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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#16 新型コロナウイルスで始まる不動産業界の構造変革(2/2ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2020/06/19

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オフィスと住宅 影響の顕在化はこれから

そして不動産の分野でこれから影響が顕在化するのがオフィスと住宅である。商業施設やホテルは今回のコロナ禍の影響を直接被った業種であるが、実はオフィスや住宅についてはこれから半年後くらいに新たな火種になってきそうなのである。

オフィスのテナントの多くは一般企業である。コロナ禍は全業種の業績に大きな影響を及ぼしているので今後業績が悪化した企業から賃料の減額や借りている床の解約が発生することは容易に予測できる。オフィス床を解約するには通常は、解約日の6カ月前に通告しなければならない。したがって今回のコロナ禍の影響が数字として現れてくるのは、今年の秋以降になるだろう。また今年は新築ビルの竣工ラッシュが続くが、入居を予定していた企業のうちの一部が賃借面積を縮小する、あるいは賃借条件を減額するなどの動きが出ることだろう。ここまでは景気悪化に伴ってかつても起こっていた事態だ。不動産会社側も当然ある程度の覚悟をしているはずだ。

ところが今回のコロナ禍はどうもそれだけでは収まりそうにない。オフィスで働くのはその多くが、サラリーマンと呼ばれる事務系ワーカーの人たちだ。彼らはコロナ以前において毎朝毎夕、クソ混みの通勤電車に乗って真面目にオフィスにやってきていた。ところがコロナ禍が続く中で求められたのがテレワークである。初めのうちは経営者や従業員からもテレワークでは仕事がはかどらないとか、社員の仕事ぶりをチェックできない、会議がちゃんとできないなど不安視する声が上がったが、テレワークをやって数カ月、実は多くの会社で「テレワークができちゃったし、意外と良いものだ」という認識が広まりつつある。会社側もある程度の社員については別にオフィスに来なくても会社が困らないことに気付きだしているし、従業員の側からみても通勤せずに家やその周囲で仕事ができるのならば大歓迎といった雰囲気が出てきている。

テレワークは一時的な措置としてやむを得ずスタートした働き方だったのかもしれないが、結果としてテレワークのお試しキャンペーンを全国で行ったことにより、意外にもかなりの企業で、今後も採用していくことになりそうなのである。

このことは将来的に確実に企業が都心に構えるオフィスは必要最小限のもの、例えばヘッドクォーター部分のみを都心に構える程度になることを意味している。

住まいに対する従来の価値観が変わる

さらに今回のコロナ禍が企業経営に投げつけたのが、感染リスクの問題だ。ある会社ではすでに、都心のオフィスのワンフロアで全役員が毎日一緒に仕事を行うのは、いざ感染症が蔓延した場合、大きなリスクになると考えて、オフィスを分散させる方向に舵を切ったという。これまでの東京一極集中、都心であるほどオフィスの価値は高いといった従来の価値観を変える動きとみてよいだろう。

都心のタワマンを無理して買う必要もなくなるか/©︎blueone・123RF 

そして、都心のオフィスに通うことの必要がなくなった事務系ワーカーたちは、今までのように大手町まで40分だの、駅徒歩7分以内、いや5分以内などといった「会社ファースト」の住宅選びをしなくてもよいことになるだろう。

都心のタワマンを無理して買う必要もなくなる。会社の近くだからといって都心の賃貸マンションに高い家賃を払って住む必要もなくなる。東京のサラリーマンであっても、三浦半島に住んで、毎朝サーフィンをしてそのまま自宅や近所のコワーキングで働く。夫婦であれば仕事が先に終わったほうから地元の保育園に子供を迎える。夕方にはもういちど海でサーフィンを楽しむ。こんな生活が可能になるのだ。

毎朝サーフィンをしてそのまま自宅で働くことも/©︎yokokenchan・123RF

時代の変化は、年収の何倍ものお金を、自分が住むためだけの家につぎ込むような馬鹿げた行動も、都心のオフィスを企業としての見栄を張るためだけにものすごい費用をかけて構える行動も、実際には個人や企業になんの利益ももたらしてはいないことに日本人の多くが気付き始めることを意味している。新しい価値観はこれまでの業界ピラミッドを崩壊に導くかもしれない。不動産業界は大きな変革期に差し掛かっているのである。 

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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