2週に一度は田舎の家に行く、それがわが家のルールです
馬場未織
2016/02/05
予定調整というストレス
二地域居住を始めるにあたり話し合いを重ね、家族の意見はバッチリ満場一致、高まる気持ちも家族皆一緒ということで、「今週末は何をしようか!?」と食卓の話題も第二の我が家のことで持ちきりの日々。
そんな好スタートを切ってからしばらくすると、並行して話題にのぼり始めるのが、家族のスケジュール調整についてです。パートナーやこどもたちにもそれぞれの生活があり、予定もあります。「この週末は仕事が入っちゃったんだよな…」「え?その次の週末は、はずせないイベントがあるのよ…」と、ちぐはぐな予定をどうおさめるか、悩ましいですね。
二地域居住は、暮らしの場所を増やすことですから、当然いままで一箇所に集約されていた用事や人間関係も二箇所に増えます。でも、体はひとつ。当然そこには“調整”が発生してきます。調整はケンカに発展することがあると、ストレスも増えます。
「こないだだって、あなたの予定で行けなかったじゃない?」
「しょうがないだろ、仕事なんだから」
「じゃあ今回はわたしの用事を優先させてよ」
「そうしたら1カ月以上行けないことになるよ?」
「わたしのせいだっていうの!?」
「きみの用事は私用だろ?調整できないのか?」
「なんでわたしが我慢しなきゃならないのよ!」
…いくらでも書けます。笑。
しかし、こんなやりとりで夢の二地域居住が一気に色褪せるなんて残念ですね。
こうやって田舎の家から遠ざかっていっちゃうのかな、なんて暗い思いもよぎります。
みんなが納得できる「ルール」を決める
正直な話、わが家でもスケジュール調整で修羅場になることがたまにあります。ただ、この生活を始めてすぐに家族全員で決めた「ルール」があるので、血を見るような事態にまでは発展しません。
そのルールとはとてもシンプルです。
【2週末続けて行けない、ということがないようにする】
このひとつだけです。
これには合理的な理由があります。2週末、つまり3週間その家に行かないと、夏場であれば草が伸びまくってしまったり、家がカビてしまったりと、具体的に不都合が出てくるからです。最低限2週間に1度通っていれば大抵のことはうまく回せますが、それ以上あけると突然いろいろ問題が出てくる。この実感から割り出したペースです。
大事なのは、このルールは家族の誰もが納得できるものであるということです。仮にそのとき自分が我慢しなければならないことになっても、二地域居住というライフスタイルを維持するためには必要なのだと納得できれば、少なくとも不公平感は生じません。
また、この暮らしを9年続けたなかでわかったのは、東京の用事をキャンセルしたり、調整したことで「失った縁はない」ということです。直近の1年を考えても、自分を含めた家族のスケジュール調整がむずかしい局面も何度かありましたが、正直言っていま、その詳細を思い出せません。つまり、そのときは大変だとしてもまあ、その程度のことだったんだな、と理解しています。
さらに、日頃から「わが家は、週末は南房総にいます」ということをアピールしていると、だんだん周囲の人間関係にそれが浸透してきて、外との予定調整がやりやすくなってきたりもします。
試行錯誤を繰り返すなかで、上記のルールのようなものが編み出されたり、東京での時間の使い方も変わったりと、二地域居住が暮らしのリズムのなかに馴染んでいく。同時に、田舎暮らしがイベントではなく、日常になってくるわけです。
続けることで価値が生まれてくる
上記のようなスケジュール調整を含めて手間のかかる暮らしではあるので、「ええい、面倒だな」と思うことだって、正直あるかと思います。いくら好きでやっている暮らし方だとはいえ、ね。
なかなか塩梅がむずかしいかもしれませんが、「無理せず、ちょっと無理して」というあたりがちょうどいいのではないかと思っています。我慢を重ねるような無理をしては、そのひずみばかりに目がいって生活自体がしんどくなってしまいます。かといって何の調整もせず「今回も行けない」「その次も無理」と続けば、どんどん足は遠のきます。
ちょっと無理して都合をつけて行ってみると、ああ、やっぱり来てよかったなと思う。元気をもらって帰ってくる。その積み重ねで、「ちょっとした無理」をするのも悪くない、という実感できるかと思います。
たとえとして相応しいか自信がありませんが、わたしの家ではシーズンに一度の親族会があり、その会も「ちょっとした無理」によって15年続いています。働き盛りや中高生も含めた老若男女12人の予定を合わせるのは、3カ月に一度でもわりと大変です。
でもこれを続けていることで、いとこ同士のこどもたちは兄弟姉妹のように育ち、普段は単身で住まう親族もこの日を楽しみにして過ごすわけです。しなければしないですむことですが、毎回終わったあと「今回もやってよかったな」と思い、仕切りを任されている嫁同士でほっとします。
続けることで、価値が生まれることがある。
二地域居住こそ、その典型だといえるでしょう。
予定調整の面倒は(あったとしても)さっさと忘れ、ぜひ楽しい週末をお過ごしくださいね。
この記事を書いた人
NPO法人南房総リパブリック理事長
1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。