業はどう違うのか。その違いを見ていく。
まず「倒産」だが、じつはこの「倒産」というのは法律的な定義はない。帝国データバンクは倒産について以下のように定義づけている。
1 銀行取引停止処分を受ける※1
2 内整理する(代表が倒産を認めた時)
3 裁判所に会社更生手続開始を申請する※2
4 裁判所に民事再生手続開始を申請する※2
5 裁判所に破産手続開始を申請する※2
6 裁判所に特別清算開始を申請する※2
※1 手形交換所または電子債権記録機関の取引停止処分を受けた場合
※2 第三者(債権者)による申し立ての場合、手続き開始決定を受けた時点で倒産となる
一方、廃業は会社や個人事業をやめることで、株式会社が廃業する場合は、株主総会で解散を決議し、その際に保有している資産や債権の整理、債務弁済を行わなくては廃業ができない。
廃業をするために具体的な作業は以下のようになる。
1 株主総会での解散の決議
2 解散・清算人選任登記
3 解散の届け出
4 社保関係の手続き
5 解散公告
6 解散時の決算書類の作成
7 解散確定申告
8 債権回収、債務弁済など
9 残余財産の確定・分配
10 決算報告書の作成・承認
11 清算結了登記
12 清算確定申告
このように廃業をするにもさまざまな手続きが必要になる。しかも、登記など費用負担も必要になる。実際の作業にあたっては司法書士や税理士などに依頼すれば、これらの報酬もかかる。
さらに廃業するためには、債務の弁済をしなくてはならない。そのため廃業できる企業は債務弁済ができるわけで、ある意味、優良企業といえるわけだ。
お金のかからない「休業」
しかし、このコロナ禍で廃業に追い込まれている中小・零細企業は違う。
「今、事業をやめようという会社の多くは事業そのものがうまくいっておらず、内部留保もありません。また、債務超過になっている会社も多く、廃業手続きをするには債務整理をしなくてはなりません。仮に債務免除してもらったりすると、逆にその免除が利益になって課税されます。そもそもお金がないから廃業しようというのに、課税されたうえに廃業には手数料がかかるわけですから、法的に廃業しようとは考えませんよね」
こう話すのは都内のベテラン税理士だ。そこで法的な手続きに沿った廃業ではなく、お金のかからない休業を選択する企業が多いという。
むろん、実際に休業する際の手続きもいたって簡単なのである。
法人の場合は、都道府県税事務所、市区町村、税務署それぞれに休業の届出(異動届)を出すだけだ。
「実務的には債務がある場合は、代表者が会社に貸し付けているというかたちにまとめて、会社の資産をゼロにします。場合によっては法人税や消費税といった国に対する負債が残る場合がありますが、これはそのまま放置して、そこで休業させてしまいます」(前出・税理士)
こうして会社を休業させて、何もしなければ法務的には12年でその会社は解散されたものとして登記されるというわけ。つまり、廃業のようにお金をかけずに会社を清算できるのだ。
「税金についても、代表者への借入があるだけで資産ゼロでは差し押さえもできません。結果的にそれも放棄されるということになります。ただ、地方税はしつこく追ってきます。しかし、事業をやっていなと言い続けていれば、これも数年もすれば何も言ってこなくなります」(前出)
しかし、問題になるのはその会社を復活させようという場合だ。何もしていなければ遡って申告をする必要がある。
「許認可などの免許がある場合以外は、そこまでにした会社を復活させることはほとんどないと思いますが、税理士を使って遡って申告すれば、会社を新しく登記するぐらいのお金はかかるので、むしろきれいな会社を作ったほうがいいと思います」(前出)
新型コロナの影響はさまざまな業種の企業に及んでいる。そして、経済統計にはなかなか表れない「休業」というかたちで幕引きをしていく企業がひっそりと、確実に増えている。
この記事を書いた人
編集者・ライター
週刊、月刊誌の編集記者、出版社勤務を経てフリーランスに。経済・事件・ビジネス、またファイナンシャルプランナーの知識を生かし、年金や保険など幅広いジャンルで編集ライターとして雑誌などでの執筆活動、出版プロデュースなどを行っている。