賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

ウチコミ!タイムズ

銭湯とのコラボで風呂なし物件が人気? 風呂なし物件専用サイトに集まる人たち

小川純

2021/01/06

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

写真提供/東京銭湯ふ動産

銭湯と不動産のコラボ 新しい生活スタイル

銭湯でのんびり入浴を楽しむ人がここ数年増え、1つのトレンドになっている。この傾向は東京が強く、各地の銭湯巡りをする人も多い。その理由として、平成から令和の御代に変わり、銭湯に残された昭和のアナログな面影にレトロモダンを感じるから。また、銭湯では、誰もが裸、そこでは服を身にまとい着飾る必要もなく、見栄や、肩書き、地位も関係ない。だれもが「風呂」でくつろぐそうした銭湯を心地よいくつろぎの空間と感じるのかもしれない。

実際、営業回りのサラリーマンが、訪れた街で銭湯を見つけると、仕事そっちのけで風呂に入り、湯上がりに一杯という銭湯&グルメドラマ『昼のセント酒』(2016年テレビ東京系)や『おふろやさん日和』『のの湯』といった銭湯をテーマにしたドラマが製作され動画配信サービスなどで人気なのだ。また、GoToトラベルでも、星野リゾートが、東京・大塚にある「星野リゾートOMO5東京大塚」に宿泊して、地元の銭湯に入って食べ歩きをするプランを発売するなど、銭湯がクローズアップされている。

とはいえ、総務省の「平成20年住宅・土地統計調査」によると、浴室保有率は持ち家で99.3%、借家で97.2%で、昭和56年以降建築された住宅では99%以上とほとんどが浴室のある住宅だ。そのため全国的に銭湯の廃業が進んでいるのも事実。

根強い人気がありながらも、苦境にあえぐ銭湯を“風呂がないんじゃない、銭湯があるんだ。”という言葉をキャッチフレーズに、あえて東京都内の風呂なし賃貸物件情報を集めて紹介しているのが「東京銭湯ふ動産」というサイトだ。


東京銭湯ふ動産

「銭湯はお客さんが来なくなってしまえば潰れてしまうので、近所の銭湯に行く常連さんを1人でも増やせば、銭湯の助けになるんじゃないか、そんな思いで始めました」 

こう話すのはサイトの管理を行っているフィールドガレージの鹿島奈津子さん。鹿島さんがサイトを開くきっかけも、鹿島さんの銭湯好きが高じた結果だったという。レトロなものが好きという鹿島さんにとって唐破風屋根の古い銭湯の佇まい、浴室内の高い天井、脱衣場、タイル張りの浴室など使い古された感じは堪らなく、銭湯巡りが趣味だったという。

意外な盲点に活路 都心の風呂なし物件

15年ごろWEBサイトで銭湯のレポートなどを書くボランティアライターの募集があったことから、それに応募した鹿島さん。そこで銭湯好きの人たちと接するなかで、自分も仕事を通じて銭湯を応援できることはないかと考えたという。

「私が勤めるフィールドガレージという会社は住宅、店舗、オフィスの設計やリノベーション、不動産仲介業などを行っていて、私は不動産の仲介営業をしています。そこで不動産を通じて力になれないかと考えたのです。今は内風呂が当たり前なので、銭湯に行かない人が増えてしまった。風呂なしの物件に住む人がいれば銭湯に行くようになるんじゃないかと。そこでレインズ(不動産業者専用の不動産ポータルサイト)などから、風呂なし物件を調べてみると、原宿、渋谷、新宿、高輪といった都心や目黒、祐天寺、自由が丘など人気のあるエリアにも風呂なし物件は意外と多いことが分かりました。しかも、風呂なしということで家賃も相場より2万~3万円安い。それで銭湯と風呂なし物件を見学するツアーを計画したのがスタートでした」(鹿島さん)

早速、鹿島さんがレポートを寄稿している「東京銭湯」という銭湯情報を発信しているWEBサイトでツアー参加者を募集。参加者の反応も良かったことから、16年から18年の2年間で9回の風呂なし物件と銭湯の見学ツアーを実施してきた。毎回のツアー参加者は20~30歳代の人、15人前後が集まったという。

「風呂なし物件は古いものが多いのでどうかなと思いましたが、実際に物件を見てもらうと、『この場所で、この家賃ならアリだよね』という反応が多く、風呂なし物件でも興味を持ってもらいました」(鹿島さん)


ツアー参加者を案内する鹿島奈津子さん(右)/提供 東京銭湯ふ動産

とはいえ、このツアーで実際に成約にまで至った例はなかった。しかし、ツアー参加者の反応から手応えを感じ、WEBで展開すれば可能性があると、東京銭湯ふ動産のサイトの立ち上げに至ったというわけだ。

また、サイト立ち上げには不動産仲介をやっている鹿島さんならではの考えもあった。

「今や不動産業者、部屋探しをされる方は、お風呂は付いていて当たり前です。不動産業者にとっては、風呂なし物件は家賃が安く手数料が少ない。営業的には家賃が少しでも高いほうがいいので、借りる人が何も言わなければ風呂付き物件を出してきます」

サイトのオープン当初は、レインズなどから銭湯のある場所の近くにある空室の風呂なし物件を掲載していたが、テレビや雑誌、WEBなどでサイトが紹介され、オーナーからの掲載希望が増えたこともあり、現在はオーナーから掲載希望のあった物件だけを掲載している。

「掲載の条件は、近くに銭湯がある物件ですが、徒歩で15分、あるいは自転車で10分以内が目安です。基本的に風呂なしが条件ですが、シャワーだけはというのも風呂なしとしています。また、歩いて5分以内であれば風呂付きでも掲載しています。大家さんから掲載希望の連絡があると、物件の確認、資料などを受け取りにうかがいます。そのときに物件といっしょに紹介する銭湯に入ってこちらの確認もあわせて掲載しています」


銭湯好きが集まる「出張OFF呂会」の会場/提供 東京銭湯ふ動産


「出張OFF呂会」に集まった参加者/提供 東京銭湯ふ動産

ニッチな物件に好んで集まる人たちとは?

そんな風呂なし物件に住みたいと希望してくる人たちとはどんな人たちか。

「こうしたサイトなので、銭湯が好きという人がほとんどです。年齢的には20~30歳代で、男女比は同じくらいですね。なかには学生や地方から東京に来て家賃の安いところを探して、このサイトにたどり着いた人もいます。皆さんに共通しているのは、引っ越しの際の荷物があまりない人です。トランクとPCだけなんて人もいます。物件の希望はまちまちで、希望の物件、地域エリアを指定される人もいますし、場所はどこでもよいという人もいます。そうした問い合わせの話を聞くなかで、どんな銭湯が好きか、この人ならこの大家さんと相性がよさそうなど考えながら、ご紹介しています」と鹿島さん。

では、風呂なし物件を所有しているオーナー、実際に住んでいる人の感想はどうか。

「風呂なし物件に入居する人は、家賃が安いのでどうしても高齢者や生活保護の方が多くなります。しかし、銭湯好きの人たちは若い人たちなので、大家さんからは若い人が入居してくれたと喜ばれています。大家さんのなかには家賃は手渡しでという人もいて、そうしたことから新たな交流も生まれているのです。また、住んでいる人は毎日銭湯に行くわけですが、若い女性2人で暮らしている人は、銭湯のオーナーのおじちゃんと仲良くなって、今では飲みに行ったりするようになったなど、居住者、大家さん、銭湯と新たな人と人のつながりができています」(鹿島さん)

東京銭湯ふ動産は単なる仲介ではなく、銭湯マッチング、地域の活性化にもなっているようだ。とはいえ、ビジネス的には成り立っているのだろうか。

「ビジネス的にはぜんぜんですね。最初から儲けなど気にせずに始めたので。空き物件に1人入居してもらえば、近くの銭湯の常連さんが1人増えたと思うことで満足しています」と鹿島さんは笑う。

「物件の掲載にかかる費用は無料です。ただ、入居契約が弊社が紹介したお客さんで成約した場合は、借主さんから仲介手数料としてフィールドガレージに家賃1カ月分。大家さんからは情報の掲載料として、東京銭湯ふ動産が家賃1カ月分をいただいています。そのほかの敷金や礼金は入居者と大家さんの間で決めてもらっています」(鹿島さん)

こうした銭湯、不動産がつながることで将来的には何か新しいものに広がればと鹿島さんは期待を持っている。新型コロナ禍の現在、入居可能な登録物件は50件あまり。しかし、「徐々にですが掲載の問い合わせも増えてきている」と鹿島さん。 

風呂なし物件とはいえ、やはり人気のあるなしはあるようだ。問い合わせが多い物件とは一体、どういうものなのだろうか。

「Wi-Fiはあったほうがいいですね。ただ、最近は自分のポケットWi-Fiを使っている人が増えていて絶対に必須ではなくなっています。最近の傾向としては、新型コロナによってリモートで仕事をする人も増えていることから、実際にあった例では自宅は長野で、週に何日か仕事のために都内のセカンドハウスとして、という人もいました」(鹿島さん)

もしかすると、コロナ後は都内の風呂なし物件に人気が集まる可能性もありそうだ。風呂なし物件の今後について鹿島さんは次のように話す。

「私自身が古いものが好きなこともありますが、古いからダメということはないと思います、古いからこそ良いところもあります。その良いところを見つけられるかどうかだと思うのです。東京銭湯ふ動産では、銭湯と風呂なし物件を結びつけることで新しい暮らし方を提案できました。今後もこうした提案をしていければと思っています」

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

編集者・ライター/ファイナンシャルプランナー

週刊、月刊誌の編集記者、出版社勤務を経てフリーランスに。経済・事件・ビジネス、またファイナンシャルプランナー(AFP)の知識を生かし、年金や保険など幅広いジャンルで編集ライターとして雑誌などでの執筆活動、出版プロデュースなどを行っている。 叶舎合同会社の代表を務める。 https://www.kanausha.tokyo/

ページのトップへ

ウチコミ!