保証会社は「怖い」って本当? 家賃債務保証会社のモヤモヤを解消するためのQ&A
賃貸幸せラボラトリー
2016/11/17
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【2022年5月更新】
賃貸住宅を借りる際、利用がほぼ前提となりつつある家賃債務保証会社。現在8~9割にのぼる物件が、入居者に対し保証への加入を必須としている状況が窺える数字も公表されている。(公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「日管協短観」2020年度下期~機関保証への加入必須割合)
そんな家賃債務保証会社に関する疑問・質問に、この記事では細かく答えていくことにしよう。
1.家賃債務保証会社って怖いんですよね?
家賃債務保証会社って何をする会社?
家賃債務保証会社とは、簡単にいえば、賃貸住宅の入居者の保証人になってくれる会社だ。入居者が家賃を滞納した際、約定された一定の範囲内でこれを立て替え、貸主(オーナー)に損害が出ないようにする。オーナー側にとっては保険的な役割ともなる存在だ。
なぜ家賃債務保証会社が生まれたの?
かつては、賃貸契約の際、入居者は親・兄弟など、親族の中から連帯保証人を立てるのがほぼ必須だった。しかし、賃貸住宅に住む人の高齢化が進んだことや、家族・親族とのつながりが薄い人も増えてきたことなどにより、連帯保証人の確保が難しいケースが増加した。そこで、この連帯保証人に近い保証内容を事業として入居者に提供する、「家賃債務保証会社」が登場した(老舗のひとつJID=日本賃貸保証株式会社は1995年から事業を開始)。さきほど触れたオーナー側のニーズ(保険的役割)にも乗って、その数もどんどん増え続けたというわけだ。
家賃債務保証会社は「怖い」って聞いたけど…?
家賃債務保証会社のイメージが大きく悪化したのが、リーマンショック(08年)直後の時期となる。仕事と収入を失い、家賃を滞納してしまった入居者に対し、一部の会社やその従業員が「留守中に鍵を交換し、部屋から締め出す」「家具などを勝手に外へ持ち出す」「入居者の名前を書いた張り紙を目立つ場所に貼る」などの“追い出し”行為に及んだとされている。また、それらを予告することで、入居者に退去を迫った例もあったようだ。
ちなみに彼らだけでなく、賃貸管理会社やオーナーの一部にも類似の行為はあったようだ。ともあれこうした出来事が、家賃債務保証業界に対する暗いイメージとして、未だ引きずられていることは事実だろう。
家賃債務保証会社は、いまも怖いことをしているのですか?
家賃債務保証会社は全国にたくさんある。また、勤めている従業員も膨大な数だ。なので、すべてを一律に評価できないことは前提となる。そのうえで、現在、多くの会社は紳士的だ。法令や社会的コンプライアンスをきちんと踏まえた業務の遂行に努めている。さきほどのリーマンショック直後の頃に起きたようなことは、もう長く耳にされなくなった。
家賃債務保証会社が紳士的になったのには何か理由があるのですか?
まずは、どんな業界にも見られる時間の経過とともに進む淘汰が、基本的な理由だろう。そのうえで、具体的な動きとしては主に3つある。ひとつは世の中の声だ。述べたような一部の問題行為が、メディアを通して広く報道され世間の反発を生んだ。
次いで、それを主に受けたかたちで、ある法案が国会に提出された。「賃貸居住安定化法案」と、当時呼ばれたものだ。「追い出し規制法案」とも俗にいわれた。内容は、家賃滞納に対する取立て行為を厳しく制限するもので、家賃債務保証会社だけでなく、管理会社やオーナーも対象とした重い罰則が設けられていた(2年以下の懲役、もしくは300万円以下の罰金など)。その後、この法案は廃案となったものの(11年)、条文にあった「貸主側がやってはいけない行為」が、業界には新たな線引き・良識として残った。これが、家賃債務保証会社の多くが紳士的になった2つ目の理由だ。
3つ目は国の主導によるものだ。家賃債務保証業務の社会的な役割を重く見た国土交通省が、業界・業務の適正化を主な目的に「家賃債務保証業者登録制度」を17年に発足させた。それ以前から、業界内では自主ルールの策定による業務の適正運営を目指す団体が生まれるなどしていたが、国が指導への関与を深めたことで、業界全体における健全化の方向性がより強まったといえるだろう。
2.保証料はなぜ入居者が払わされるの?
滞納した家賃を家賃債務保証会社が立て替えてくれたら、入居者はその家賃を払わずに済むのですか?
答えはNOだ。その場合、家賃債務保証会社は、あくまで家賃の支払いを一時肩代わりしてくれたに過ぎないのだ。つまり立て替え払い=代位弁済ということだ。なので、入居者の債務そのものが消えて無くなったわけではない。入居者は、今度はオーナーではなく家賃債務保証会社に対し、立て替えてもらった分のお金をあとで支払わなければならない仕組みだ。
そうなると、家賃債務保証会社の仕事はますますオーナーにとって保険的メリットが大きいものに感じます。なぜ保証料を入居者が払わされるのですか?
多くの入居者が感じる疑問だろう。家賃債務保証会社の存在がオーナー側に与えるメリットは確かに大きい。オーナーはこれらを利用することで、家賃滞納への不安からほぼ解放されることになる。さらに、不動産会社(管理会社および仲介会社)にとってもメリットは多大だ。彼らには、面倒な滞納家賃の回収業務が降りかかってこなくなる。のみならず、入居審査も重要な部分は家賃債務保証会社に任せられるので、「不動産会社は、家賃債務保証会社に頼ることで、入居希望者の質を見極める力を失った。あるいは自ら手放した」という人もなかにはいるほどだ。
だが、経緯はさきほど示したとおりだ。そもそも、毎月多額の家賃の支払いを債務として入居者が背負うことになる賃貸契約では、入居者はオーナーを安心させるため、親などに頼んで連帯保証人になってもらうのが過去よりの常識的な決まりとなっていた。そのうえで、そうした人たちの代わりに保証を引き受けてくれる便利な存在として登場したのが家賃債務保証会社なのだ。つまり、彼らへ報酬(家賃債務保証料)を払い、借りたい物件を借りられる条件を整えるニーズは入居者側にあるというのが、基本的なロジックになるだろう。
では、保証料を払いたくなければ、以前のように連帯保証人を立てればよいわけですね?
もちろん理屈はそうだ。それで「OK」とするオーナーや管理会社もある。だが、それではダメとするオーナーや管理会社も少なくない。なぜなら、賃貸契約における連帯保証人というのは、オーナー側にとって、通常は郵送書類を交わすだけの見ず知らずの相手だ。いざというとき本当に役目を果たしてくれるのか、不安なことも事実であるからだ。それよりは、会社の事業として明文化された保証業務をシステマティックに行ってくれる家賃債務保証会社の方が、頼っていて気が楽だというのは誰もが理解できることだろう。
また、家賃債務保証会社の保証を受けている入居者と、連帯保証人を立てている入居者が、それぞれ契約相手として混在することで、事務的な面倒が生じるのを避けたいオーナーや管理会社側のニーズもなかにはあることだろう。
民法改正が家賃債務保証会社をますます有利にしたという話は本当ですか?
ますます有利に、といえば聞こえは悪いが、20年施行の改正民法は、たしかに家賃債務保証会社にとって追い風になったといっていい。ポイントは「極度額」の設定だ。改正民法は、個人が連帯保証人となる場合、保証する金額の上限を定めることを規定した。これはあくまで連帯保証人を保護するためのものだ。なぜなら、以前の規定(極度額を定めなくてよい)に従えば、連帯保証人の保証範囲はすなわち無制限という、とても怖い話になるからだ。
ところがこれに対し、オーナーや管理会社は逆の反応が起こることを心配した。「極度額というかたちで具体的な金額が書面に書かれ、それが連帯保証人候補となる人をびっくりさせることで、むしろこれまで以上に連帯保証人の確保は難しくなるのではないか。入居者獲得までの手間や障害がかえって増えるのではないか?」と、考えたのだ。これにより、入居希望者に連帯保証人探しを求める必要がなくなる家賃債務保証会社の利用は、オーナー側においてますます加速したかたちだ。
3.保証料を少しでも安くしたい!
私は家賃債務保証会社へ保証料を毎月支払っていますが、知り合いは「年に1度だけ」と。会社によって違うのですか?
答えはYESだ。会社によって違うのだ。例えば、よく見られるパターンを3つ挙げてみよう。
1.定額の保証料1年分を入居時に一括払い。以降、1年ごとに同じ額を支払う
2.定額の保証料1年分と、月額家賃の数十パーセントとなる初期保証料を入居時に一括払い。以降、1年ごとに定額の保証料のみを支払う(初期保証料は入居時のみ)
3.初期保証料(上記)を入居時に一括払い。その後は家賃に上乗せのかたちで毎月分の保証料を支払う
質問者のケースはおそらく3。知り合いの方は1か2に当たっているのではないだろうか。
家賃が高いと保証料も高くなるのですか?
その傾向は強い。なぜならば、もしも滞納が発生し、家賃債務保証会社がこれを一旦立て替えたものの入居者が最終的に債務を果たせなくなった場合、家賃が高額な方が、会社の負担は当然増すからだ。例えば……
入居者Aさん……
首都圏のある街で家賃月額4.5万円の部屋に住んでいる。年に1度ずつ定額の保証料1万円を支払っている。2年住むと総額2万円
入居者Bさん……
Aさんと同じ街で家賃月額10万円の部屋に住んでいる。入居時に初期保証料5万円(家賃の50%)を支払い、さらに毎月1800円(家賃の1.8%)の月額保証料を支払っている。2年間で、5万円+1800円×24カ月=9万3200円となる計算だ。
以上は一例だが、概ね家賃が要因となって、保証料に大きな違いが出ているケースとなる。
私の場合、保証料は定額で1年間1万円のみですが、手数料なるものが毎月330円家賃に上乗せされています。これは何ですか?
質問者は、おそらく家賃を銀行口座からの引き落としで支払っているのでは? なおかつ、支払先(引き落とし名義)は家賃債務保証会社になっているのではないだろうか。この場合、引き落とし手数料などの名目で、数百円程度が家賃に上乗せされることが多くなる。
なお、こうしたケースでは、家賃債務保証会社は「支払委託型」と呼ばれる保証の仕組みを採用しているはずだ。次の質問・回答でそのことを説明しよう。
家賃債務保証会社の主な業務モデル2つについて教えてください。
まずは、直前の回答で触れた「支払委託型」だ。通常この場合、入居者の口座から家賃を引き落とす前に(あるいは引き落とせたか否かにかかわらず)、家賃債務保証会社は、オーナーに対し、家賃分のお金を自ら払い込む約束をしている。つまり、会社は自ら進んで家賃を毎月立て替え払いしているのだ。そのうえで、仮に入居者の銀行口座から家賃を引き落とせなかった場合、そのタイミングで滞納発生となる。そこから対応・処理のオペレーションが始まるかたちだ。
一方、「一般保証型」と呼ばれる仕組みもある。こちらでは入居者はオーナーか管理会社にあてて、毎月家賃を銀行振り込み等で支払っている(口座引き落としの場合は管理会社が引き落としの名義人となっていることだろう)。そこで、滞納が起きた際は、オーナーもしくは管理会社が家賃債務保証会社に「事故発生」を連絡し、入居者の代わりに家賃を支払ってもらう(代位弁済してもらう)。一方、家賃債務保証会社はそこから対応をスタートさせる。入居者に対し、立て替えた家賃の請求を始めるかたちだ。
ズバリ、保証料を安くする方法はないのですか?
ひとつは前述したとおりだ。入居者がしっかりとした連帯保証人を立て、一方、オーナー側もそれを「OK」とする場合、その契約に限っては「家賃債務保証会社を使わない」ということで、保証料そのものがゼロになることはある。アタックしてみて損はないだろう。
さらに、保証料自体をわずかながら下げる方法として、よく聞かれるのが学生割引、いわゆる「学割」だ。これをメニューに用意している会社もある。実は、学生は子どもを大学に通わせられるだけの経済力を持つ親の手厚い保護下にあると見られることで、かえって信用度は高く、家賃債務保証会社にとってのリスクも低いのだ
もうひとつは、奇妙な方法だが、入居者が連帯保証人を立てることで保証料が割り引かれるケースもある。つまり、この場合の連帯保証人はオーナーに対してではなく、家賃債務保証会社に対し立てることになるわけだ。入居者が家賃を滞納し、家賃債務保証会社から代位弁済した分の家賃を請求されることになった際、入居者に代わってそれを支払うことを約束するという意味での連帯保証人だ。
4.ブラックリストに載せられてしまう?
家賃債務保証会社の保証を受けていて、家賃を滞納すると、ブラックリストに載せられるって本当ですか?
ブラックリストというのは定義のない言葉だが、基本、そのようなことになると思っておいた方がいい。詳しくは保証契約を申し込む際交わされる書面に書かれているはずだ。
例えばそこには、入居者の氏名等個人情報のほか、物件名、部屋番号、月額家賃などに加え、家賃の支払い状況や、滞納が生じた際の代位弁済残高といった各種の情報が「家賃債務保証情報取扱機関」に提供される旨、明記されていることだろう。
つまり、そのような情報は、上記の機関に加盟している各社が知ろうと思えば当然知れ渡ることになる。
おまけ:家賃保証と家賃債務保証の違い
以上、家賃債務保証会社へのさまざまな疑問に対し、一問一答形式で答えを示してみた。モヤモヤは晴れただろうか?
ちなみに、この記事ではしつこく「家賃債務保証」会社と記述してきた。「家賃保証」とは書いてこなかった。理由はひとつ。不動産の世界では「家賃債務保証」と「家賃保証」とでは、言葉の意味が違うからなのだ。
不動産業界では「家賃保証」とは、いわゆるサブリースにおける主な事業モデルをいう。オーナーから物件を借りた事業者が、その物件を入居者に転貸(サブリース)しようとする際、入居者を獲得できようとできまいと、オーナーに対しては家賃を必ず支払う旨、約束することが多い。その場合を称して「家賃保証する」という。そのためだ。
とはいえ、家賃債務保証会社が展開する支払委託型(前述)の保証モデルは、家賃保証に多少近いものともいえるだろう。
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