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モノへの執着を捨てよう

身軽に自由に、旅するように生きる

馬場未織馬場未織

2016/01/05

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「自由に生きるっていいな」

 移住・デュアルライフに憧れる人が多いのは、具体的に海の近くで暮らしてサーフィンに明け暮れたいとか、農業をやりたい、といったことのほかに、漠然と「自由に生きるっていいな」という思いがあるからではないでしょうか。会社に縛られずに好きな場所で仕事をしたい、面倒な都会のしがらみを捨てて、ゆったりと自分のペースで暮らしたい―そんな都市生活者の潜在的な願望があるように思います。

 たとえ短期間でも、移住・デュアルライフを試したことがある人なら、最低限でありながら必要十分な荷物の選別が意外にむずかしいことにお気づきでしょう。数日間の「旅行」ならいざしらず、場所を変えて「生活」するとなると、何を持っていけばいいのか迷ってしまい、すべての家財道具が必要なようにさえ思えてきます。働くという側面だけで見ても、いくらパソコン1台で仕事ができるとはいえ、紙の資料がまったく不要というわけにはいかなかったり、職場なら共用で使っている文房具類やプリンタなど、すべて自前で運ぶとなると、かなりの量の荷物になってしまいます。

 特にデュアルライフや多地域居住の場合、移動のたびに宅急便などで荷物を運ぶのはバカバカしいもの。移動の足がクルマならまだいいでしょうが、公共交通派の人なら相当厳選しないと自力では運べません。住む場所を自由に選ぶには、本当に必要なものだけを「選ぶ」スキルが求められるのです。

 デュアルライフ実践者の経験を見ると、多くの人がモノを捨て、暮らしを「小さく」するプロセスを経ていることがわかります。まだ家財道具がほとんどないデュアルライフ先のシンプルさが気に入って、都市部のわが家に戻ってくると、たくさんのモノがあふれていることに気づき、家のなかを次々と片づけていった、という経験談があちこちで語られています。

「持たない暮らし」と移住・デュアルライフの親和性

 近ごろ、「ミニマリスト」と呼ばれるスタイルが、特に若い世代で注目を集めています。少し前であれば「シンプルライフ」などといわれていた暮らし方が、さらに先鋭化したものともいえるでしょう。日本語にすれば「最小限主義者」。シンプルを通り越し、文字通り必要最低限のモノだけの生活を志向する人を指します。書籍やブログの情報も多数あり、ミニマリストを名乗る人の部屋を見ると、本当に空っぽといっても過言でないほど。まるで引っ越し直前か直後の部屋のようです。

 若者ばかりではありません。数々の書籍で「少ない持ち物で豊かに暮らす」スタイルを発信してきたドミニック・ホーローさんは、いま京都の18平米という小さなワンルームに暮らしているといいます。「モノが少ない/ないこと」が「豊かさ」とつながるという考え方が、多くの人に違和感なく受け入れられ、共感を呼ぶ時代になってきたのです。

 こうした「持たない暮らし」は、もともとは移住やデュアルライフの文脈で出てきた話ではないものの、荷物が少なければ、いつでもサッと自由に移動できるわけですから、デュアルライフとも非常に相性がいいのです。この両者が時期を同じくして市民権を得てきたのは、身軽に自由に生きたいという人々の願望が、いよいよ大きくなっている表れと見ることができるでしょう。

新しい場が新しい関係を生み、人生を豊かにする

 そうはいっても、移住・デュアルライフのために、何でも捨ててしまいましょうという話ではありません。大切なことは、モノへの執着を捨て、フットワーク軽く動くことで、新しい関係性が生まれやすくなるということです。ずっと同じ町に住み、何十年も同じ職場に通うのと、住む場所や仕事のスタイルを臨機応変に変えながら、まるで旅するように暮らしていくのでは、どちらのほうが出会いの数が多いか明らかですね。

 豊かな人間関係はもちろん、仕事でさえ、新しい出会いから生まれることもしばしば。移住やデュアルライフを通して、さまざまな場や人に出会うことで、暮らしも仕事も豊かになる可能性が広がるはずです。

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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