相続財産を基礎控除額以下にしよう
高橋敏則
2016/02/22
相続財産が基礎控除額を超えた場合に相続税がかかる
相続税は、相続財産(相続税の課税価格)から基礎控除額を差し引き、相続財産(相続税の課税価格)が基礎控除額を超えた場合に課税されます。基礎控除額は、3000万円に法定相続人ひとり当たり600万円をプラスした金額(3000万円+600万円×法定相続人数)です。
ここでいう法定相続人は、実際に財産を相続しているかどうかに関係なく、民法の規定による法定相続人のことをいいます。したがって、法定相続人のなかに相続放棄をしている人がいても、基礎控除額の計算上は法定相続人に含めることになります。
相続財産よりも基礎控除額のほうが大きい場合には、相続税はかかりません。ですから、まず相続財産と基礎控除額を比べてみて、相続財産を基礎控除額以下にする対策を考えましょう。そのための確実で効果の大きい対策のひとつが養子縁組です。
基礎控除額の計算上での養子の扱いですが、養子は実子がいる場合にはひとり、実子がいない場合にはふたりまで法定相続人の数にいれることができます。養子縁組をしてもまだ相続税がかかるようでしたら、生前贈与や財産評価額を引き下げるような相続対策を行ないます。
養子縁組による節税効果は?
では、養子縁組をするとどんな節税効果があるかを考えてみましょう。
民法では、養子は養子縁組した日から実子と同じ権利を持ち、法定相続人の数に含められることになっています。相続税法では法定相続人の数が多いほど、相続税の負担が軽くなります。ですから養子縁組は、最も確実で効果の大きい節税対策といえます。
もう少し詳しく説明しましょう。相続税額は、法定相続人が法定相続分にしたがって相続したものとして計算されるため、相続人が増えてひとり当たりの法定財産が少なくなれば、税率の適用区分が低くなり税額は減少します。
次に、相続税を計算する際には、相続人ひとり当たり600万円の基礎控除があるため、相続人が多いほど基礎控除額が多くなる、つまり課税される遺産の額が少なくなるので税額は減少します。
さらに、生命保険金には相続人ひとり当たり500万円の非課税枠があり、死亡退職金にも同様に相続人ひとり当たり500万円の非課税枠があります。養子縁組をしておけば、この非課税枠を増やすことができます。
生命保険は、民法上の相続財産ではありませんが、相続税法上は相続によって取得したものとみなされ、相続税の課税対象になります。ただし、上に書いたように、生命保険には相続人ひとり当たり500万円まで非課税になるという規定があります。つまり、受け取った生命保険金のうち、500万円に法定相続数をかけた金額については、相続税がかからないというわけです。
たとえば、妻と子どもひとりがいる場合には、生命保険金のうち1000万円(500万円×2人)までは相続税がかかりませんが、養子をひとり持てば1500万円(500万円×3人)までは相続税がかからないことになります。これは生命保険に認められた税法上の大きな特典なので、ぜひ活用しましょう。
法定相続人にできる養子の数には制限がある
ただし、上に書いたように相続税法には計算上の制限があって、実子がいる場合には養子のうちひとりしか法定相続人の数に含めることができず、実子がいない場合には養子のうちふたりまでを法定相続人の数に含めることができます。
また、養子を法定相続人に含めることが、相続税の負担を不当に減少させることになると認められる場合、つまり、節税目的だけで養子縁組を行なったような場合には、その養子を法定相続人の数に含めないことになっています。ですから、税務署に節税目的だけの養子と見なされないよう、養子縁組をした理由を説明できるようにしておきましょう。
この記事を書いた人
公認会計士、税理士
1979年、中央大学商学部卒業。80年、公認会計士二次試験合格。アーンスト・アンド・ウイニー会計事務所、監査法人を経て独立、高橋会計事務所を開設し、現在に至る。経理・財務・税務の指導ほか、中小企業の経営コンサルティングに従事。 「専門知識がなくてもわかる解説」が人気となり、税務研究会、企業の社内研修会など各種セミナーの講師として活躍するほか、ビジネス書の著者としても多くの書籍を執筆している。 著書に「相続・贈与でトクする100の節税アイデア」「小さな会社の税務がすべてわかる本」、「小さな会社と個人事業主の消費税がすべてわかる本」 (ダイヤモンド社)、「不動産オーナの節税対策/知っておきたい土地建物の税金」(清文社)、「法人税/有利選択の実務」「消費税/有利選択の実務」(税務研究会)など多数