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負動産の流動化、 資産の海外移転の監視強化、 資産形成には支援――2020年税制改革のポイント

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©︎Artur Szczybylo・123RF

安倍晋三首相の突然の辞任によって、一気に政局へと突入した。このタイミングの辞任の理由の1つは、9月末の概算要求、その後の税制改正を新しい内閣でという考えもあった。

来年度予算編成では、新型コロナ対策、コロナ後の経済の立て直しが何といっても最優先事項になる。そこで新内閣がフリーハンドでこれに対応できるようにということもあったわけだ。来年度予算、税制改正の内容は具体的になっていないが、まずは2020年度税制改正のポイントのおさらいをしておこう。

未利用“負動産”の売却で所得控除

不動産関係で注目されるのが、新たに「低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除」が創設されたことだ。増える一方の空き家が社会問題化し、こうした未利用地の存在が地域の活力を減退させる原因にもなっている。

こうしたほったらかし状態の土地の流動化を図るための制度というわけ。その内容は5年以上所有している低未利用地などで建物を含めた譲渡価格が500万円以下のものを売却した場合には、譲渡所得から最大で100万円を控除することができるというもの。

制度活用の主な要件は、次のようになっている。

①譲渡価額がその上にある建物等を含めて500万円以下の譲渡であること
②所有期間が5年を超えること
③その低未利用地が都市計画区域内に所在すること
④低未利用地であったこと及び譲渡後の土地の利用について市区町村による確認が行われていること

なお、適用期間は20年7月1日から22年12月31日までの間になる。コロナ後の新しい生活スタイルでは、大都市圏から郊外への住み替え需要が増えてきている。そうした中で空き家への関心も高く、この改正はこうした空き家売却に活用されそうだ。

所有者不明土地の管理強化

前述のような土地の活用、流動化推進のための税制的な優遇を図る一方で、社会問題になっている所有者不明の管理強化の策が「所有者不明土地等に係る固定資産税課税」である。

これまでは所有者不明の土地には、地方自治体による固定資産税の徴収ができないという問題があった。これは固定資産税の納税義務を負うのは、不動産登記に記された所有者になるためだ。

しかし、不動産の登記は義務化されていない。登記するか、しないかは個人の判断次第になる。そのため誰が本当の所有者なのかの特定は難しい。とくに相続が発生した場合、実際に相続したのは誰か、場合によって共有名義になっていることもある。登記には費用がかかることもあるため、登記をしないということも起こってきた。

固定資産税の納税通知は、各地方自治体が登記簿の所有者に送る。しかし、死亡した場合など登記が行われなければ、その不動産を使っている(住居している)人がいても現状では固定資産税を課すことができない。

そこで今回の税改正で自治体が所有者を調査しても分からない場合は、事前に現在の使用者に対して通知したうえで、それを使っている人を所有者と見なして固定資産課税台帳に登録。固定資産税を課すことができることになった。つまり、使用している、あるいは住んでいる人の知らぬ存ぜぬが通用しなくなったというわけである。

ちなみに、不動産の登記義務化については政府内で検討されており、今年の秋には法律化されると見られている。

相続の大きな見直し「配偶者居住権」

2018年、38年ぶりに行われた民法改正に伴って、相続についても大きな見直しが行われた。その中で注目が集まったのは「配偶者居住権」である。

4月からこの配偶者居住権がスタートしたが、今回の税制改正では開始にあたって、配偶者居住権の消滅により対価を得た場合の課税の取り扱いなどが明らかになった。具体的には、配偶者居住権の解除を合意、あるいは放棄することで消滅、配偶者がその消滅等の対価を取得した場合は、譲渡所得として課税されることが明確になった。また、その譲渡所得の計算法も出された。なお、配偶者居住権の消滅を無償で行った場合は、配偶者から所得者への譲渡になり贈与税が課せられる。

海外不動産の節税対策が無効に

不動産所得の申告では、賃貸収入から償却費など経費を差し引き、不動産所得が赤字になれば給与所得などと相殺することができる。ちょっと前までこの制度と海外の中古賃貸住宅を利用して、所得税の節税をうたい文句にした海外不動産投資のセミナーに人気が集まり、ちょっとした海外不動産投資がブームになっていた。節税方法のスキームは建物の減価償却費を使う手法だ。

日本国内では木造住宅の耐用年数(減価償却の期間)は新築で22年、中古では新築から購入時の年数を指し引いた年数で計算する。築15年の中古木造住宅なら、22年から経過した15年を引いた7年といった具合だ。また、この耐用年数(木造なら22年)を経過した物件では、購入後4年で償却する。

とはいえ、日本での不動産の価値は土地の比率が高く建物の価値は低い。そのため22年を超えたような建物の価値はほとんどなく、減価償却として計上できる経費がないというケースが多い。

しかし、海外の不動産、中でも米国一定地域では土地・建物の不動産価値は建物の比率が高く、古い住宅でも価格が大きく下落することはない。そして古い物件であっても毎年値上がりしており、売却によってキャピタルゲインも得られるものが多い。

これを利用したのがこの節税スキームで、例えば、米国で築25年の建物を1億円で購入すれば、1年間の減価償却費は2500万円になる。賃貸に出せば賃料収入があるが、仮に年間の賃料収入が500万円としても、2000万円は減価償却費として、所得から損失として差し引き、所得税を節税することができる。しかも、この2000万円は4年間計上できる。

つまり、本来は所得税として4年間にわたって徴収されるものが手元に残る。

これは以前から問題視されていた。そこで21年からは海外の中古建物から生じる不動産所得の損失になる減価償却の部分は生じなかったこととされ、この節税方法は使えなくなる。

また、海外資産については、20年12月末時点で5000万円以上の財産を国外に保有している場合は、21年3月15日までに税務署に国外財産調書を提出しなければならなくなった。こうした海外資産に対する税務署の目は厳しくなる見通しで、今後は資産残高だけでなく、預金の利子、不動産の賃料、株の配当・売却益などの入出金記録などの資料の提出が求められた際に提出できなければ、加算税が課されると見られている。

老後の資金作りに税の優遇

人生100年時代といわれる中で、老後の資金作りは大きな課題になっている。また、預金から投資へという流れも日本経済を考えるうえでも求められている。そこでこうした投資促進のための制度の見直しも進められている。

その1つがNISA(少額投資非課税制度)の見直しである。

現行のNISAが導入されたのは2014年のこと。NISA口座では株や投資信託など年間120万円を上限に5年間投資し、そこで得られた利益は非課税になった。この現行NISAは23年で制度が終了するとされていたが、24年以降も延長されることになった。

とはいっても、現行制度のまま延長されるのではなく、制度の一部が見直される。今回の制度の見直しを一言でいってしまうと、現行NISAに、つみたてNISAをセットにした“ハイブリッドNISA”になったと言えるだろう。

現状では、NISAとつみたてNISAのどちらか一方しかできない。しかし、新しいNISAでは現行NISAのような株式投資に年間上限102万円。これに積み立て部分を年間上限20万円が加えられた122万円になるというもの。ただし、株投資部分の105万円は投資商品を自由に選べるが、積み立て部分は、iDecoのラインナップにある投資信託だけになる。投資期間は現行NISA同様の5年間で、投資による利益は、もちろん非課税だ。

ただ、株式だけの投資では年間102万円(5年で510万円)が上限とされるため、現行NISAに比べ、投資額が減額される。なお、現行のジュニアNISAは23年で終了になる。加えて、つみたてNISAも運用期間が延長される。つみたてNISAは18年にスタートして、口座開設期間は37年までで、20年間利益が非課税にされるというものだった。しかし、口座開設期間が42年まで延長され、今年から運用を始めても、しっかりと20年間の利益非課税を受けることになる。

DC、iDecoは加入年齢の延長へ

老後の資金作りでは、今やNISAよりも中心的なものになっているのが、企業型DC(確定拠出年金)、iDeco(個人型拠出年金)。こちらも加入年齢が引き上げられる。

具体的には、企業型DCはこれまでの65歳から70歳、iDecoはこれまでの60歳から65歳へとそれぞれ引き上げられた。完全移行する中で、こうした延長は当然な流れと言えるだろう。

ここ数年の税制改正の動きは、グローバル化が進む中で個人資産の海外への移動の監視強化、国内制度と海外制度の利用による節税の強化など、税制についてもグローバルな動きに対応してきている。その一方で老後資金作りには優遇措置を盛り込む。節税だけでなく、こうした税制優遇をどう活用するのも考えておきたい。

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この記事を書いた人

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