「私も面会交流に後ろ向きだった」 離婚後の子育てで悩んでいるママへ伝えたい共同養育のこと
しばはし聡子
2018/05/31
離婚した後の呼び名は「ひとり親」。
当たり前に受け入れているこの言葉、よく考えてみるとおかしいと思いませんか? 死別でなければ離婚しても両親はいます。夫婦が離婚したら何故ひとり親になってしまうのでしょうか?
この疑問に真正面から向き合う共同養育コンサルタントしばはし聡子さんにお話を伺いました。
──しばはしさんが「共同養育コンサルタント」を開始されたきっかけは?
しばはしさん:
きっかけは私自身の経験です。私は、子どもが小学校4年生のときに別居し、半年ほど調停を重ねて離婚しました。子どもはもう状況を理解できる年齢でした。ずっと仲が悪い夫婦関係ではなく、突然起こった別居だったうえに、あっという間に半年で別居から離婚ということになってしまったので、子どもにとっては突然の大事件に巻き込まれてしまったというような状態でした。
調停中は弁護士がいるので相手方と直接やり取りをしないで済みましたが、離婚が成立して弁護士がいなくなった後、子どもの面会交流で夫と直接連絡を取り合わなくてはいけないことに拒絶反応があり、大変なストレスでしたね。
──面会交流を求められる、もともと子煩悩なお父さまだったのですね。
しばはしさん:
忙しくも、お父さんとしては満点でした。子どももお父さんのことを大好きでした。
しかし、私は元夫から直接メールが来ると恐怖を感じ、返事をしたくないので、メールに返事をせずに捨ててしまうこともありました。
子どもも小学校4年生ともなると、状況を見極めて言葉を選んで上手に対応していました。私の顔色を見て会いたいとは言わずに、「会っても会わなくてもどちらでも良いよ」と言ったことを、私都合に解釈して「子どもが会いたくないと言っています」というような閉ざした対応をしていました。
──お子様もお父さんに会いたいとは言わなかったのですね。
しばはしさん:
はい。離婚後1年ほど経ち、自らのつらい離婚経験を無駄にしたくないという思いから、夫婦問題カウンセラーの資格を取得しました。
相談を受けるようになったのですが、面会交流のことを相談されても、自分自身が乗り越えてられていないので対応ができないことに気づきました。「これでは駄目だ」と思い、とある面会交流支援団体のボランティアで、顔を合わせたくない両親の間に入ってお子さんを預かって、お父さんに会わせるために連れて行くお手伝いをしたのです。
待ち合わせ場所に行くと、お母さん側は怖い顔をして嫌そうな表情で子どもを連れて来ています。子どもはじめは強張った表情でしたが、お父さんに会った瞬間にすごい笑顔になり、お父さんも嬉しそうで。そういった他の家庭を見た瞬間に、私はそれさえ出来ていない。私は間違ったことをしているのだと気づいたのです。
すぐに、今まで拒絶していた元夫にメールをして突然「子どもをご飯に連れて行ってあげてください」とメールをしたら、驚くことに、今まで怖いと思っていた元夫から「もちろん。ありがとう!」と返事が来たのです。
そこからは前向きに会わせるようになり、あれよあれよという間に、子どもは明るく遠慮せずお父さんの話をするようになり、元夫も私に「ありがとう」を言ってくれる。私もその時間に仕事などに集中できる。私も離婚で傷つきつらかったけれど、夫婦関係は終わっても、夫婦間と親子関係を切り離し、向き合って乗り越えたら、その後のほうがストレスは減りました。
子どもへの虐待などがあるケースは別ですが、子どもにとっては会わせたほうがよいと分かっている。けれども、葛藤のあるお母さんの気持ちも分かる。でも乗り越えてよかった実体験もある。その両方の気持ちが分かった状態で、面会交流の大事さを伝えていきたいという思いでこの活動を始めました。
──実際はどのような活動をされているのですか。
しばはしさん:
別居や離婚後後の子育てに焦点を当てて、ご相談をお受けしたり、時には夫婦同席での気持ちの仲介も行っており修復するケースもあります。また、当事者向けの座談会の開催や行政を中心に講演などを行っています。
面会交流を「会わせなくても良い」ではなく「会うのは当たり前」、子どもにとっては離婚しても親がふたりというのは普通のことだと、社会の「固定観念」を変えていきたいと思っています。
子連れ離婚家庭のうち7割の子どもが離れて暮らす親に会えていない 「ひとり親家庭」という固定概念
──実際にちゃんと定期的に面会できている割合というのは、どのぐらいあるのでしょうか。
しばはしさん:
面会交流がちゃんとできているケースは全体の3割程度です。子連れ離婚家庭のうち、7割が会えていなくて、数字でいうと、毎年親に会えない子どもの数が約16万人ずつ増えていくという感じですね。
──そう思うと物凄い数ですね。養育費の支払いもきちんとされていない中で、余計会わせないとなるのでしょうか。
しばはしさん:
養育費の支払い率は2割程度にとどまり、会わせたくないという気持ちを増長させることもありますが、実際相手と関わりたくないから養育費を受け取らないというケースもあります。
日本では会わせない事、会わない事が珍しい事ではありません。離婚したら「ひとり親家庭」といわれますし、「離婚後はお母さんが子どもを育てる」のが固定概念になっているのではないでしょうか。
お母さんは「私が産んだ私の子ども!大嫌いな元夫には会わせない、私が父親と母親二人分をする」という場合や、早く再婚して、新しいお父さんを作ってあげなきゃと本当のお父さんを排除してしまうというのが主流のような世の中になっています。
離婚しても、親同士は変わらないということが社会で当たり前になっていればスタートが違います。嫌々だけど、「親子は変わらないからやり取りしなきゃいけない」から始まるか、「会わせてない人も沢山いるし、あんな人に会わせる必要ない」ということから始まるかで、大きな差が生まれます。
子どもが小さくても、0歳で離婚していようが実の父親がいることは戸籍をたどれば分かります。実のお父さんはこの人です、仮に再婚した場合は、一緒に暮らすお父さんはこの人ですと、お父さんは一人でなくてはいけない訳ではなく、親は増えていけばいいのです。
──アメリカなど離婚の多い外国だとそういう場合が多いと聞きますね。
しばはしさん:
日本は離婚後は単独親権ですが、他国のほとんどは共同親権。離婚しても両方が親であり続けるのが当たり前です。だから、子どもの誕生日パーティーにいっぱいの家族がいて…石田純一ファミリーみたいな(笑)。子どもが事実を隠されることなく「そういうことなんだ」と、その年齢なりに分かるように理解していればいいのではないでしょうか。
──なるほど。隠すこと、嘘をつかれることで子どもは、「お父さんに捨てられたのかな、嫌われていたのかな」と想像してしまい、自分の本当の親はどこにいるのか気になる、そして、お母さんに質問できない状況で、一人で思い悩むようにさせてしまいますね。
しばはしさん:
知りたいけれどお母さんには聞けない。年齢問わず、理解できない幼児でも、「お父さんとはけんかして別れちゃったけど、お父さんもお母さんもあなたのことをいつでも思っているのよ」と説明するべきで、子どもに会わなくてもいいと思っているお父さんも子どもの親なのだから、逃げずに向き合い頑張ってほしいですね。
離婚をしても、両親で子育てをする「共同養育」 今の日本では認知されていない
──離婚のときに、別れても子どもを一緒に育てていくと決められないのですか。
しばはしさん:
離婚時には面会交流や養育費といったことを決めますし、共同養育計画を推奨するパンフレットが法務省からも発行されています。ただ、決めなくても離婚できるし、決めても守られていないのが現状です。
また、何回会えば共同養育できているという定義があるわけでもないので、子どもの悩み事、友人関係、進路とか恋愛相談とか節目節目で離れて暮らしている親も育児に関わっていく、お母さんにだけでなく相談できる環境が、子どもにとっては必要です。
世の中が子連れ離婚家庭を「ひとり親家庭」としてひとりで育てるための支援をすることだけに傾注すると、子連れ離婚が増え、より片親不要という風潮になっていってしまうことを懸念します。
──なぜ、ひとり親なのでしょうね。別れたら親は一人という前提ですよね。
しばはしさん:
不思議ですよね。ただ、私自身も今の活動をするまでは気づきませんでしたから気づくきっかけが必要なんだと思います。行政で女性相談員向けの研修を行ったことがありますが、「1人で育てるためのアドバイスをしていたけど、離婚しても親は2人ですね。やっと今気づきました」と仰っていました。
女性シングルマザー=貧困弱者みたいなのがあって、シングルマザー支援=正義みたいな世の中になってしまっているのかなと思います。離婚したらお母さんだけが苦労して貧乏して必死で子どもを育てなきゃいけないみたいな風潮を認めてしまっている。
──日本だからなのかもしれないのですが、母子、母性の神話的な観念がありますよね。子どもを育てるのは母性がある母親。父親は離婚して子どもがいなくなったら、お腹を痛めたわけでもないし、生物的にも子どもを忘れられる生き物みたいなことが言われたりします。
しばはしさん:
ただ、今は社会もイクメン、父親も子どもと関わる社会へと変化してきています。子どもに対する思いが強いお父さんが増えてきていることもあって、面会交流調停の申立の数も増えています。
8割が男性からの相談 父親が求める子どもとの面会交流
──相談は女性からではなく、男性からが多いのですね。離婚後は会いたがらないお父さんが多いのかと思っていました。
しばはしさん:
「妻が面会交流を拒んでいます。どうしたらいいでしょう」という相談が一番多いです。お父さんが会社から帰ったらもぬけの殻で、妻も子どももいなくなっていたというケースもあります。
──それは「子どもに会わせろ」となるのも分かりますね。
しばはしさん:
そうですね。お母さんが子どもを連れて実家に帰ったのなら連絡も取れますが、行政が住所秘匿で支援することもあるため、お父さんからはどこにいるか分からない、安否もわからない。で、ある日突然、妻側の弁護士から離婚調停の連絡がくるという案件が多いです。
浮気が原因はよりモラルハラスメントが離婚原因
──どんな理由で家を出られる方が多いのでしょうか。
しばはしさん:
浮気や借金など理由が明確なものよりは、モラルハラスメント、性格の不一致といった理由が多く、夫側は自覚がない場合が多い。モラルハラスメントは夫婦間の相対評価なので、夫にとってはただの話し合いだったとしても、妻が怖いと思えばモラハラと判定されるのも事実です。
お父さんは子どもに会えないストレスや焦りから、理詰めで権利主張しがちですが、妻はそれをよりモラハラだと受け取り、状況は悪化してしまいます。お母さんは「まず私のこのつらい気持ちを分かってほしい」という気持ちが根底にあり拒否し続けます。
「奥さんがどうして家を出たり、離婚したいと思ったりしたのか、あらためて振り返るところから始めましょう」と伝えています。
──心配と怒りなどで普通ではいられなくなり、冷静に考えられなさそうですね。
しばはしさん:
そうですね。ただ、お母さんは何年も悩んで出て行かざるを得ないと思い、子どもを置いていくわけにもいかず、今までの苦しみの中ずっと家を出る計画をしてきた。でもお父さんは出ていったその日から苦しみがスタートするので、苦しんでいる時間軸がそもそも違うことを知ることからお話をさせていただいています。
──離婚後だけじゃなくて、離婚前の相談も受けられているのですか。
しばはしさん:
もちろん一番良いのは離婚前で、むしろ別居直後に来ていただけると、お父さんに対しては妻に歩み寄りしましょう、お母さんにも離婚やむなしだけど親子はずっと続くので、相手と縁が切れるわけではないので最低限やり取りできる状態で別れるようにしましょうとアドバイスします。
どの段階でも、それこそ離婚した後でもできることはありますが、病気と一緒でステージが上がっていくよりは、初期のほうが悪化せずに済みますね。「初動が大事」をモットーとしています。
──今後の活動ヴィジョンを教えてください。
しばはしさん:
離婚してしまったけれど、親としてお父さんもお母さんも入学式や運動会にきてくれる、そんな家庭が新しい、かっこいい!みたいな世の中にしていきたいですね。それには、ひとりで育てるのが当たり前という世の中を、離婚しても親はふたりということを広めていくことが必要です。
今後も、私と同じような立場のお母さんの仲間を増やしながら、「ひとり親家庭支援」が定着している国や行政をはじめ、異業種の人脈も広げながら共同養育普及に向けて発信してまいります。
また、父母どちらかだけの支援ではなく、共にに集う場を設け、相互理解を図っていきたいですね。親同士の関係が再構築できれば、子どもは自然と笑顔になれるはずですから。
この記事を書いた人
一般社団法人りむすび 共同養育コンサルタント
1974年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。自身の子連れ離婚経験を生かし当事者支援として「一般社団法人りむすび」を設立。「離婚しても親はふたり」共同養育普及に向けて離婚相談・面会交流支援やコミュニティ運営および講演・執筆活動中。 *りむすび公式サイト:http://www.rimusubi.com/ *別居パパママ相互理解のオンラインサロン「りむすびコミュニティ」 http://www.rimusubi.com/community *著書「離婚の新常識! 別れてもふたりで子育て 知っておきたい共同養育のコツ」️