【インタビュー】人の心理に国境はないー父母が年間半年ずつ育てる米国での共同養育
しばはし聡子
2019/02/19
イメージ/123RF
さまざまなカタチで離婚後も両親で子育てを行っているママの実体験を記事化したシリーズ。今回は、国際結婚、離婚、再婚を経験し、4人の子どもを育てながら共同養育を実践しているママに直撃インタビューしました。
◾︎現在、どんなカタチで共同養育を行っていますか。
私の場合、「父母が年間半年ずつ子の養育をする」ことをベースとした共同養育が決められました。
元夫との間に生まれた上の二人の子どもたちは、母親(私)の家に1週間、同じ市内に住む父親(元夫)の家に1週間というふうに、父母の家を行ったり来たりする生活をしています。その中には変則的なこともあり、例えば父母の誕生日や、父の日、母の日はそれぞれの親の家で過ごします。
具体的に言えば、「今週はお父さんの家で過ごす週だけれど、水曜日がお母さんの誕生日だから、学校の後はお母さんの家に行って、夜お父さんの家に戻る」というような感じ。祝祭日については、偶数年は母親と、奇数年は父親と過ごすことという規定があったり、2ヶ月以上ある長い夏休みは父母とそれぞれ3週間連続で過ごす期間が設けられています。
これらはすべて裁判所命令という体裁の養育計画となっていて、勘違いや解釈間違いなどは除き、この計画書通りに養育しています。
◾︎共同養育に前向きになれた経緯をお聞かせください。
別居が始まったころは共同養育についての知識は全くなく、なんとなく見知っていた単独親権の日本式シングルマザーのイメージで、離婚後はひとり親が子育てをすることが子どもの最善だと考えていました。
こちらでは共同養育の制度があると知ってからも、それでは子どもがひとつの家に定住することができず、ホームレス状態でかわいそうだ!という気持ちもありました。
特に下の子は生後2ヶ月で両親の別居を経験し、1歳になりたてで共同養育開始(実際には「慣らし共同養育」として、お泊まり開始)となったため、お父さんという存在がわからず父親が迎えにくるたびにギャン泣き…。あんなに小さな子が、今まで触れ合ってこなかった父親のもとでどう過ごしているのだろうかと、正直不安しかありませんでした。
しかし、ぐんぐん成長する息子は徐々に「お父さん」を認識しはじめます。そして、どうやらこの子はお父さんとの時間を楽しんでいるようだと感じられてきたのが、彼が2歳を過ぎたころだったかなその頃から心配の気持ちは薄れて、子どもに実の親が関わる共同養育の真価を体感として感じられるようになってきたと同時に、前向きになれてきたと思います。
◾︎共同養育するにあたり困っていること、困っていたことはありますか。
一番困っていたことが、先に挙げた例です。1歳になったばかりの子が、毎回ギャン泣きしながら父親の家に泊まりにいくことが辛くて仕方なく、その状態を見ている私も涙が溢れるわ、胃がキリキリと痛むわ、本当にきつかった。
それに加え、別居以降ずっと父親と暮らしていた上の子が、共同養育の開始後私の家に来るたびに泣いて「お母さんちはいやだ、お父さんちに帰りたい」と訴えることが、とてもとても苦しかったです。あまりにも苦しくて、父親のもとに返したこともありました。
共同養育そのものは、数年間実践してきて、また身近に良い例をいくつも見ているため、肯定的に捉えています。
ただ、画一的な運用とせず、乳幼児へは特に慎重に対応し、慣らし期間を段階的に設けることや、子どもの置かれている状況によっては離婚家庭の子どもの心理に明るいカウンセラーを配置したり、年齢や個々の子どもの状態に即した柔軟な対応が必要だと感じています。
◾︎お相手がどんなことをしてくれたらうれしいですか。
子どもたちとたくさん遊んでくれたら嬉しいです。お父さんという存在は、概して子どもと遊ぶのがとても上手ですよね。うちの場合もまさにそうなのです。
そして私は子どもとダイナミックに遊ぶことが上手ではないため、子どもたちが父親と過ごしているときは、「これぞまさしくお父さん」という感じで、子どもの溢れ出るエネルギーを受け止めながらダイナミックに遊んでくれたら、それで子どもたちが楽しい時間を過ごしてくれたら最高です。とは言え、うちの場合は1週間交代なので、父親は子どもたちと遊んでばっかりいられるわけではありませんが。
◾︎共同養育はどんなメリットがありますか。お子さんはもちろんご自身にとっても良いことがあれば教えてください。
もっとも大きなメリットは、子どもが「お父さん大好き、お母さんも大好き」という状態を維持してくれていることです。
共同養育を始めた当初は、先ほど述べた通り、私と暮らしていた下の子は父親のところへ行きたがらず、父親と暮らしていた上の子は母親とは会いたがらず、親子関係ばかりかきょうだいの関係までもが壊れてしまっていました。
しかし共同養育を続けてきたおかげでこれらの関係性は見事に修復され、新たに肯定的な家族関係が構築されています。
子どもの視点からみれば、両親は一緒に生活することをやめてしまったが、父親とも母親とも接点を持ち続け、養育され愛情を受け取り続けることで、家族のつながりは形を変えて維持されていることなりますね。
このことが、私の目からみると、子どもにある種の安定感をもたらしていると感じられています。私にとっては、これが一番大きなメリットです。
◾︎お相手との関わりにおいてご自身が心がけていることはありますか。
私の場合、何せ離婚時の対立がかなり激しかったので、そのことをできるだけ消化しつつ、つとめて自分の内面を見つめ、整えつつ関わることです最初のうちはぜんぜんできていませんでしたが、数年経った今振り返ってみると、少しずつ上達していると感じられてきます。
共同養育をするということは、元配偶者との接点を持ち続けることになりますよね。そのため、自分の中の「離婚によるダメージ」を消化していかなければ、相手とのやりとりはどうしたってうまくいきません。
骨折した足を治療することなく、いくら頑張って歩こうとしたって歩けないのと似ているかな。
相手との関わりで、私が「私の中のダメージ」に意識を向けて、きちんと歩けるように、積極的に自分の「治癒」に目を向けることが、相手との関わりにおいてこころがけていることです。
◾︎ご自身のこれからの夢やビジョンがあれば教えてください。
私は米国で、大きな葛藤を抱えて離婚しました。日本とこちらとでは離婚の制度が違いますが、人の心理は国境に関係なく、共通のものがありますよね。
離婚によって親が感じること、子どもが感じること、またストレスを受けることによって出てくる弊害…。それらについて、米国では数十年にもわたり研究が行われています。
その研究をもとに、離婚時の親のための「親教育」というプログラムが存在します。私はこの親教育によって、人生最大級のストレスにどっぷり浸る中で、優良な情報という大きな助けを手にしました。
親の離婚によって、子どものこころにはどのような感情が生じるのか、またそれに対して親ができることは何か。子どもに、のちのち問題行動につながるほど大きなストレスを与える機会を最小限に抑えるにはどうしたらいいか。これらの情報を、日本に持ち込むこと。
そして、必要とされる人のもとにお届けし、親も子もできる限り良いかたちで離婚後の家族の形を作り上げていけるように、支援すること。それが、今の時点での目標です。
この記事を書いた人
一般社団法人りむすび 共同養育コンサルタント
1974年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。自身の子連れ離婚経験を生かし当事者支援として「一般社団法人りむすび」を設立。「離婚しても親はふたり」共同養育普及に向けて離婚相談・面会交流支援やコミュニティ運営および講演・執筆活動中。 *りむすび公式サイト:http://www.rimusubi.com/ *別居パパママ相互理解のオンラインサロン「りむすびコミュニティ」 http://www.rimusubi.com/community *著書「離婚の新常識! 別れてもふたりで子育て 知っておきたい共同養育のコツ」️