BOOK Review――この1冊 『むらさきのスカートの女』 今村夏子著(1/2ページ)
BOOK Review 担当編集
2019/09/04
『むらさきのスカートの女』 今村夏子著 朝日新聞出版刊 1300円(本体価格)+税
昔、どの町にも一人や二人、得体の知れない人物がいたのではないだろうか。子ども達は怖いもの見たさにその後をつけたり、背中にタッチしてワーッと逃げ出したり、家の様子を覗きに行ったりしたものだ。けれど、いつの頃からか、そういう人間が町を歩くことをよしとしない世の中になってしまった。
「むらさきのスカートの女」はそういう意味では少し昭和の香りがする、町の誰もが知っている不思議な女性だ。週に一度、商店街のパン屋でクリームパンを買い、公園の決まったベンチでそれを食べる。人混みの中でもスイスイ滑るように歩く女に、わざとぶつかりに行った猛者もいるが、成功した者はいない。
そんな彼女が気になって仕方ない〈わたし〉は彼女を観察し、彼女と友達になりたいと願う「黄色いカーディガンの女」だ。仕事探しに苦戦している「むらさきのスカートの女」のために、自分が働くホテルの客室清掃係の面接を受けるように誘導し、見事に同じ職場で働くことに成功する。
だが、同じ職場で働きながらも、〈わたし〉と「むらさきのスカートの女」は全く接点がない。一方的な片思いだ。ストーカーともいえるほどの執着心で女を観察し続けるのだが、女はまったく〈わたし〉の存在に気づかない。その不可思議さ。なぜ、これほどまで近くにいながら気づかれないのか。「むらさきのスカートの女」は実在するのか。〈わたし〉とは一体誰なのか?
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ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集
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