ポータルサイトから「おとり物件」がなくならない本当の理由
大友健右
2016/04/25
実際にはない物件を掲載する悪質な「おとり物件」
家探し、部屋探しをするとき、まず不動産のポータルサイトで物件情報を検索するという人がほとんどではないでしょうか。
かつては不動産屋さんの窓に貼ってある広告を見に行ったり、住宅情報誌を買ってきたりして情報を集めていたころを考えると、劇的に便利になりました。なにしろネットにアクセスすれば24時間、いつでもどこでも情報を得られるわけですから。
ところが最近、こうしたポータルサイトの情報のなかに「おとり物件」なるものが掲載されていることが問題になっています。
おとり物件とは、すでに売れてしまった物件情報が削除されずにそのまま掲載されていたり、築年数や価格などの情報を捏造したり、といったものを指します(「かませ物件」、「釣り物件」という言い方もあります)。いずれの場合も、実在しない物件の情報を「おとり」として掲載しているわけです。
実際、誰もが一度は名前を聞いたことがあるような有名サイトが、景品表示法違反で公正取引委員会から排除命令を受けるといったニュースをときどき目にします。
不動産会社が何よりほしいのは来店客
なぜ、そのような「おとり物件」が存在するのか? 理由はひとつ、集客するため、です。
ネットのポータルサイトは、ユーザーと直接不動産物件を取引しているのではなく、間に複数の不動産会社がいて、情報を提供しています。つまり、ポータルサイトは単なるプラットフォームに過ぎないのです。
ユーザーは、興味のある物件を選ぶと同時に、その情報に紐づいた不動産会社を選んだことになります。資料請求をしたり、電話で問い合わせをしたりして、最後に来店するわけですが、この来店客の数を増やすために「おとり物件」が使われるのです。
「すみません、あの物件はすでに成約済みになってしまいました。そのかわり、こんな物件があります…」
と商談を進めれば、「おとり物件」の存在は立ち消えになり、誰も咎める人はいないでしょう。
そんな騙し討ちのような手法を使って集客しなければならないのは、不動産会社同士の競争が激化しているから。来店するお客さんをどこの会社もノドから手が出るほどほしがっているのがいまの状況です。
ツケを払うのは一体誰なのか
「おとり物件」に釣られたのだとしても、結果的に気に入った物件に出会えるなら、それでもいいじゃないか。そう考える人もなかにはいるかもしれません。
しかし、話はそう簡単なものではありません。不動産会社は、ポータルサイトに情報を掲載する際、広告料を支払います。現在、ネット上にどれだけのポータルサイトがあるかを具体的に語ることはできませんが、「掲載物件数No.1」とか、「ユーザーアンケートの評価No.1」といったキャッチフレーズを掲げる大手サイトのほか、中小規模のサイトを入れるとかなりの数に上るでしょう。
したがって、不動産会社がそうしたポータルサイトに支払う広告料はかなりのものになるはずです。
広告料の支払い額がかさめばかさむほど、不動産会社の儲けは薄くなります。その結果、仲介手数料だけではやっていけなくなり、大家さんが支払うAD(広告料)の額はどんどん大きくなっていきます。
そうした支払いは、当然、大家さんのフトコロを圧迫することになりますが、いまは簡単に家賃を上げることもできず、敷金・礼金といった初期費用もできるだけ抑えるのが当たり前の流れになっています。
しかし、大家さんも経営を成り立たせなければいけません。結局、そうした大家さんの負担は、最終的には入居者へのしわ寄せとなって現れることになります。つまり、ポータルサイトのユーザーである消費者も割を食う形になっているのです。
ネット化して便利になった反面、ポータルサイトは不動産会社の集客合戦の場となり、見えない形でユーザーに負担を与えているのが実態なのです。
今回の結論
●「おとり物件」とは、すでに成約してしまった物件情報を削除せずに掲載されているもの、築年数や価格などを好条件に偽ったものを指す。
●「おとり物件」が横行しているのは、不動産会社の集客合戦が激化しているから。
●広告料はかさみ、最終的にツケを払わされるのはユーザーである。
この記事を書いた人
株式会社ウチコミ 代表取締役 株式会社総研ホールディングス 代表取締役 株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役 1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち、大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。 現在、株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役として、住宅リフォームを中心に事業を展開。また、株式会社ウチコミ 代表取締役として、賃貸情報サイト「ウチコミ!」を運営。入居の際の初期費用を削減できることから消費者の支持を集める。テレビ・新聞・雑誌などメディア出演も多数。