熱中症になって考えた。草むしりと人生に大切なこと
馬場未織
2016/06/03
命に勢いがある季節は、野良仕事の過酷な季節
ぐんぐん気温があがり、肌を差す日差しの強さが一気に増し、「夏日」「真夏日」なんていう言葉も躍り出るこの季節。つい先日までウールの洋服を出したりひっこめたりしていたのに、夏は突然、目の前に訪れます。
わが家の小2の次女はすでにTシャツ短パンといういでたちです。「もう脱ぐものがないじゃない、これからもっと暑くなったらどうするの?」と声をかけると、「そんなこと考えてたくさん着るのなんてやだ! いま涼しいのがだいじなの。いってきまーす! 」と言い放ってと玄関を飛び出します。ごもっともですね。笑。
子どもは元気に外で遊びまわり、大人はなるべく日陰で過ごし…というわけにはいかないのが、田舎暮らしです。
梅雨到来の頃になると、草刈りした後を振り返ればもう伸びている、というほどの速度で雑草は育ち続け、むんむんと命の匂いを放ちます。また、細い竹がそこかしこからにょきにょき生え出すのもこの季節です。モグラたたきのように見つけるや否や刈っていかないと、あたりじゅう竹だらけの針山になることも。
猛暑で人が外にいられないほどになると、雑草もぐったりと伸びる速度が落ちますから、5月~お盆あたりが、1年でもっとも過酷な雑草との闘い期間だといえます。
倒れて気づく「一気刈り」リスクの大きさ
さて、二地域居住をしているわたしは、週末しか南房総にいられませんから、この時期は躍起になって草刈りに勤しみます。
なるべく涼しい時間が動きやすいのですが、まあいってみれば、週末は、1週間の休息の日でもあり。集落のみなさんが朝早くから草刈りをしている音を耳にしながらも早起きはむずかしく、お布団のなかでゆっくり鳥のさえずりを聞いてもぞもぞしている時間が至福だったりします。
そうして十分に体を休めたのをいいことに、「草刈り頑張る! 」といったん外に出ると、がんがん作業を進めるテンションに。あっちの斜面、こっちの斜面、ビニールハウスのまわりも、家の裏の竹も、とついノンストップでやりがちです。
作業を止めたくない理由のひとつには、「この範囲は綺麗にしてしまいたい」という見た目のおさまりがあります。刈り残しがある状態だと、まるで黒板の字が消えずに残っているみたいに気持ちが落ち着かないんだもん、と欲張って進めてしまいます。
また、農機の扱いという面でいえば、刈払い機やスパイダーモアといった草刈り農機のエンジン始動の動作をなるべく減らしたい、という理由もあります。これらの農機は大抵、スターターのひもを引っ張ってエンジンをかけるのですが、これが一発ではかからない。機械の状態によっては何回も何十回もひもを引っ張る動作をしないとエンジンがかからなかったりするんですよね。
わたしにはこの動作がわりとしんどくて、草刈りを始める前にへとへとになることも(やったことのある方は、想像つきますよね?)。
さらにお粗末なことに、一度作業を中断すると、次に腰を上げるのが面倒になる、という理由もあります。モチベーションがあるうちに一気にやってしまえ! と、体は若くないのに力技で終わらせてしまいたくなる。怠け心が透けて見えます。
そんな、割ととるに足らない理由をあげ連ねて「一気刈り」をしようとするのですが。
これが、田舎暮らし素人のよくないクセなんですよね。
「一気刈り」は、体に大きな負担がかかります。
集中していると気づきませんが、ふとした瞬間に頭が痛くなったり、気持ちが悪くなったりという異変を感じ、体のSOSを察知します。いわゆる熱中症です。
やばい! と思ってすぐに作業を中断し、水分をとって家で横になるのですが、一度症状が出るとなかなか回復しないことが多いです。汗だくになって畳の上で伸びているわたしを見て、以前は家族が心配そうにのぞき込んでくれましたが、いまでは「また休憩とり忘れたの?」という一瞥のみ。
その日1日は体調がきちんと戻らず、ぐったりと不本意に過ごすことになることが多のですから、いいことはひとつもありません。
そうなんです。体調管理も仕事の一部。
「一気にやってしまえ! 」とは、実は愚かなことなのです。草刈りを、半袖半ズボンでやろうとするのと同じくらい。
外気温が30度前後という、何とか頑張ってしまえる時期ほど、計画的な休憩を忘れてこの状態に陥りがちです。
モーレツ、ではない働き方を身につける
うちの集落では、「道普請」という道端の草刈りが共同作業としてしばしば行なわれます。
わたしが躍起になって草刈りをしていると、集落の方から「ぼちぼち、休み休みな」と声がかかります。汗だくの顔でふっと顔をあげると、そう急ぐな、といった笑顔でこちらを見ている方と目が合い、ちょっと恥ずかしくなります。あらやだ、モーレツな感じがでちゃってた?と。
少し疲れてきたな、というタイミングで「一息いれっか」と誰かが言い、お茶が配られてブレイクタイム。ちょっとした甘いものを口にすると、甘さが体に染み入ります。
たわいもない話をしながら、腰を伸ばしてクールダウン。
この、合いの手のような時間は、実はとても重要なんですね。
一日中外で働くことの多い農家の方々は、しっかりと休憩を入れることこそ、結局きちんと働ける時間を増やすことにつながるとわかっています。
それに比べわたしは、どうもうまく休むのが苦手です。休まないで追い込んで働くことをよしとする気持ちが、どこかにあるのかもしれません。体にせよ、頭にせよ、酷使した後がくっと疲れる、という状態自体を“充実している”と思いがちですが、本当にそうかな、とふと立ち止まってしまいます。長い目で見て持続可能な働き方をしたいものだと、40歳を過ぎて初めてしみじみ考えるようになりました。
まあ、いってみれば二地域居住は、都市的な日常生活に田舎暮らしを意図的にカットインする暮らし方ですから、大きく考えれば「リセット」をうまくしているともいえますけれど、ね。
休み休み、まわりの景色もたまに見て、深呼吸をして、次へと進みましょう。
この記事を書いた人
NPO法人南房総リパブリック理事長
1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。