飲み会も車で行くしかない? 田舎暮らし交通事情のリアル
馬場未織
2016/07/29
短距離でも、車。
「いまからそっち、行くからよぅ!」
集落のご近所さんから連絡があり、「お待ちしています!」と電話を切ると、その1~2分後くらいにぶーんとやってくる軽トラ。もしくは、軽バン。
たとえば、わが家のお隣さんであっても(何十メートルか離れていますが)、車でぶーんとやってきます。重たい野菜をお裾分けいただく場合もありますが、ぺらっとした紙1枚の受渡しであっても同じ。車が足代わりです。
逆に、わたしが子どもたちを連れて農道をのこのこ歩いていると、「都会の人は、よく歩くねえ!」と声をかけられることもあります。
そう。田舎は、車社会。
集落のなかも、街も、どこもかしこも、歩いて移動している人はほとんど見かけません。
東京の学生と話していると、「運転免許? 持ってないっす」という人が最近かなり多く、免許があっても車はないのでカーシェアリングという人がほとんどです。
一方、田舎では免許取得は生きるためにほぼ必須で、多くのお母さんはこどもたちを習い事に送迎していますし、認知症が進んで老人ホームに入ったというおばあさんがその直前まで車を運転していた、というケースも見られます。
田舎のカーライフ事情
世帯当たりの車の所有台数を調べると、東京は0.65台に対し、わたしの家のある千葉県は1.31台。首都圏だと栃木は2.14台、群馬は2.18台。もっとも多い県は福井で2.31台。「大人ひとりにつき1台」が当たり前と言っても過言ではありません。
ちなみに世帯当たり1台に満たないのは、東京のほかは神奈川、大阪だけです。
公共交通機関が充実していない地域において、どうしても車に頼らざるを得ないという状況は、すぐには変わらないと思います。つまり、田舎暮らしをしたい! と思ったとき、否応なく降りかかってくるのが、まず免許を持っているかどうか。次に車を所有しているかどうか、という問題です。
自然環境が好きで、田舎を満喫する人生を送りたいという思いを持っていても、免許がなければ楽しめないなんて、何だかつまらない話ですよね。
田舎はそもそも、その集落や近隣との関係だけで完結できるような自給自足で成り立っていた場所でしたから、「しょっちゅう遠くへ出る」必要はなかったはず。でも、現在そうした地域に住もうとすると、現代社会的なライフスタイルとすり合わせるブリッジとして車が必要になってきてしまいます。
それだけ見ても、“田舎暮らし=エコロジカル”と単純に謳うのは欺瞞(ぎまん*)だなと思うことも。本当に筋の通った暮らし方をするのは、なかなかむずかしいことです。
…さて、それはともかく、「車移動」に関していえば、都心よりも田舎のほうが安易に車を使えると考えていいと思います。
車両自体は、軽自動車であれば安価に入手できることが多いです。わたしは中古の軽バンを15万円で入手しましたし、そのことを友人に話したら「早く教えてくれれば、うちの中古をタダであげたのに!」と言われました。”車種がステイタスを表すのだから”と気張る必要もなく、足代わりとして安くて丈夫で使いやすいものを選べばオッケーです。
むしろ、あまり大きな車だと細い農道などですれ違うことができず、不便を感じることになります。軽2台分の幅の道が多いですから。
また、お店や施設に駐車して、駐車代金をとられることはほぼ皆無。路上駐車違反で切符を切られた話も、あまり聞きません(速度違反はしばしば取り締まっていますが)。
それから、わたしとしては新鮮だったのが、飲食店に車で行った場合にも気にせず飲んで、運転代行サービスを使う人がとても多いことです。けっこうな料金がかかるはずなのですが。都市部だと、「今日はクルマだから~」とお酒を断ることが多い気がします。
ひとつ、気をつけなければならないとしたら、動物との接触事故です。イノシシやシカ、サルなどへの注意喚起を促す交通標識がよく立っていますね。特に夜道は、いきなり動物が横切ると驚きます。
動物が出るかもしれない、という心構えを持って丁寧に運転していれば、減速や停止も可能です。ただ、飛び出してきた場合は、かわいそうですが急ブレーキをかけて事故を起こすよりも轢いてしまったほうがいい、といわれています。だいぶ昔にイラクに駐在していた親戚からは、「ラクダが車に向かってきたら、アクセルを思いっきり踏んで弾き飛ばす。そうでないと自分の身が危ない」と聞いて驚いたことがあります(日本ではそんな事態がないことを祈りつつ)。
(*)欺瞞:人の目をごまかし、騙すこと
それでも車は使いたくない人は?
それでも、「わたしは公共交通機関しか使わずに田舎で暮らしたい!」と考える場合は、バス停の徒歩圏内で頑張りましょう。地域によりますが、いわゆる里山環境での田舎暮らしを望む場合、バスの台数は1日に数本という場合が多いです。大抵、バスは市街地や電車の駅周辺を通りますから、何とかなるかもしれません。
プラス自転車があれば、その暮らし方はさらに現実味を帯びてきます。
なぜか、田舎では大人は自転車に乗っていません。中高生が自立して動くために乗っているのは目にしますが、あとはロードバイクで疾走する非居住者がほとんど。
でも、自転車で田舎道を疾走する楽しさは、都会の環境では味わえないものです。山道は、電動自転車の導入により克服!
リュック+自転車で暮らせる場所に拠点を置いて田舎を楽しむ方が、いろいろな意味で素敵です。
将来的には、採算が合わずに田舎の公共交通機関がどんどん廃止されている状況に対し、「住民バス」を出すなどの有効な代替案を考えていきたいものです。
(ちなみに政府は、地方移住を希望する高齢者を税制面から後押しする方向で検討しているようですが、「運転できない高齢者」の田舎暮らしについての見解も聞いてみたいですね。)
この記事を書いた人
NPO法人南房総リパブリック理事長
1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。