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投資物件を安心して引き継ぐために——相続対策 遺言編

森田雅也森田雅也

2022/02/17

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イメージ/©️takasuu・123RF

今回は投資物件をお持ちの方が今後考えておくべき相続対策のうち、相続で揉めるポイントである遺産分割協議とその対策である遺言についてご説明をいたします。

なぜ遺産を分けるだけなのにトラブルになってしまうのか

遺産分割をするためには、相続人全員で協議が必要となり、これを遺産分割協議といいます。

遺産分割協議には5つのステップがあり、この各ステップにおいて相続人間同士で意見が対立しやすいポイントがありトラブルにつながるのです。

1 相続人の範囲を確定する   「誰と話し合いが必要なのか」
2 遺産の範囲を確定する    「何を遺産として分けるのか」
3 遺産を評価する       「それぞれの遺産をいくらとして計算するのか」
4 各相続人の取得額を決定する 「各相続人がどのくらいの割合を取得するのか」
5 遺産の分割方法を決定する  「誰がどの財産を取得するのか」

より具体的に各ステップについてご説明いたします。

1.相続人の範囲を確定する(法定相続人)

相続人には配偶者相続人と血族相続人の2種類があります。配偶者相続人とは、夫又は妻のことで、生存していれば必ず相続人になります。血族相続人とは、以下の順位に従い、相続人となります。

第1順位 子またはその代襲相続人
第2順位 直径尊属
第3順位 兄弟またはその代襲相続人

このように、相続人の範囲は多岐にわたり、親族によっては会ったこともない人と話し合うことにもなります。

また、相続人の中において、認知症などにより判断能力を欠く人がいる場合には、成年後見人を選任する必要もでてきてしまい、相続人の範囲を確定することに時間がかかってしまうこともあります。

2.遺産の範囲(遺産分割対象財産)を確定する

遺産分割対象財産は、相続財産のうち債務と可分債権(賃料債権や、損害賠償請求権など)を除いた財産のことをいいます。

相続財産-(可分債権+債務)=遺産分割の対象となる財産

具体的には、遺産分割の対象となる財産とは不動産や有価証券、動産、預貯金のことです。数年前までは、預貯金を可分債権と捉え遺産分割対象財産に含まれていませんでしたが、最高裁判所が預貯金は遺産分割対象財産に含むと判断し、これまでの取扱いを変更しました(最判平成28年12月19日)。

3.遺産を評価する

遺産の評価で争いが起きやすいのは、不動産や非上場株式といった価値が一律でないものです。

なぜ争いが起きやすいかというと、鑑定方法の違いや立場の違いなどで評価額が変動することが理由として挙げられます。

例えば、不動産を取得したい相続人は、不動産を低く評価しようとします。しかし、不動産を取得しなくてもよい相続人は、不動産を高く評価してほかの相続財産をより多く取得しようとします。

このように、評価額が立場や鑑定方法などで変動し、その評価額次第ではほかの遺産の分け方も変わってくるのでトラブルになりやすいです。

4.各相続人の取得額を決定する

相続人の取得額を決定するために、まず法定相続分を確認します。その後に特別受益や寄与分の有無と金額を確定し、特別受益、寄与分に基づき、法定相続分を修正します。

特別受益とは、特定の相続人が、被相続人から婚姻、養子縁組のため、もしくは生計の資本として生前贈与や遺贈を受けているときの利益のことをいいます。

寄与分とは、共同相続人中に、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者がある場合に、他の相続人との間の実質的な公平を図るため、その寄与相続人に対して法定相続分以上の財産を取得させることをいいます。

この特別受益や寄与分は、相続人間で折り合いつかないことが多く、遺産分割協議においてよく揉めるポイントとなります。

5.遺産の分割方法を決定する

遺産の分割方法には大きく4つの分割方法があります。

ア 現物分割
  相続財産をありのままの姿で分割すること。
イ 代償分割
  現物を取得した相続人が、他の相続人に代償金を支払うこと。
ウ 換価分割
  相続財産を処分して、そのお金を取得する。
エ 共有分割
  相続財産を相続人の間で共有する。

一般的に、上記の分割方法についてア→イ→ウ→エの優先順位で検討されます。

不動産を残したい相続人が現物分割を望んだとしても差額の代償を支払えないため、ほかの相続人が換価分割を望むなど、分割方法もトラブルになりやすいポイントといえます。

遺産分割協議は以上5つのステップを経て、成立することになります。

しかし、遺言があれば、相続人間で遺産分割協議を行う必要がなくなり、誰に対し何を相続させるかも、自分(被相続人)の意思で決定することができます。

ただし、遺留分がありますので遺留分を考慮した遺言の作成などの注意が必要です。遺留分とは、一部の法定相続人に、最低限の財産を相続することができるように保障する制度のことをいいます。

遺言の作り方

遺言には普通方式と特別方式があり、今回は、自筆証書遺言と公正証書遺言の2点についてご説明します。

自筆証書遺言
自筆証書遺言は以下のルールを守らないと無効になってしまいます。

①自筆で書く(署名押印がある財産目録は除く)
②署名
③押印(実印に限らず三文判でも可)
④作成日の正確な年月日の記入(自筆であることが必要でゴム印は不可)

また、令和2年7月より自筆証書遺言保管制度も導入されました。

公正証書遺言
こちらは、公証役場において、遺言の内容を公証人に伝え、公証人がその内容に基づいて公正証書として作成する遺言のことをいいます。公証人が作成に関与するので、方式違反で無効となることはほとんどありません。

以上のように、投資物件などの財産をお持ちの方は今後のことも考え、相続が発生したときに備えた対策をする必要があります。誰に何を相続させたいか、そのために遺言書の内容をどうしたらよいか、遺留分はどのように考慮したらよいか、相続税はどうなるかなど、考慮すべき事情は多岐にわたります。もし、相続対策を検討する場合は、弁護士や税理士等の専門家に相談した方がよいでしょう。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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