住宅ローンの頭金はどれくらいあればいい? 物件価格の2割が必要って本当?
斎藤 岳志
2017/06/06
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マイホーム購入の頭金はどれくらい必要?
マイホームの購入をお考えの人から、「頭金」についてのご相談を受けることがよくあります。
「マイホームを買いたいけれど、頭金が貯まってないので手が届かない」
「頭金はいくらぐらいあればマイホームを買ってもいいのか」
といった疑問をお持ちの方が多いようです。
マイホーム購入時の頭金については、「頭金は物件価格の2割を用意するべき」と言われることがあります。3000万円のマンションを買うには600万円の頭金を、2000万円のマンションであれば400万円の頭金を用意すべきということになります。
では、頭金が2割用意できなければマイホームを購入すべきではないのでしょうか? どれだけ頭金を用意できればマイホームを買っても大丈夫なのでしょうか?
頭金が多いほうがローン返済は楽になる
たしかに、頭金が多ければ多いほど住宅ローンの返済は楽になると言えます。
ここで、3000万円の住宅を購入する場合を例にして、頭金の額によって返済額にどのような違いが出るのかを見てみましょう。
借り入れする住宅ローンは全期間固定金利型の【フラット35】で、返済期間は35年とします。また、金利については、頭金を1割以上用意した場合は1.06%、頭金なしの場合は1.5%とします(図1)。
(図1)頭金の額で返済額、総支払い額はどう変わる?
頭金なしの場合と、頭金を2割(600万円)用意した場合とでは、総返済額だけを見ると約1000万円の違いになります。1000万円の違いというと驚かれる方も多いことでしょうが、頭金を加えた総支払い額で比較すると、差額は約400万円です。
この数字だけを見ると、やはり頭金がなければ住宅は買うべきではないと考える人は多くいらっしゃるかもしれません。
ですが、結論から先にお伝えしてしまうと、「頭金は物件価格の2割を用意する」というのは、あくまでもひとつの目安であって、誰にでもあてはまる話ではありません。
上の例でいえば、頭金なしで借りた場合の毎月返済額は9万1855円ですが、この金額がどの程度の負担になるかは、その人の収入や家計の状況によって異なるからです。
頭金の額よりも返済負担率を重視すべき
マイホーム購入の予算を考える上で、最も大切なのは「住宅ローンの返済を無理なく続けていけるかどうか」ということです。たしかに、頭金が多ければ多いほど毎月の返済額は少なくなります。
ですが、「住宅ローンの返済を無理なく続けていけるかどうか」は、頭金の額ではなく、「返済負担率」で決まります。返済負担率とは、住宅ローンを含むすべての借り入れの年間返済額が年収に占める割合のことです。
一般的に、無理なく返済を続けるためには、この返済負担率を20%程度に抑えることが理想と言われています。
ですから、頭金を2割用意しても返済負担率が30%とか40%になってしまう場合には無理なく返済を続けていくのはむずかしいでしょう。逆に、頭金なし、つまり頭金を用意せずにマイホームを購入しても、返済負担率が20%以下に抑えられるのなら問題はないということです。
先ほどの例で考えてみましょう。
頭金なしで3000万円を借りた場合、年間返済額は約110万円です。ここから逆算してみると、年収550万円の人であれば、頭金なしで借りた場合でも返済負担率を20%に抑えられることがわかります(ただし、住宅ローン以外の借り入れがない場合です)。
住宅ローンを借りる際には、頭金の額も大切ですが、それ以上に返済負担率が重要ということがおわかりいただけるのではないでしょうか。
頭金を貯めるリスクもある
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私は、頭金を用意することを否定しているわけではありません。頭金が用意できればその分、返済の負担は軽くなります。
すでに頭金の用意ができている場合は問題ありません。ですが、これから頭金を貯めるという場合はどうでしょうか?
頭金が2割必要だからと考えて、600万円を貯めるのにどれくらいの時間がかかるでしょうか。仮に1年間に100万円の貯金ができたとしても、6年間かかります。それだけの時間がかかるわけですから、頭金を貯めることのリスクがあるということも認識しておきましょう。
頭金を貯めている間に、もしかしたら金利が上がるかもしれませんし、病気にかかって団体信用生命保険に入れなくなったり、仕事を続けられなくなったりといったことがあるかもしれません。また、リストラや会社の業績悪化などで収入が下がる可能性もあります。
そして、頭金を貯めている間にも家賃など住居費の支払いは発生してしまいます。
「買いたい」と思ったときが買いどきです
ご存知のように、いまはかつてないほどの超低金利時代です。そのため、金利が高かった時代に比べると、頭金のあり、なしによる金利負担の差は小さくなっています。
詳細な説明は省きますが、頭金を貯めている間の家賃負担を考慮すると、頭金を貯めずにいますぐマイホームを買ってしまったほうが、総支払い額では得をするケースも十分にあり得ます。
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また、手元のお金をすべて頭金につぎ込んでしまうと、もし何か不測の事態が生じて、まとまったお金が必要になった場合に困ってしまいます。
住宅ローンの金利は、ほかの融資に比べて金利が安くなっています。住宅ローンの借入れ額を減らそうとして頭金を多く入れた結果、かえって金利の高い借金をしてしまうことになっては本末転倒です。
ですから、必ずしも頭金を用意する必要はありませんし、頭金が貯まるまでマイホーム購入を待つ必要はないと言えるでしょう。
ご自身のライフステージに合わせて、「自分自身が購入したいと考えたときにマイホームを購入する」というのも、ひとつの考え方として成立するということを知っておいていただきたいと思います。
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頭金を貯めずにマイホームを買う場合の注意点は?
ただし、頭金を貯めずにマイホームを買う場合に注意しなければいけない点があります。
ひとつは、頭金なしだと金利が高くなる場合があるということです。
上にあげた例では、頭金を1割以上用意した場合の金利と、頭金なしの場合の金利に差をつけて返済額を計算しました。
これは、【フラット35】の場合、頭金が物件価格の1割に満たない場合は、頭金を物件価格の1割以上用意した場合に比べて、金利が高くなるからです。
また、民間金融機関の場合でも、頭金の額によって適用される金利に差が生じる場合があります。
頭金が少ないと借入れ額が大きくなることに注意
もうひとつの注意点は、頭金が少ない分、十分な頭金を用意した場合に比べて、借入れ金額が大きくなってしまうということです。
そのため、毎月返済額が増えて、家計の負担が大きくなってしまいます。
少ない頭金でマイホームを購入する場合には、金利と借入れ額を慎重に検討することをおすすめします。たとえば物件価格を抑えるなどして、無理な借入れをしないように注意しましょう。
住宅費以外にも、子どもの教育費や老後資金の準備が必要です。毎月返済額をできるだけ抑えて、マイホーム購入後にも着実に貯蓄を続けるようにしてください。
最後にもうひとつ大切なことをお伝えしたいとお思います。
いまはまだマイホームを購入するつもりはない人でも、購入に向けて気持ちが動くタイミングはいつ訪れるかわかりません。
だからこそ、いつか買うかもしれないそのときに向けて、少しずつでも貯蓄をしておきましょう。それが未来の安心につながる大きな一歩になるはずです。
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この記事を書いた人
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
FPオフィス ケセラセラ横浜代表 百貨店在職中にファイナンシャル・プランナーの資格を取得。税理士事務所、経営コンサルティング会社などを経て、FPオフィス ケセラセラ横浜を開設、代表を務める。 マイホーム購入・売却相談のほか、不動産投資のサポートも行なっている。株式投資やFXなど一通りの投資を実践した後、2007年より不動産投資をスタート。現在は、自らの資産運用はほとんど中古マンション投資に絞って取り組んでいる。