だから私は田舎を選ぶ。「自然のなかで子育て」をしたくなるワケ
馬場未織
2016/11/25
自然が隣にあっても、公園がほしいママたち
「自然のなかで、子育てがしたい」。
移住や二地域居住をしたいと思うきっかけが、子どもと過ごす環境への思いから始まるケースは多いです。
かく言うわたしも、息子の生きもの好きをきっかけに週末田舎暮らしを考え、自然を楽しむ子育てを10年ほどしてきました。結果的に、都会ではきっと体験しえない、想定以上の豊かさを得ることになりました。野山があり、海があり、多様な生きものがあり、親も子もその環境のなかで育てられました。
わが家の場合は親の実家までたどっても田舎がなかったので、がんばって「おばあちゃんのいないおばあちゃんち」を得たわけですが、その苦労を押してでもこの暮らしを手に入れる価値はあったなと思っています。
一方で、昔からここに住んでいる地元の方たちは、この価値に気づいているかな? と思うことがあります。
先日、南房総市役所で打ち合わせをしているとき、子育て中の職員さんから「このあたりのママたちからは、『公園をつくってください』という声があがっているんですよ」という話を聞きました。
公園を?
こんなに自然があるのに?
「はい、玩具があって囲われている公園がないと、子どもが外で遊べない、という声です」。
公園ではない自然を求めて南房総に住まいを持ったわたしにとって、それはちょっとした衝撃でした。
好奇心と、関わるスキルがなければ自然はただの"背景"
でも確かに、その声はわたしの実感と一致します。
まず、野山で地元の子どもたちが遊ぶ姿はほとんど見ません。
川遊びにもってこいの時期であっても、遊んでいるのはわたしたちだけ。
ではどこに子どもたちがいるんだろうと聞いてみれば、サッカーチームや野球チームなど、都市の子どもたちと同じようにスポーツの場が確保されていることがわかります。
マクドナルドには親子連れや若者が集まって、ポケモンGOのアイテムをゲットしています。田舎も都市も変わりなく。
でもさ、きみんちの近所の川ではレッドデータブック*に載っている魚が、裏の山ではペットショップで売っている虫がいて、捕まえるとすごくうれしいもんだよ。と、わたしは思ったりするのですが、画面上の獲物には目の色を変えてもリアルな獲物にはあまり興味がないようです。
「自然環境のなかでの子育て」といっても、自然のなかで遊ぶスキルがなければ、それはワクワクした体験をもたらす状況として認識されないということでしょう。
また、これは子育てに限ったことではありません。
大人だって、自然のなかに身を置いたとき、どれだけ楽しむことができるか。
自然のディテールに興味を持つ心がないと、田舎は「きれいな空気」を吸い、「きれいな景色」を眺めたら、とりあえず1分くらいで飽きてしまいますよね。で、いそいそとバーベキューを始め、マンションの屋上でできるのと同じことをします。もちろん場所が変わればムードも変わり楽しく過ごせるわけですが、「バーベキューでもしないと間がもたない」とも言えます。
そこでもし、自然のディテールに好奇心が持てれば、きっと一段と深い楽しみを得ることができるはずです。
*レッドデータブック:絶滅危惧の恐れのある野生生物に関する保全状況や分布、生態、などの情報を記載した本
子育て環境として、あえて田舎を選ぶワケ
子どもが「外で遊ぶ」様子として思い浮かべられるのが、安全な枠内で遊具を使って遊ぶ公園だけでなく、野山を駆けまわったり地面を掘ったり水に手を突っ込むような状態まで押し広げられたら、地元のママたちは「自分の暮らす場所は子育て環境として最高だ」と再認識するでしょう。
遊び=余暇や意味のない娯楽、勉強=点数をとる学習、という考え方であれば、確かに田舎は有名学習塾や私立学校が少なく、遅れているといわざるを得ない。
でも、短期間で効果を得ようと思わなければ、自然は最高の学びの場と考えられます。駆け回って地形を知り、ほじくって地質を知り、捕まえようと観察して生態を知り、ゲットする喜びを知り、ちょっと強く握って死なせてしまったことで命の脆さを知り、刺されたり噛まれたりして危機管理を知り、枝を振り回して破壊力を知り、濡れた土の上を歩きまくって美味しい米のできる粘土質の土というものを知り、きれいな実をいっぱい拾って染色力を知り、そのへんの竹で秘密基地をつくって構造力学を知る。
そうして、生きものとしてのリテラシーを学びながら暮らせば、それが机上の学習意欲へのフックになることがあるだけでなく、さまざまな局面で遠くまで深くまで及ぶ想像力が発揮されることになります。
田舎での子育てにもし意味があるとすれば、結局そんなところかなあと感じています。
この記事を書いた人
NPO法人南房総リパブリック理事長
1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。