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相続税対策の基礎知識(6/6)

110万円の贈与の基礎控除を使って相続財産を減らす

高橋敏則高橋敏則

2016/02/22

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贈与をして相続財産を減らす

ほかの項でも説明したように、相続財産よりも基礎控除額のほうが大きい場合には、相続税はかかりません。そのため、相続税の節税対策の基本は、相続財産を減らすことです。減らすといっても本当に減らしてしまうのではなく、税法が認めている範囲内で、税金を払わずに配偶者や子どもに財産を移転することを意味します。

財産を移転するための方法は、贈与と売買がありますが、基本となるのは贈与です。必要に応じて売買も組み合わせて対策を行ないますが、贈与することで財産を移転する方法を考えてみましょう。

贈与をして財産の移転するための方法でまず考えるべきなのは、贈与税がかからない特例を利用することです。この特例には、贈与税の配偶者控除(居住用財産の贈与)と住宅取得資金贈与の特例があります。ただし、贈与の目的とその対象になる財産が限られていますし、ひとりに対して一回しか使えません。

年間ひとり当たり110万円以内の贈与は贈与税がかからない

そこで、次に考えたいのが贈与税の基礎控除110万円を使った贈与です。これは、ひとりに対して1年間に110万円までは無税で贈与できるというものです。

もう少し詳しく説明します。贈与税は、毎年1月1日から12月31日までの間に贈与を受けた財産の合計額に対して、贈与を受けた人に課税されることになっています。これが年間ひとり当たり110万円までの贈与については贈与税がかからないことになっています。

ここで正しく理解しておかなければいけないことがあります。この110万円の基礎控除は、贈与した人についてひとり当たり110万円ということではなく、贈与を受けた人について110万円ということです。したがって、たとえば3人から110万円ずつ贈与を受けた場合には、その贈与を受けた人の年間の基礎控除は110万円ですから220万円(110万円×3人−110万円)は贈与税の課税対象となります。

110万円という金額を大きいと考えるか、小さいと考えるかはその人の資産状況によって違うと思いますが、この基礎控除110万円を利用して財産を移転するのは誰にでもできる相続税対策になります。たとえば、子や孫が10人いれば1年間で1100万円、5年で5500万円の財産を、税金を払わずに移転することができます。

連年贈与には課税されることがあるので注意

ただし、ここで注意が必要です。5年で5500万円と書きましたが、実は毎年110万円ずつの贈与を受けると、贈与税がかかる場合があるのです。

毎年同じ金額の贈与を何年も続けていくことを連年贈与といいます。連年贈与をすると、その贈与を始めたときに、連年贈与したすべての金額を贈与する意思があったものとみなされて、一括して贈与税がかけられることがあります。

たとえば、毎年110万円ずつ10年にわたって贈与を行なった場合、基礎控除の範囲内で贈与税はかからないと考えがちですが、税務署はそうは考えません。この場合、最初に贈与をした年に1100万円の贈与があったものとみなされて贈与税をかけられることがあります。これは、最初から1100万円を贈与する意思があって、それを分割して贈与したにすぎないとみなされてしまうからです。

そこで、毎年贈与をする場合は、そのつど贈与の意思決定があったことを証明するために、毎年贈与契約書をつくっておくとよいでしょう。それに加えて、1年目は110万円で2年目は105万年円といったように、毎年贈与する金額を変えたり、1年目は現金で2年目は有価証券といったように、贈与する財産を変えたりしておけば万全です。

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この記事を書いた人

公認会計士、税理士

1979年、中央大学商学部卒業。80年、公認会計士二次試験合格。アーンスト・アンド・ウイニー会計事務所、監査法人を経て独立、高橋会計事務所を開設し、現在に至る。経理・財務・税務の指導ほか、中小企業の経営コンサルティングに従事。 「専門知識がなくてもわかる解説」が人気となり、税務研究会、企業の社内研修会など各種セミナーの講師として活躍するほか、ビジネス書の著者としても多くの書籍を執筆している。 著書に「相続・贈与でトクする100の節税アイデア」「小さな会社の税務がすべてわかる本」、「小さな会社と個人事業主の消費税がすべてわかる本」 (ダイヤモンド社)、「不動産オーナの節税対策/知っておきたい土地建物の税金」(清文社)、「法人税/有利選択の実務」「消費税/有利選択の実務」(税務研究会)など多数

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