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コロナ禍を乗り越え、地価がふたたびキタ? 「住高商低」の地価LOOKレポート

朝倉 継道朝倉 継道

2021/06/15

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文/朝倉 継道 写真/編集部

コロナ・ショックからの地価回復が明確化

「地価LOOKレポート」の令和3年第1四半期分が、この6月4日に国土交通省より発表されている。

今回の対象期間は2021年1月1日~4月1日。

(前回:20年10月1日~2021年1月1日
前々回:20年7月1日~10月1日
その前:20年4月1日~7月1日)

日本の都市部の地価が、いまどう動き、今後どう動きそうか。方向性を割り出すための、国によるトレンド調査ともいえる報告書だ。正式には「主要都市の高度利用地地価動向報告」という。多くの不動産業界のプロがこれに注目している。

なお、新型コロナウイルスによる「コロナ禍」が、地価および不動産市場に影響を及ぼし始めて以降のものとしては、今回が4度目の報告となっている。まずは、国内全地区を合わせた状況から紐解いてみよう。

ひとことでいえば、地価は、一時のコロナ・ショックから、総じて回復の傾向にあることが明確化してきたといえるだろう。

用途別では「住高商低」が顕著

全地区(全国・全用途)の動向は以下のとおりだ。

上昇 …28地区
(前回15地区、前々回1地区、その前1地区)

横ばい …45地区
(前回47地区、前々回54地区、その前61地区)

下落 …27地区
(前回38地区、前々回45地区、その前38地区)

このとおり、上昇地区が前回に増して大きく増えているのが目立つ。対して、下落地区は確実に減る傾向だ。次に、用途別の数字を挙げていこう。

住宅系地区(全32地区)

上昇 …18地区
(前回9地区、前々回0地区、その前0地区)

横ばい …14地区
(前回20地区、前々回26地区、その前27地区)

下落 …0地区
(前回3地区、前々回6地区、その前5地区)

・住宅系地区で、変動率区分が上方に移行した地区 …11地区
・同じく、下方に移行した地区 …0地区

商業系地区(全68地区)

上昇 …10地区
(前回6地区、前々回1地区、その前1地区)

横ばい …31地区
(前回27地区、前々回28地区、その前34地区)

下落 …27地区
(前回35地区、前々回39地区、その前33地区)

・商業系地区で、変動率区分が上方に移行した地区 …15地区
・同じく、下方に移行した地区 …2地区

以上のうち、ひときわ目立つコントラストといえば、住宅系地区と商業系地区、それぞれにおいての下落地区の数だろう。もう一度記すと、

・住宅系地区での下落は今回0、前回は3
・商業系地区での下落は今回27、前回35

これらを踏まえ、国交省のコメントを抜き出してみよう。

「住宅地では、マンションの販売状況が堅調な中、事業者の素地取得の動きが回復している地区が増加している」

「商業地では、法人投資家等による取引の動きが戻り、横ばい・上昇に転じた地区が見られる。新型コロナウイルス感染症の影響により、店舗等の収益性が低下し下落が継続している地区があるものの、下落地区数は減少した」

地価における“コロナ・ショック”では、結局のところ、住宅地での影響はさほど重くなく、いまのところ回復も早いようだ。

一方、外出自粛や、飲食店などの営業時間短縮の影響があったほか、インバウンド需要の喪失までもが重なったエリアも少なくない商業地では、やや深手を負ったところも多い。その分、回復も遅れる傾向といえそうだ。

全国唯一、横ばいから下落に転じた六本木

ところで、さきほど記したとおり、今回、住宅系地区で、変動率区分が下方に移行した地区は0だ。

「変動率区分が下方に移行する」とは、たとえば、前回横ばいとされていたものが、今回下落に転じたといったケースを指す。

一方、商業系地区での「変動率区分が下方に移行した地区」は2つある。具体的には次の2地区となっている。

・仙台市青葉区中央1丁目
・東京都港区六本木

このうち、仙台市青葉区中央1丁目は、前回「0%超3%未満」の上昇地区に区分されていたものが、今回「横ばい」地区となった。すなわち、上昇の勢いが鈍り、足踏みしているが、下落に転じたわけではない。

対して、港区六本木は、前回の「横ばい」から、今回は「0%超3%未満」の下落地区へと下降した。すなわち、地価LOOKレポート対象全国100地区の中で、今回唯一の「下落に転じた地区」ということになる。

そこで、この港区六本木が仲間入り(?)した、東京都23区内の下落地区の顔ぶれを挙げてみよう。住宅系・商業系合わせた対象24地区中、以下の9地区が、今回、下落グループとなっている。

(下落幅3%以上6%未満)
 新宿区 歌舞伎町

(下落幅0%超3%未満)
 中央区 銀座中央
 港区 六本木
 新宿区 新宿三丁目
 渋谷区 渋谷
 豊島区 池袋東口
 台東区 上野
 港区 品川駅東口周辺
 江東区 青海・台場

なお、以上9地区はすべて商業系地区だ。ちなみに、東京都23区内に今回上昇地区は3地区あるが、それらはいずれも住宅系地区となっている。(千代田区番町、港区南青山、世田谷区二子玉川)

これは、さきほどの、コロナ・ショックに関わっての地価動向「住高商低」の様子が、よく表れている結果といえるだろう。

コロナ禍3大要素+オフィス市況=4大禍

そこで、上記、東京都23区内における下落地区だが、下落幅がもっとも大きい新宿区歌舞伎町を筆頭に、やはりいずれも、

・外出自粛
・飲食店等の営業時間短縮
・インバウンド需要の喪失

コロナ禍3大要素の影響が色濃い顔ぶれとなっている。

また、それに加えて、六本木、渋谷といった辺りについては、オフィス需要の動向が影を差す様子も感じとれるといってよいだろう。

すなわち、両地区とも、テレワークに移行しやすい業態の企業が集積しているエリアのため、現下の状況においてはオフィスに余剰床が発生しやすい。

解約や移転、それにともなう後継テナント確保の難航などが、オフィス賃料収入の頭を押さえ、ひいては地価への重しとなっていることが推測される。

なお、東京都23区内の商業系地区における「横ばい」グループ(下落は免れている組)の面々は以下のとおりだ。ざっとの印象だが、下落グループとのいわゆるキャラの違いが見てとれる。

千代田区 丸の内
千代田区 有楽町・日比谷
中央区 八重洲
中央区 日本橋
港区 赤坂
港区 虎ノ門
渋谷区 表参道
中野区 中野駅周辺

地価LOOKレポートのあらまし

最後に、「地価LOOKレポート」のあらましを紹介しておこう。正式名称は、冒頭にも記したとおり「主要都市の高度利用地地価動向報告」。とりまとめの目的は、

「主要都市における地価動向を先行的に表しやすい高度利用地等の地区について、四半期ごとに地価動向を把握することにより、先行的な動きを明らかにする」

年4回リリースされるライブな分析が、このレポートの魅力となっている。

調査範囲は「3大都市圏、地方中心都市等の高度利用地における、高層住宅等や店舗、事務所等が高度に集積しているエリア」。

土地価格そのものは示されない。

特長としては、地価の動向を示す9種類の矢印や、多用される表や地図により、内容がとても把握しやすい点が挙げられる。

調査対象全地区につき、不動産鑑定士による具体的なコメントも添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえで大きな助けとなるはずだ。

地価LOOKレポート 令和3年第1四半期分
地価LOOKレポート~これまでの発表資料

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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