ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

居住用賃貸で「SOHO」している入居者が勝手に会社を設立 これって契約違反・法律違反?(2/2ページ)

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

背信行為ではなく、信頼関係も破壊しない

結局のところこのケースでは、もしもオーナーとAさんが争っても、結果として契約解除は認められないはずだ。

そのことは、最高裁判決も含む過去のいくつかの判例によって、実は明確に示されている。

すなわち、Aさん言うところの「業務の実態はこれまでと全く一緒です」が正しいとして、たとえAさんの行為が契約違反にあたり、さらには法律違反であると認められたとしても、それは契約相手であるオーナーに対し、「背信的行為をしたと認めるには足りない」ものとして扱われる。

なぜならば、建物賃貸借契約にあっては、借主に契約上などでの違反があったとしても、そのことをもって直ちに契約解除とはいかないケースが多いのだ。

この場合、解除を成立させるには、貸主・借主間における信頼関係の破壊、もしくは信頼関係が破壊されるおそれがあると認められなければならない。

これは、いわゆる「信頼関係破壊の法理」などといわれるものだが、それが今回の事例でも厳粛に適用されることとなるわけだ。

「オーナーの気持ちも多少解らないではない。だが、Aさんの業務実態はこれまでと全く一緒とのこと。つまりオーナー側に新たな損害は生じないと予想されるのに、入居者が退去を求められるほど信頼関係が破壊されたと見るべきだろうか。今回はちょっと無理があるね」

そんなところだ。

居住用の実態を守るべし

そうしたわけで今回の事例では、オーナーはたとえ部屋の継続使用を認める以前の段階であっても、Aさんを部屋から追い出すわけにはいかなかっただろう。

一方で、Aさんとの間では、今後注意しておきたいことがある。それは、この部屋が「あくまで契約内容のとおり居住用としてAさん個人に対し賃貸されているものであって、住居としての使用がその主たる目的である」――とのかたちを崩さないことだ。

なぜなら、例えばAさんが別に住まいを構えるなどしてそこが崩れ、部屋が会社の事務所や作業場である色合いが濃くなってくるなどすると、話が結構ややこしくなる。

すなわち、物件の利用実態に即したかたちで、家賃に対する消費税の課税判断や、火災保険における適用基準のあれこれ、さらには建築基準法上の解釈等、さまざまな方面に影響が生じ、波及していきやすくなるからだ(そうなる場合は必ず関連各所への相談を急がれたい)。

よって、そうした意味からは、今回のAさんによる郵便受けとドア横への社名の表示についても、Aさんいうところの「苗字・社名併記」の現状を今後もしっかりと維持してもらうのが望ましいだろう。それによって、居住用であるはずのこの部屋が事務所専用で使用されているのでは?等、周りから無用の疑いをかけられる可能性は幾分か下がるはずだ。

なお、仕事が軌道にのっているとのAさんの話を聞くに、そのほか心配されるのは、今後来客が生じたり、増えたりした場合の騒音トラブルだ。

仮にAさんが人を呼ばなくとも、部屋が商業登記され、住所が公開されると、不意の訪問者が増える可能性もある。

そうした対応については、契約に新たに特約を盛り込むほか、周りの部屋とのコミュニケーションの徹底をAさんには図ってもらうなど、事前にケアしておくのがもちろん得策となるだろう。

【この著者のほかの記事】
賃貸の入居者にも相続対策は必要? 知らない人も多い「賃借権は相続される」の事実
「建て替え~退去」を契約書で約束してもダメ 老朽化物件を貸す場合の大事な留意点とは
同じ条件なのに周りの部屋の家賃が自分の部屋より安い…そんなときどうする?

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

ページのトップへ

ウチコミ!