人生100年時代だからこそ知っておきたい「家族信託」活用法
谷口 亨
2019/07/10
イメージ/©︎123R
家族信託って?
2007(平成19)年、信託法が84年ぶりに大きく改正され、信託の活用が行いやすくなりました。そこで新しい類型の信託が整備されたこともあり、家族信託が生まれました。財産を信託された家族が「信託契約に従って」活用や運用を行える制度です。
高齢者社会の今、注目される家族信託
家族信託は、老化等による「認知能力の衰え」によって起こる金銭トラブルを解決するための新しい対策として注目されてきました。
高齢化社会の現代、男性の平均寿命は81.09歳、 女性は87.2歳と共に80歳を超えました。厚生労働省研究班の統計によると 2025年には認知症高齢者は65歳以上の方の5人に1人、 日本全国で最大730万人にも達すると推計されています。この数は埼玉県の人口に匹敵します。誰もが認知症になる可能性がある時代だからこそ、家族信託を上手に使っていきたいものです。
認知能力が衰え、判断能力が低下するとたくさんの不都合が出てきます。
例えば遺言書の作成、契約の締結などはできなくなりますし、預金の引き出しもできません。これは老化等による「認知能力の衰え」だけでなく、病気や障害などで意思判断能力に欠ける場合も同じです。
なんの対策もしていないうち、認知症の症状が出てしまった場合、よく見られるのが以下のような事例です。
<親の認知症が心配なので介護施設に入居させたい → 手元に入居費用がないので親の預金を下ろして入居資金に充てたい → 認知症状のある親の銀行口座は凍結される → お金が工面できない>
ほかにも、
<親の住んでいる住居を売却して入居資金に充てたい → 所有権は親のものだから売却できない>
ということもよくあります。たとえ親の生活を守ろうという理由であっても、認知症状のある親の財産は活用することができないのです。
しかし、親が元気なうちに親子で信託契約を交わし、財産の管理運営を子どもに託しておけば、元気なうちは親が管理処分について指図することもできますし、認知能力が衰えてもその財産を子どもの判断で動かすことができるのです。
「信じて託す」、家族信託の考え方
「信託」とは、その字のとおり、信じて託すこと。広辞苑には「信用して委託すること。他人をして一定の目的に従い財産の管理・処分をさせるため、そのものに財産権を移すこと。」とあります。
「信託」という文字は、身近なところでは信託銀行があります。金銭の信託によって集めた資金を長期に渡って貸付することを主な業務にしています。金融商品である投資信託をやっている人も多いのではないでしょうか。その場合、資産を信託財産として預けます。言い換えれば銀行や投資先を信じて託すのです。その銀行や投資信託の運用先の役割を、個人が担うのが「民事信託」です。その中でも家族に託すのが、家族信託なのです。
さらに家族信託は、幅広く「相続」対策としても活用できるのです。超高齢化社会を迎える日本では、親の認知症だけでなく、事業の承継、実家の空き家問題など、既存の考え方のままでは解決できない問題が山積みです。そんな様々な事例も家族信託を使うことによって、円満な解決へと導くことが可能です。
家族信託の仕組みを理解する
家族信託の仕組みを理解するには、「委託者」、「受託者」、「受益者」を理解しましょう。
まず、財産を持っていて、その財産を預ける人(委託者)、委託者に信頼され財産を託され、その財産を管理・運用・処分ができる人(受託者)、その財産の運用や処分で得られる収益を受ける人(受益者)を決めます。
委託者と受益者が同じでも問題ありませし、同じなのが普通です。家族信託の代表的なケースは、親が委託者、子供が受託者になって親の財産管理や家の売却などを行い、その受益者が親という場合です。
家族信託は贈与ではありません
子どもが親の財産管理等を行う場合が多い家族信託ですが、では子どもが自分のためにお金を使うことができるのかというと、それはNOです。受益者のために使うこと以外、勝手に使うことはできません。財産は子どもへの贈与ではありません。贈与の場合は贈与税が発生します。
信託する財産も、例えば1億円を所有している場合、5,000万円だけを預けるとか、不動産の場合も収益を生むアパートの場合、収益や日常の管理は任せても売却はできないようにするなど、制限をつけた信託契約も結べます。財産の一部を別の財布(委託者)で管理するイメージです。
判断能力が欠けてしまった方に対する援助者として、成年後見人を選出する「成年後見制度」があります。どう違うのか。また、「遺言」で財産を承継するので、家族信託を使わなくてもいいのではという質問もいただきます。家族信託には、委任契約・成年後見制度・遺言の機能もあります。また民法では不可能だった二次相続以降の財産の承継先も指定することが可能になります。
次回お話ししましょう。
【次回記事】
「家族信託」が注目される理由――何よりも “残す人”の思い、希望を優先できる
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この記事を書いた人
弁護士
一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。