部屋を借りるときの書類とお金のやり取りでのトラブルの防止――重要事項説明、入居申し込み、手付金
大谷 昭二
2020/07/31
イメージ/©︎bee32•123RF
アパートやマンションなど家を借りる際には、契約にあたってさまざまな書類のやり取りがあります。
多くの方は次から次へと出てくる書類を眺めながら、先方の説明をなんとなく聞いて、言われるままにサインをしたり、捺印をしているという方も多いかもしれません。その中にはとても重要な、意味のある書類もあります。
そんな契約時の書類について説明していきます。
入居後のトラブルを防ぐために賃貸住宅契約の際の説明と「重要事項説明書」はしっかりと
Q.「重要事項説明書」という書類もなく、説明もありませんでした。そのまま契約しても大丈夫ですか?
A.宅地建物取引業法では、仲介業者は借主予定者に対して、契約前に物件の重要な事項について、宅地建物取引主任者が主任者証を提示のうえで説明することが義務づけられています。
重要事項説明がなく、書類も発行されないというのは重大な業法違反になります。万一、そういう事態が発生したときは、業者に「業法違反である」と通告し善処を求めるべきです。
Q.契約をする際には近くに迷惑施設があることの説明はありませんでした。入居してそうした施設があることを知って、不動産業者に相談したところ「重要事項として説明する項目ではない」という答えでした。これは契約違反にはならないのでしょうか。
A.宅建業法第35条1項によれば、重要事項として説明すべき事項として、登記簿上の権利関係、法律に基づく制限、水道ガス電気などの整備状況、賃料のほかかかる費用についてなど、さまざまな事項について、法律で「必ず説明すべき事項」として定められています。
不動産業者は、法律上明記された項目の中に、「迷惑施設うんぬんという言葉がない」ということで説明しなくてもよいと考えているのかもしれませんが、法律をよく見ると、第47条1項に「重要な事項の告知義務」を定めています。これは、35条の法律上、具体的に明記されている事項以外でも、契約するかどうかを判断するときに大きな材料となる事項については、「重要な事項」として必ず説明しなければならないとされているのです。
たとえば、過去に、自殺や火災などがあった物件については、35条の「重要事項」ではありませんが、47条の「重要な事項」にあたるため必ず説明する必要があります。
そこでご相談では「迷惑施設」とありますが、これにもいろいろなものが考えられます。その中身と距離がどの程度であったかによって、「契約するかどうかの判断材料として重要なポイントになるかどうか」も問題となります。この点で、業者の言い分が正しかったかどうかを見極める必要があります。
「入居申込書」をみたら入居拒否!――どうにかならない?
Q.入居申込書に書いた内容で入居を拒否されました、何とかなりませんか?
A.契約するためには、借主からの「申し込み」に対して、家主による「承諾」が必要ですが、家主が承諾しない場合には契約が成立しません。
日本以外の先進国では、性別・人種・国籍の差別やその他の合理的な理由がないのに入居を断るような場合、民間の家主であっても法律で罰せられるというケースが少なくありません。そうした点で日本では、「契約自由の原則」が強すぎる面もあります。
家主が承諾しない理由にはいろいろなものがあると考えられますが、家主には入居拒否の理由を説明する義務もありません。家主が入居を認めない以上、何ともすることもできないのが現実なのです。
Q.高齢という理由で入居を拒否されました。対応策はありますか。
A.平成13年に「高齢者の居住の安定確保に関する法律」が制定され、高齢者の入居を拒否しない賃貸住宅の登録・閲覧制度や終身借家制度などが誕生し、高齢者に対する一定の保護が前進しました。しかし、いまだに「高齢」を理由とした入居の拒否があとを絶ちません。現状では、家主の「良心」に委ねるほかなく、強制的に入居を認めさせることはできません。
どうしてもその家に入居したいということで家主を説得したい場合には、行政の窓口で相談し、家主への説得を行ってもらうという方法も考えられます。しかし、高齢の方の入居を積極的に受け入れている賃貸住宅を探したほうが、気持ちよく入居できるでしょうから得策です。
高齢者、シングルマザー、障害者の方など国土交通省が住宅確保要配慮者が円滑に入居できる賃貸住宅をまとめた全国のセーフティネット住宅を検索できる以下のところで探すことができます。
キャンセルしたら「手付金」が戻ってこない、戻す方法はある?
Q.仲介業者に手付金として支払ったのですが、キャンセルしたところ手付金が返金されません。
A.本来、手付金を受け取ることができるのは、契約の当事者である家主だけです。
仲介業者が便宜的に手付金を受け取る場合は、家主からの代理権が必要であり家主から手付金の受領を認めるという委任状などを提示する必要があるとされています。
キャンセルをして手付金の返金がされない場合であっても、業者が家主に替わって手付金を受け取る家主の代理権を証明するものを提示すれば、手付金として受領することができます。こうした場合は支払い後にキャンセルしても、解約手付金扱いとなり手付金の返金は不可能になります。
よくあるケースとしては、実際には代理権そのものを得ずに、仲介業者が受け取っているというものです。以前は、仲介業者が代理権なしに便宜的に手付金を受け取ることも慣習として、黙認されることも多かったのですが、最近は、厳密に解釈するようになってきています。
ただ、賃貸借契約そのものが、手付金の授受によって成立するという考え方が多く、仲介業者が預かった手付金が家主の元に届けられ、家主が契約書を発送したことによって契約の着手と考えられるため、手付金は、解約手付金として扱われることになるために返金されません。つまり、仲介業者が預かってから一定の期間が経過すれば、解約手付金として処理されても仕方がないということになります。
ここで問題になるのが「一定の期間」とはどのくらいかということですが、通常は1週間ぐらいが目安のようです。そこで手付金を支払ったあとのキャンセルについては、仲介業者に手付金として支払った場合でも、正式の代理権がなかったとき(支払い時に代理権を証明するものを提示されなかったとき)は、支払い直後にキャンセルした場合は、返金に応じるべきであると解釈されるようになってきています。
いずれにしても、手付金を支払う場合には、「キャンセルする場合には返金されない」ということを覚悟して支払うべきでしょう。なぜなら、手付金を支払えば、借主だけでなく家主に対しても強い拘束力があるからです。安易に「仮押さえ」するつもりで手付金を支払うべきではありません。
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この記事を書いた人
NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事
1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。