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所有者不明土地問題と所在等不明共有者の持分の譲渡・相隣関係

森田雅也森田雅也

2023/08/23

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令和3年4月、いわゆる所有者不明土地問題に対応するため、改正法や新設の法律が成立・公布されました。そしてつい最近、これらの法律の一部が施行され、種々の新たな制度が利用できる状態となっています。今回は、そのような法律の一部をご紹介します。

所有者不明土地問題とは

所有者不明土地とは、登記簿上所有者が分からない土地や、所有者がわかってもその所在がわからない土地のことをいいます。例えば、相続が繰り返し生じることにより、土地が多くの人の共有状態になってしまった場合などにかかる土地が発生します。

土地の共有者が誰なのか分からなかったり、誰かは分かってもその所在が分からなかったりする場合、どのような不都合が生じるのでしょうか。例えば、ある土地を他の相続人とともに相続したことで共有するに至ったものの、その土地は自分には必要ないため、売却してしまいたいという事例を想定します。この点、法律上、共有物を売却するには、原則として共有者全員の同意が必要となります。そのため、この事例において、共有者が誰なのか分からなかったり、所在が分からなかったりすると、売却の同意を得られず、土地を売却することはできなくなります。このように、所有者が不明であるために土地を有効利用できない問題を、所有者不明土地問題といいます。

法律改正の概要

所有者不明土地は、先ほど例に挙げた共有物の売却の場面にとどまらず、様々な場面で不都合を生じさせます。この問題に対応するために民法や不動産登記法の改正、いわゆる相続土地国家帰属法という法律の新設などが行われました。

これらの法律の狙いは、所有者不明土地が今後発生することを防ぐということと、既存の所有者不明土地による不都合を解消するという2点にあります。

今回は、後者の観点から所在等不明共有者の持分の譲渡の制度の新設と、相隣関係規定の改正についてご紹介いたします。

所在等不明共有者の持分の譲渡

上記で述べたような、共有状態にある土地を売却したいのにできないという場合に対応するため、所在等不明共有者の持分の譲渡という制度が新たに設けられました。この制度は、共有者が裁判所に申立てをし、「所在不明等共有者」の共有持分を他者に譲渡する権限を、申立てを行った共有者に付与する制度です。

「所在不明等共有者」とは、申立人が登記や住民票など必要な調査を行い、裁判所において所在等が不明であると認められる共有者のことをいいます。したがって、この制度を利用するためには、共有者の所在等を調査する必要があります。また、この制度を利用するためには、所在等不明共有者以外の、所在が判明している共有者全員から持分の譲渡を受ける必要があります。

この制度を利用した場合、所在不明等共有者は、申立てを行った共有者に対して、不動産の時価相当額のうち持分に応じた金銭を支払うように求める権利を得ます。ただ、申立を行った共有者は、この制度を利用する際に供託金を支払う必要があり、所在不明等共有者は、この供託金から支払いを受けることとなります。

この制度によく似た制度として、所在等不明共有者の持分の「取得」という制度も新設されました。この制度は、所在不明共有者の持分を、申立てを行った共有者が取得するという制度です。所在不明等共有者の持分を第三者に取得させるのか、申立人自身が取得するのかという点で違いがあります。もし、第三者に売却する予定なのであれば、「取得」の制度よりも、「譲渡」の制度を用いた方が直接的に解決できることになります。

なお、不動産であればこの制度を用いることができますので、土地だけでなく建物についてもこの制度を用いることができます。

この制度を利用した場合の流れは、次のとおりです。まず、裁判所に対して申立てを行います。この際には、不動産の所在地を管轄する裁判所に申立てを行います。その後、所在等不明共有者が異議の届出をすることができる期間を公告します。そして、3か月以上の異議届出期間の経過後、上記で説明した供託金をおさめます。その後、裁判が確定することにより、持分を譲渡する権限が付与されることとなります。

相隣関係規定の改正

続いて、相隣関係規定の改正についてご説明します。相隣関係規定とは、土地が隣り合っている場合における法的な関係について定めた規定のことをいいます。例えば、改正される前の民法では、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる」と定める隣地使用請求権の規定がありました。

ところが、隣地の所有者が所有者不明土地であった場合、この規定に基づいた請求をしようとしても、対応が困難なものとなっていました。

隣地使用請求権の改正について

このような問題点について、今回の改正により、①隣地使用に際しては、原則として、あらかじめ隣地所有者または隣地使用者に対して目的等を通知する、②ただし、あらかじめ通知をすることが困難な場合には、隣地の使用開始後、遅滞なく通知をすれば良いこととなりました。つまり、隣地が所有者不明土地であった場合、「あらかじめ通知をすることが困難な場合」にあたり、隣地の所有者が判明次第、遅滞なく通知をすれば足りることになります。なお、「あらかじめ通知をすることが困難な場合」にあたるといえるためには、現地確認や登記等の公的記録を調査しても所在が判明しないという状況まで求められます。

所有者不明土地に関する改正を行う過程で、もともと隣地の使用に関する規定が抱えていた他の問題点も解消されています。すなわち、改正前の規定では、障壁又は建物の築造・修繕以外の目的に、隣地を使用することができるのか不明確でした。この点、改正後の民法では、①境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕のため、②境界標の調査又は境界に関する測量ため、③枝が境界線を越えるときの枝の切取りをするためであれば、隣地を使用できることが明確化されました。

このように相隣関係は、所有者不明土地に関連する問題点を解消するとともに、そもそも相隣関係規定が抱えていた問題点をも解消するという方向で改正されています。このような観点から、上記のほかにも①ライフラインの設置、②越境した竹木の切り取りという点について改正されています。

その他相隣関係規定の改正

改正前民法下では、他人の土地を使用しないと自己の土地に水道管等のライフラインを引くことができない場合について、各種ライフラインの敷設のために他人の土地を使用することが判例上認められていました。しかし、この点を直接定めた明文がなく、具体的なルールが不明確でした。この点をふまえ、ライフラインを設置するために他人の土地を利用できること、設備の設置・利用により当該土地の所有者に損害を加えた場合には、償金を支払わなければならないことなど具体的なルールが明文化されました。

また、以前の民法では、ある土地の所有者は、隣地の竹木の根が境界を超えるときには自ら根を切り取ることができましたが、枝が境界を超えるときは、その竹木の所有者に枝を切り取らせる必要がありました。もし、隣地所有者が枝の切り取りを断った場合には、訴えを提起したうえで強制執行の手続きをしなければならないということになり、手続的な負担が重すぎる点や、竹木が共有状態にあった場合には、枝の切り取りに共有者全員の同意が必要になる点が問題視されていました。これに対し、今回の改正民法では、原則として竹木の所有者に切り取らせるというルールは維持したうえで、

  1. 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき
  2. 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき
  3. 急迫の事情があるとき

という3つの例外を定めました。
また、竹木が共有物である場合には、共有者の一人から同意が得られれば、他人が枝を切り取ってもよいということになりました。

まとめ

所有者不明土地問題に対応するため行われた法律改正は非常に多岐にわたります。上記で説明した以外にも新設された制度があるだけでなく、相続登記の義務化など影響の大きい変更もされます。

所有者不明土地問題で悩まれている方は、どのような制度が利用できるのか弁護士に相談をしてみるとよいでしょう。


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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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