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契約書をどう読み取るか(2)――家賃滞納と契約書にない家主からの要求

大谷 昭二大谷 昭二

2020/05/29

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イメージ/©︎123RF

借り主が賃貸住宅を退去する際に、ハウスクリーニングやクロス張替えなどの原状回復費用として敷金が返金されない、敷金を上回る金額を請求されたという相談が寄せられています。2019年に国民生活センターに寄せられた原状回復問題の相談件数は7995件と、いまだに大きな問題です。

ここでは不動産賃貸における敷金・保証金を巡るトラブルの問題解決をQ&A方式で解りやすく解説していきます。

<家賃の滞納>家賃を1カ月でも滞納すれば即刻退去!?

Q.契約書には「家賃を1カ月でも滞納すれば即刻退去させる」と書いていたが、うっかりして家賃を1カ月分滞納してしまったところ、家主から、「契約違反なので、違約金を支払って退去してもらう」という通告を受けてしまいました。契約書に明記されているのであれば、泣く泣く退去するしかないのでしょうか?

A.日本には、「契約自由の原則」(私的自治の原則)というものがあります。つまり、誰と契約しようがしまいが自由であり、契約内容も原則として自由、契約の方式も自由であるというものです。その前提には、独立・対等・平等な市民間においての契約については、できるだけ当事者の自由に任せようという国の判断があります。従って、原則としては、どのような契約も自由であり、契約する際に、署名捺印しているということは、契約事項を承認しているということになりますから、従わざるを得ないということになります。

ところが、居住用の建物の賃貸借契約においては、家主が一方的に定めた契約事項を、借主が承諾するかどうかだけの権利しかないため、もともと対等・平等ではないのです。そのような違いを放置して、当事者の自由に任せておくことは、家主が好き放題の契約を定めることを容認することになり、良好な社会秩序にも悪影響を及ぼすことになります。そこで、いくつかの制限を設けて好き勝手な契約ができないようにしているのです。

1つ目は、借地借家法上の「強行規定」に違反していないことです。契約内容が、借地借家法上の「強行規定」に反している規定は無効であるとされていますので、それに違反していないかどうかが問題となりますが、家賃の滞納については触れられていませんので、この点からは、契約は有効です。

2つ目に、契約内容が公序良俗に反していないかどうかです。「公序良俗」の法律用語としての意味は、「現代社会の一般的秩序を維持するために要請される倫理的規範」とされています。殺人依頼の契約、愛人契約などの誰が考えても公序良俗に反している契約以外でも、男女によって定年年齢が異なるようなケースでも、性別による不合理な差別として、公序良俗違反とされた場合もあります。

そこで、「1カ月の滞納による契約解除」が、社会の秩序を壊すほどの不合理な契約内容かどうかが問題となりますが、人によって判断が分かれるでしょう。逆に言えば、誰が考えても、「公序良俗違反である」とも言えないレベルですので、「公序良俗違反により契約は無効」とは言えないでしょう。

3つ目は、法律用語で言うところの「例文解釈」による契約内容の無効とはならないかという点です。これは、少しややこしいのですが、不動産の賃貸借契約などで、文言どおりに解釈することで、結果があまりにも不当なことになってしまう場合、契約内容そのものを「単なる例文である」として、その効力を否定するものです。

しかしこれまでのところ、短期間の家賃の滞納による契約解除を、「例文解釈」によって無効であると判断されたケースはないようです。

4つ目は、2001年4月に施行された消費者契約法による「消費者の利益を一方的に害する規定は無効である」という規定に違反していないかどうかという点です。この点については、長期的な契約関係を前提とした建物の賃貸借契約において、わずか1カ月分だけの滞納によって契約解除を行うことは、「消費者の利益を一方的に害する」規定だという判断を行うことが可能かもしれません。

最終的には、これまでの判例で蓄積されてきた考え方によって、契約内容を判断することになるでしょう。判例での考え方は、「信頼関係破壊の理論」と呼ばれているものです。

つまり、居住を目的とした長期間にわたる賃貸借契約においては、単に契約違反にあたる事実があるだけでは契約を解除して退去させることができず、「家主と借主との間の信頼関係がなくなってしまった」というような状況になって初めて、家主からの契約解除を認めるようにして、借主の居住権を守ろうとしているのです。

従って、「家賃を1カ月でも滞納すれば即刻退去させる」という契約条項は、「明らかに無効である」とまでは言えませんが、かといって、それだけで適用されるわけではなく、借主に家賃の支払いの資力があるにもかかわらず家賃を滞納し、家主が納めるようになんども督促したのに、数カ月以上も滞納を続け、もはや、借主は、「家賃を支払うという約束を守るつもりがない」と判断された場合、信頼関係破壊となり契約解除の可能性があります。

イメージ/©︎123RF

<家主からの要求>共有部分の掃除を入居者で分担してもうらうと言われた

Q.家主から、「共用部分の清掃を入居者に手分けしてやってもらう」という通告を受けました。契約書にそういうことは明記されていないのですが、家主からの通告には従わざるを得ないのでしょうか?

A.共用部分の清掃や維持管理のために、「共益費」や「管理費」などの名目で、家主が徴収していると思います。一方、「共益費は無料」という場合には、家賃に共益費部分も含んでいると解釈されます。

家主は、家賃や共益費を徴収している以上、入居者に使用収益させる義務がありますので、共用部分の清掃は、家主が行わなければなりません。まして、契約書に記載されていないのに、入居者に清掃を求めるとすれば、家賃や共益費の支払いとの二重負担を求めることになります。従って、家主の言い分は無茶苦茶な要求ですので、従う必要は一切ありません。

しかし、そんな無茶な要求であっても、家主からの要求を受け入れてしまい、共用部分の清掃を行う入居者が出てくると、かえって、入居者間に不協和音を与えてしまうことになり、結果的に、他の入居者も清掃をやる羽目になるかもしれません。

そこで、家主の要求が無茶苦茶であり、家主に従う必要もないので、入居者全員で拒否するように他の入居者に働きかけたほうがよいでしょう。そして、入居者の連名によって家主に対して、「家賃や共益費の負担と合わせて、清掃を求めるのは二重負担になるため、一切拒否する」という通告を行ったほうがよいでしょう。

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この記事を書いた人

NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事

1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。

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