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週末は田舎暮らし! を始めよう(10)

なぜ田舎では行列スイーツが最強の「お返し」になれないのか

馬場未織馬場未織

2016/03/18

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「助け合い」にならず「助けられ」でとどまる

これまでも何度かお話したように、慣れない田舎暮らしでは、ご近所の方々にたくさん助けてもらう局面があります。

台風で大木が倒れて、道がふさがれちゃった! とか、スパイダーモア(手押しの大きな刈払い機)が崖から転落してしまって救出できない…とか、イノシシが土手を崩して明渠(めいきょ:ふたのない排水溝)がふさがってしまった~とか。あるいは、イノシシの作物への被害が酷くて解決方法がわからない、といった深い悩みなども。「いまから行くから」と、快く手を差し伸べてくださる場合もあれば、「どーすっぺなあ」と一緒に考えたり、知恵を貸してくださることもあります。

自分ではどうにもならないとき、相談に乗ってもらえる相手がいるといないとでは、暮らしの根っこの安心感が違います。

それから、二地域居住という暮らし方をしている場合、毎日その家にいないワケで、大風が吹いたり大雪が降ったりと天候不順のときに不在だと、けっこう気を揉みます。「家の様子をちょっと確認していただけますか?」なんてお願いごとも、回数を重ねると申し訳ない気がしてくるもの。

そう。よく考えてみれば、わたしたちばかりが頼りっぱなしで、頼られる局面はほとんどないことに気づきます。恐縮していると、「お互いさまだから気にすんな」と言われますが、どこがお互いさまだか…情けない話です。

いや~子どもの顔を見せに行くだけでもお返しだ、なんて、こっちがいうことでもないしね。

この、アンバランスな関係を、どうにもしようがないですかね?

いいお返しが見つからない

手助けだけではありません。収穫物の物々交換も、交換になりません。

「たくさんできたから」といただく野菜の、量ったら!!

みずみずしい大根を10本以上とか、抱えきれないナバナとか、段ボールいっぱいのじゃがいもとか。東京のお裾分けの感覚とはケタが違います。

わたしがしょぼしょぼやっている週末農業でできたものの収量もたかが知れていますし、そもそもわたしのつくっている野菜を、すでにどっさりつくっていたりね。出来栄えも、きっとご近所さんのほうがいい。農作業のお手伝いをしようと思ったところで、「自分のところの草刈りが大変だっぺ?」とお見通し。

ということで悩むのが、「お返し」です。

東京の地元でスイーツとか買って持っていこうかな、と考えることが多いのですが、まあ、何というか、東京からのお土産ってしょぼく見えますね。笑。名店の美しいケーキや焼き菓子など探せばいくらでもありますが、いざ選ぶときに頭をよぎるのは、いつもいただいている大量の美味しい野菜たち。それに引きかえ、わたしが買って渡そうとしているのは、この小さな包み? うーん。

ものの大きさの話ではないですし、みんなが行列してでも買うものには何らかの価値があるのもわかっています。でも、「大量の美味しい野菜」を思い浮かべながらそのスイーツを見ると、ある種の都市的洗脳が解かれてしまうのです。

小さくても高くて、行列しないと買えなくて、最近話題のスイーツであったとしても、果たして農家さん、これを喜んでくれるかな? と、思うとね。

で、それでも買って、渡すわけですよ。

「うちの近くの美味しいケーキ屋さんのお菓子です」などと、一言添えて。

するととても恐縮されます。「いやいや、悪いって。お金で買ったものは、悪いって」と。

そう言われると本当に、手詰まりです。自分には、お金で買ったものを渡すお返し以外に、できないんだという無力感。やれやれ。

また、たまに手づくりの梅干や梅酒、醤油なんかがうまくできると、これはお金で買ったものじゃない! と思い、喜んで持っていきます。まるで、ママの似顔絵を一生懸命描いて「はい!」と渡す子どもみたいですよね。ママ喜んでくれるかなーと期待に目をキラキラさせて。

だって、それくらいしか思いつかないんです。

いろいろな形の「お互いさま」をつくる

実は、わたしがNPO法人南房総リパブリックを立ち上げようと思った理由のひとつには、この「地域の方々にお返ししたい」という気持ちがあるんです。

都市居住者と南房総の農村をつなぎ、南房総地域の魅力や課題を共有する仲間を増やしていこうという思いでいくつかの事業を進めています。

それらは、いつも助けてくださる方に直接届くものではないかもしれませんが、二地域居住をしているというわたしの立場でできる、「お金で買ったもの」ではない、恩返しの形です。

訪れた人たちは、南房総ってほんといい場所だね! と感動したり、本当に気に入るとしばしば訪れるようになったり、不動産を探すようになる人もいます。

そして、そんな人たちと地元の人たちが共にいる場で、「なーんもない田舎だから」といいながら口元が緩んでいる農家さんなどがいたりすると、じんわり嬉しくなります。この土地での暮らしに等身大の誇りを持つことや、あたり前すぎて見えないもののなかにある大きな価値に気づくこと。それが、わたしたちのせめてもの恩返しなのかなと思います。

とはいえ。
やっぱり、「いつも助けてくれてありがとう!」を形にして、お返ししたい。これはずっと、わたしのなかでの課題です。

もし、これなら喜ばれるよという絶妙なお返しを知っている方がいたら、ぜひとも教えてください。「こんなもの返されてもね」という本音も大歓迎です。

お互いさまが、形になればうれしいです。

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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