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デュアルライフの魅力とは?(1/3)

私が東京と南房総の二拠点生活を始めた理由

馬場未織馬場未織

2016/01/03

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東京と南房総、2つの土地で同時に暮らす

 はじめまして。馬場未織といいます。
 仕事と子育てに日々追われている、やや陽気なフツーの42歳です。
 ちょっとだけ変わっているところがあるとしたら、2つの土地に暮らしていることぐらいでしょうか。 

 平日は都心、週末は千葉県南房総市の里山で暮らすという「二地域居住」を実践して、丸9年経ちます。東京と南房総、どちらがメインでどちらがサブというわけではなく、2カ所とも同じくらい大事にしている地元です。

 いちいち移動するなんてご苦労だなあ、という声が聞こえてきそうですが、ご苦労なのはそれだけではなく、それを家族で実践しているということです。
 子どもは現在、長男が中学3年生、長女が小学5年生、次女が小学1年生の3人。なかなか微妙な年頃の子どもたちですよね。この暮らしを始めた当初は、息子は小学校入学前で次女などは存在していませんでしたから、生まれたり育ったり、いろいろありました。

ふるさとが東京でも、田舎のおばあちゃんちがほしい

  職業はライターです。大学では建築を学び、設計の仕事から執筆の仕事へ転向したという次第。テーマはもっぱら建築や都市などが中心で、自分自身も典型的なシティライフを送っていました。休日は美術館や展覧会に足を運んだり、舞台を見に行ったり、あてもなくまちをぶらぶらしてカフェで本を読んだり。人間以外で出会った生きものはハトとカラスとゴキブリだけ、といった日々。

 もちろん不満などありません。生まれも育ちも東京で、田舎のおばあちゃんちもないので、それがわたしの自然な暮らし方だったといえます。結婚した夫も同じく東京生まれ東京育ちでしたから、きっとずっと、東京を拠点に生きていくものだろうと思っていました。

 ところが、一番目に生まれてきた息子が、わたしたち家族の運命を大きく変えるきっかけをもたらしました。彼は稀代の生きもの好きで、暇さえあれば生きものの図鑑を読みふけって、スポンジのようにその知識を吸収していきました。そしてもちろん、本物が見たい、触りたい、飼いたいと言い続けます。
「ママ、ヒラタクワガタとりたい!」「フクドジョウはどこにいるの?」と迫られる日々。そうか! 見たいか! と息子と共に網を持っておもてへ出るも、身近にある自然は公園の植栽くらいなもの。そこで週末になると、多摩川の河原や、ちょっと大きな公園、あるいは思い切って自然豊かな田舎へと小旅行をするなどしていました。

 そんななか、わたしは生まれて初めて、「生きもの好きの少年」にとって都会というのはなんて何もないところなんだ、と気がつきました。

 その時から、夫とわたしは「当たり前のように東京に住み続けていていいのかな?」とブツブツ話し合うようになりました。こどもが自然環境を欲しているというのは、とても健全なことなのではないかと思え、それなのにこのまま自然が大変少ない環境で暮らし続けていくのは、大事なタイミングに大事なものを与え損ねてしまうのではないか、と思ったわけです。

 とはいえ、仕事も高齢の親も東京にある身ですから、田舎で暮らすというのは現実的にかなりむずかしいことでした。せめておばあちゃんちが田舎にあったらいいのに、なんて話していたところ、「たとえば週末だけでも田舎に暮らせないかな? おばあちゃんのいない、おばあちゃんちをつくるんだよ」と、冗談みたいなアイディアが飛び出しました。

3年がかりで見つけた、運命の土地

 おばあちゃんちを、つくる!
 それいいね、どこにつくる? と、冗談ついでに田舎暮らし物件サイトを覗くようになりました。そして、冗談ついでに物件を見に行ったりもしました。そこからずぶずぶっと本気度が増していき、気がつけば、土地探しで3年。神奈川、山梨、長野まで足を伸ばしたこともありました。丹沢の山麓にあった物件などは、あと一歩で契約というところで破談になったり。物件を見れば見るほど目が肥えて、理想の田舎を求めて「週末物件探し」という有様です。

 その間に、親族や近しい人たちからは「田舎暮らし? 週末に? 続かないでしょう」「資産価値のない田舎物件を買うつもりなの?」「不動産屋に騙されてない?」などと大変に心配されました。

 でも、わたしたちは出会ってしまいました。
 これまでほとんど縁のなかった房総半島という場所に足を踏み入れたところ、東京から車で1時間半のところに、こんなに深い田舎があるなんて! と本当に驚きました。もっと深く、もっと深く、と物件探しは南下を極め、「南房総市」というところに辿り着くと、そこには、わたしたちの未来の家が待っていたのです。築100年以上の古い農家の窓をあけ、眼下に広がる緑の大地を眺めながら「ここだったら大抵の苦労は厭わない」と思ったことは、今でもはっきり覚えています。

 ただし、ちょっと広すぎましたね。敷地面積は8700坪。東京ドーム半分の広さです。過半が山林ですが、それでも手に余ります。
 農地を含むこの土地の取得のためにまず、農家資格も取得し、農地管理のために刈り払い機やトラクターも使うようになり、こどもたちのために始めた暮らしはいつの間にか、わたしをはじめとする家族全体の暮らし方を大きく変えていくことになりました。

 こんな形で始まった、我が家の週末田舎暮らし。
 次回は、この暮らしが丸9年続いているワケをお伝えしようと思います。

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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