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『孤狼の血 LEVEL2』/リアリティ重視の大人向けのエンターテイメントなやくざ映画

兵頭頼明兵頭頼明

2021/08/02

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©︎2021『孤狼の血 LEVEL2』製作委員会

広島の秩序を守るため暴力団、警察上層部を向こうに回す一人の刑事

「続」でも「PART2」でもない、「LEVEL2」とはいいネーミングだ。文字通り、さまざまな面で第一作よりレベルアップしている。

1970年代を席巻した東映実録やくざ映画のテイストを復活させ、ファンを狂喜させた『孤狼の血』(18)待望の続編である。監督は第一作に続き、白石和彌。

舞台は平成3年、広島県の架空の都市・呉原市。呉原東署刑事二課に所属する刑事・日岡(松坂桃李)は3年前に呉原市を拠点とする暴力団「尾谷組」と県内最大の広域暴力団「広島仁正会」の抗争に巻き込まれて殺害された刑事・大上(役所広司)の意志を継ぎ、警察組織と暴力団のいずれからも一目置かれるマル暴=暴力団担当刑事となっていた。

彼は3年前の抗争を手打ちに持ち込んだ仕掛人なのだが、その手段に正当性があったとは言えない。警察上層部が日岡を放置せざるを得ないのは、彼が着実に手柄を上げていたことに加え、警察幹部の知られたくない“情報”を握っていたからである。

大上と同様、日岡は広島の秩序を保つという目的のためには手段を選ばない男であった。しかし、かろうじて保たれていた広島の秩序のバランスが、ある出来事を機に崩れ始める――。

本作『孤狼の血 LEVEL2』最大のポイントは、完全オリジナルストーリーであることだ。映画第一作『孤狼の血』は柚月裕子の同名小説を映画化した作品だが、続編の製作を意識しない作りとなっており、映画版独自の結末が用意されていた。

原作小説には第二作『凶犬の眼』と第三作『暴虎の牙』という続編があり、三部作として完結しているが、映画第一作の結末が原作と異なるため、『凶犬の眼』を映画第二作の原作として使用することが難しい。結果として、本作『孤狼の血 LEVEL2』は原作小説『孤狼の血』と『凶犬の眼』の間に位置する物語として創作されている。

前作でお行儀の良い新米エリート刑事だった日岡は、大上の死後、彼の血を受け継ぎ、見た目も大きな変貌を遂げている。

クール、ワイルド、ダーティ、ハングリーといった形容詞を超越した男の面構えである。松坂の演技は素晴らしいが、彼はまずビジュアル面で最高の役作りを行っている。余談だが、無精ひげを生やし、煙草を咥えた松坂桃李の顔写真一枚のみで構成されている本作の第一弾ポスターは、映画ポスターとして近年最高の出来栄えと言えるだろう。

本作には、日岡の前に立ちはだかり、広島の秩序を乱す男が登場する。映画オリジナルのキャラクターである上林(鈴木亮平)だ。彼は先の抗争で「尾谷組」の一之瀬(江口洋介)に殺害された「五十子会」会長に忠義を尽くしている。出所したその足で、服役中に自分を目の敵にした刑務官の妹に会いに行き、その場で惨殺するというぶちキレた男だ。

桁外れの迫力と不気味さ。鈴木の好演により、上林は日本映画史に残る最高の悪役の一人として長く記憶されるに違いない。

本作は日岡と上林の対決を軸に展開し、アクションシーンも見事だが、見どころはむしろ濃密なドラマにある。秩序を乱す上林、暴走する組員、情勢を探るS<スパイ>、そして、日岡に忍び寄る監察官の影。前作から引き続き登板するメンバーと本作から加わった新メンバーを合わせ、多彩な俳優陣が物語を織りなしてゆく。

果たして日岡は、待ち受ける試練の数々を克服することができるのか。観客は手に汗握り、シネマスコープの大スクリーンを見つめることになる。

コンプライス重視の世の中であってもリアリティを描く

コンプライアンス重視の世の中となり、映画やテレビドラマの世界の登場人物は、すっかりお行儀良くなってしまった。煙草を吸うシーンはほとんどなく、道路に煙草を投げ捨てるなんてことは有り得ない。未成年の飲酒シーンはもちろんご法度。カーチェイスのシーンでも、ドライバーは必ずシートベルトを締めている。そうしなければ、良識派といわれる人々から抗議を受けるし、地上波テレビでの放送が難しくなるからだ。

「車内で煙草を吸っている人相の悪い男。長時間イライラしながら、じっとターゲットが現れるのを待っている。すると男の目の前を、ターゲットを乗せた車が高スピードで通りすぎてゆく。男は窓の外に煙草を投げ捨て、シートベルトもせず急発進する」

いまや、こういった“当たり前の”描写が許されないのである。

その点、本作の監督とプロデューサーは腹を括っている。人はコンプライアンスで動くのではない。感情の赴くままに動くものだ。

第一作はコンプライアンス無視の暴力描写が話題となったが、監督の白石和彌は「こういう時、人はこう動く」という人の感情に即した描写を丁寧に積み重ねているに過ぎない。その積み重ねがリアリティを生み、登場人物の怒りの感情が沸騰点に達した時、過激な暴力シーンが誕生するのである。白石和彌は稀代のエンターテイナーであるが、実はリアリティをとことん追求する映画作家なのだ。

映倫R15+指定(15歳未満は観覧禁止)の大人のエンターテインメントを、劇場の大スクリーンで堪能してほしい。

『孤狼の血 LEVEL2』
原作:『孤狼の血』シリーズ(角川文庫刊)
監督:白石和彌
脚本:池上純哉
出演:松坂桃李/鈴木亮平/村上虹郎/西野七瀬/音尾琢真/早乙女太一/渋川清彦/毎熊克哉/筧美和子/青柳翔/斎藤工/中村梅雀/滝藤賢一/矢島健一/三宅弘城/宮崎美子/寺島進/宇梶剛士/かたせ梨乃/中村獅童/吉田鋼太郎
配給:東映
8月20日より公開
公式サイト:https://www.korou.jp/

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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