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為替と不動産の関係——ドル安・円高の可能性 そのとき日本の不動産価格はどう動く?

浅野 夏紀

2021/06/11

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イメージ/©︎Panuwat Sikham・123RF

「5月末からドル・円の為替相場が動かなくなり、為替ディーラーが手持ち無沙汰になっている」と東京の金融街で言われている。今、活発に動き回っているのはコロナによる世界的な金融緩和により、日本の不動産取得を目指す外資の景気のよいニュースだけのようだ。

ではなぜ、為替相場は政府の介入が入るほど激しく上下したり、凪のように動かなくなってしまうのか? 要因は日米の景気、物価動向、政府の予算規模、貿易収支などが影響しあっているからだ。

2020年末には「21年は円高の時代」との予測が多かったが、21年の上半期を振り返ると、春まで円安の要因が強く、現在は円高と円安の要因が打ち消し合い、1ドル=110円前後のボックス圏に入っているようだ。この先、円高になるのか、円安になるのか、不動産の切り口から考えてみよう。

不確定要素の多いコロナ後の為替相場

訪日客を待ち焦がれるホテル・観光・不動産業にとって、新型コロナワクチンの普及は、国際便復活(訪日客の戻り)に向けた朗報になるはずだ。しかし、この先のドル・円の為替相場の動き次第では、まだ手放しで喜べない。

コロナ以前から、日本の都心部・観光地では不動産利用においてホテル・宿泊向けの施設が増えており、不動産価格は訪日客からの需要(外需)にさらに依存するようになった。このため円高は、日本国外からの訪日客にマイナスに働く。観光・ホテル業は、外需依存という点で輸出産業と同じ悩みを抱えるが、「観光」を輸出することはできないし、不動産事業の海外進出・投資は進んでいない。

財務省では「菅首相から、1ドル=100円割れを止めよという指示があった」という噂がしきりだ。財務省には為替市場において円売り・ドル買いの介入権限がある。これにより、「財務官」という外為特別会計を握る財務省のポストがにわかに注目されているが、担当者にとっては胃が痛むことだろう。

なぜなら、為替市場でのドル買い介入(円安誘導=円高阻止)は2011年を最後に事実上の禁じ手となっているからである。「米国が配下の同盟国である日本に為替介入を許すはずがない」という見方があり、このため官邸も、財務省も動けない。11年の為替介入にしても東日本大震災という特殊要因があったからである。菅首相の為替についての「口先介入」など効果はない。


財務省の為替介入は事実上の禁じ手/©︎編集部

為替ストラテジストらの予測では21年末は、1ドル=95円という円高予想も出てきており、円高進行論者では、100円割れの円高予想は珍しくない。

こうした状況から観光産業にとっては、新型コロナのワクチンが普及した後、東京五輪開催後の国際便の完全復活をもたらす可能性もゼロではないわけで、コロナ後の為替相場は気がかりなのだ。

日本の不動産と海外年金・ファンド

一方、不動産はどうか。都心の不動産は、海外の投資ファンドや投資銀行、ノルウェーや米・カリフォルニア州などに本拠地を持つ世界各地の年金ファンド等の投資先になっており、日本の不動産の買い手に海外勢が存在感を高めている。

こうした外資の存在が日本の地価や不動産市況を支えている面は大きい。加えて、国内の企業年金基金も債券での運用難のため、不動産(オルタナティブという代替投資枠扱い)に資金を投じている。

しかし、円高が進むと(為替リスクは為替予約等でヘッジできるとしても)、手持ちの日本の不動産を売る追い風にもなる。

つまり、円高になれば、円からドルに替える際に多くのドルを手にいれることができるため、手持ちの日本の不動産の利益確定のための売り(ドルへの換金)誘因となるわけだ。裏を返せばドルの購買力が落ちるため、日本への不動産投資の抑制要因になるともいえる。

仮に、1ドル=120円なら、為替などの手数料等を抜きで考えると、1億ドルの投資で、120億円の不動産投資ができるが、1ドル=100円の円高になれば、100億円しか買えず、海外の不動産投資家にとってはうまみが減るわけだ。

対日不動産投資はバブルなのか?

先進国の中でも日本政府は、1000兆円を大きく超える世界最大級の借金を抱えており、この利払いだけでも大変だ。

そこで発行した国債は、日銀が市場で大半を買い込んでしまう。こうすることで、市中に出回る国債の量を減らし希少価値が「上がる」という現象が起こる。それは国債の金利の低下として表れる。

日銀が買い占めてしまうのは主に10年国債(10年で償還)で、これが日本の長期金利の指標となる。言うまでもないが、日銀は金融政策的に金利をマイナス方向に強力に誘導している。

結果、現実には銀行はマイナスの金利で不動産融資できないものの、短期金利は長期金利につられて安くなるのが一般的だ。そして、タダ同然の金利で不動産を買うための融資が受けられるというわけ。


市場の国債を買い占める日銀/©︎編集部

一方、不動産投資の利回りが高いのは、自然災害や建物の欠陥、高額ゆえにすぐに売却はできないなどの数々の不動産特有のリスクプレミアムがあるためだ。そのため超低金利下で、ほぼ0%に近い利回りしか期待できないような債券への投資に比べれば、不動産投資は有利になる。

不動産特有のリスクといっても、地震など毎日起きるわけでないし、仮に自然災害があったとしても、不動産物件の多くは損害保険でカバーすることも可能。こうして欧米に先行し、マイナス金利政策に沿って実際の貸出金利が大きく下がったところで、不動産が脚光を浴びた。

コロナ禍によって日本ではオフィス需要に陰りが出てきて、投資利回りはやや下がったとはいえ、3%前後はまだまだ期待できる。投資のために現金がなくても、カネ余りの中では、銀行も融資条件をきびしくしない。このために、借り入れで不動産を買うと、それほど金利が低くなかった欧米以上の利幅(スプレッド)が確保できた。つまり儲かったのだ。こうした背景からも、外資の対日不動産投資が進んでいるのである。

日本では、コロナ以降、銀行による不動産業向け融資が再び加速し、20年末の不動産融資残高が過去最大の84兆円を記録したほどだ。おまけに日本は不動産を担保にした金融機関の間接金融が主流である。そのため、国内外の不動産プレーヤーは不動産取引で銀行が求める担保を難なく用意できるので、非常に有利な投資になってきた。

加えて、営業利益率も社員の給与も高い不動産事業は、給与や利益水準が低いメーカー、サービス業などの事業会社からはバラ色に見える。このためメーカーなどの事業会社はもとより、マスコミなど不振業種が不動産再開発に血眼になっているわけだ。

なだらかな円高が進んでできた背景


ドル・円推移 出典/TradingView

現在の円高は4年間続いており、トランプ前大統領の任期中(17年1月20日/116円程度〜21年1月21日/103円程度)に約13円の円高が進んだ。その後円安となり、6月10日時点では109.4円となってはいるが、その傾向は続いている。 

このため前述したとおり為替ストラテジストらの予測では21年末に1ドル=95円という円高予想も出てくるわけだ。

しかしながら、新型コロナによって日米欧ほか世界中の中央銀行が超金融緩和政策へとカジを切り、先進国ではマイナス金利政策やゼロ金利政策によって対応している。この結果、通貨投機資金もだぶつくという、過去なかったことが起こり、今後どうなるかは予断を許さない。

ドル・円相場は、日米両国の実質金利差に大きく影響される。実質金利差とは「指標金利―物価上昇率」で示される。

具体的には、米国では「フェデラルファンド金利―消費者物価上昇率〈前年同月比増減〉」(A)。日本では「無担保コールレート翌日物金利―消費者物価上昇率〈同〉」(J)となる「(A)―(J)」が日米の実質金利差になる。この実質金利差とドル円相場は、過去15年あまり、両者のチャートが重なるように動き、ほぼ連動している。

少々、数字は古いが21年初頭の状況で計算すると、米国は指標金利(政策金利FFR)が上限0.25%(下限ゼロ)と低い。消費者物価は年1.4%(21年1月)上がっているので米国の実質金利はマイナス1.15%以下(A)になる。

一方、日本において、指標金利は米国より低い0.022%(2月末営業日)だが、物価はマイナス0.6%(21年1月)なので、実質金利はプラスの0.8%以上(J)となった。

つまり、日米の実質金利差(A―J)はマイナス2%に近い負の領域になる。これは日本の実質金利が2%(2ポイント)弱も高くなり、その点だけに着目すると、現在、資金は米国から日本に流れやすい環境になっている。このように「円」が買われやすい環境にあり、その結果、なだらかな円高傾向を裏付けているというわけだ。

一方、日米の長期投資にも影響する両国の長期金利の水準については、米国では、バイデン政権の大型経済刺激策や新型コロナワクチン普及による景気回復が早まる期待から、2月末にかけて1年ぶりに長期金利1.35%を突破、長期金利高は一時、日本にも波及した。

米民主党と米中関係 拭えない円高要因

とはいえ、国内でインバウンドを呼び込むためのホテルや観光地、催事場の整備を重ねてきたため、日本側としては円安を維持したいのが本音。

しかし、そうはなかなかできない理由に米中関係の悪化がある。もしも、中国が自国の通貨を切り下げて元安に動いた場合、米国は対抗措置としてドル安に踏み切らざるを得ない。その際には前述した事情もあり、日本の官邸や財務省は円安のためにはとても動けないのだ。

このため、為替市場に大きな影響を与える実質金利差を変えるのは、為替市場介入ではなく日銀の役割になる。

つまり、日銀が金融緩和をさらに深掘りすることで、日本の金利水準をさらに下げ、日米の実質金利差を低くするようにするという願望である。

しかし、現実には日本(日銀)のほうが米国(FRB)よりマイナス金利を深掘り(手段は日銀の既発国債購入)をしてしまったため、金利をさらに低く誘導するのは難しい。だが、金利水準が日本より高い米国のFRBは深掘りののりしろがあり、ドル安方向に仕向ける余地がある。しかも、過去のクリントン、オバマの民主党政権ではドル安円高という経済政策をとっており、同じく民主党のバイデン政権が誕生したことによって、ドル安円高政策が取られる懸念もある。


世界の中央銀行が金融緩和を続ける中、その蛇口がどう閉められるのか/連邦準備制度理事会ビル©︎Roman Babakin・123RF

日経平均は2月中旬から乱高下を繰り返しながら緩やかに下がっているものの、日本の不動産は堅調だ。実際、ブラックストーンをはじめとした投資ファンドも、日本の不動産への投資を強めている。その背景には円安によって日本の不動産がお買い得という側面もあったからだ。

これまで不動産というと、国内ばかりに目が向きがちだったが、世界の中央銀行が金融緩和を続ける中、その蛇口がどう閉められるのか。あのバブル崩壊の二の舞を踏まぬように、グローバル化した金融市場においては、金利引き上げと為替にも注意が必要になってきている。

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この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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