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地価LOOKレポート令和4年(2022)第2四半期分が公表 おいてきぼりの六本木 コロナショックは終了か?

朝倉 継道朝倉 継道

2022/09/15

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地価下落地区が大きく減少

この8月24日に、国土交通省が令和4年(2022)第2四半期分の「地価LOOKレポート」を公表している。正式名称は「主要都市の高度利用地地価動向報告」。日本の大都市部地価の動きと方向性を示すレポートとなる。 

今回、一番のトピックとして挙げられるのは「下落地区」が大きく減ったことだ(13→5地区へ)。前々回(令和3年第4四半期)、前回(本年第1四半期)と、全体に占める下落地区の割合が足踏みしていた状態をいよいよ脱したかたちとなる。コロナ禍により始まった地価の下落傾向――コロナショックに、現状、終わりが見えてきたといってよい結果となっている。

もっとも、新型コロナウイルス自体は、感染者数の面からはいまだ猛威をふるっている(8月末時点)。とはいえ「コロナ」と大都市部「地価」との関連についていえば、両者の結びつきはいまのところほぼ薄まりつつあるといえるだろう。 

下落地区の割合を振り返る

地価LOOKレポート対象全地区に対しての下落地区の割合を過去から辿ってみよう。なお、遅ればせながら「下落地区」とは、当該四半期において地価の下落が観察され、かつ、当面の下落も予測されるといったエリアのことだ。

令和2年(2020)
第1四半期 4.0% (この期の冒頭1月に国内初の新型コロナ感染者を確認)
第2四半期 38.0%
第3四半期 45.0%
第4四半期 38.0%

令和3年(2021)
第1四半期 27.0%
第2四半期 29.0%
第3四半期 30.0%
第4四半期 17.0% (この期まで全対象地区数は100)

令和4年(2022)
第1四半期 16.3% (この期より全対象地区数は80) 第2四半期 6.3% (今回)

このとおり、足かけ3年の長きにわたった大都市部地価へのコロナの影響は、途中じれったく足踏みも重ねながら、いよいよ終息を迎えようとしているかにみえる。

なお、括弧に記したとおり、上記の間に地価LOOKレポートの調査対象地区数は1度変わっている。令和3年(2021)第4四半期までが100地区、令和4年(2022)第1四半期(前回)からは80地区となっている。

よって、今回の令和4年(2022)第2四半期にあっては、全地区数80に対する下落地区数5が、上記6.3%という数字を導き出していることになる(6.25%を四捨五入)。

おいてきぼりの六本木

さて、そこで今回すっかり少数派となった下落地区5つの顔ぶれを見てみよう。このようになる。

福島県 郡山市 郡山駅周辺(商業系地区)
東京都 港区 六本木(同上)
長野県 長野市 長野駅前(同上)
熊本県 熊本市中央区 下通周辺(同上)
沖縄県 那覇市 県庁前(同上)

このうち、誰の目にも留まりそうな名前といえば、上から2番目の東京・六本木だろう。 

ちなみに、前回の下落地区数は前述のとおり13だった。そのうち半分を占めていたのが東京都と大阪府の商業系地区で、数はそれぞれ3と4、合わせて7地区となっていた。内訳は、東京都が六本木、池袋東口、上野、大阪府が茶屋町、心斎橋、なんば、阿倍野だ。

それが、今回六本木を除いてはすべて「下落」を脱して、「横ばい」もしくは「上昇」へ移行している(上昇は上野)。

なにやらひとり取り残された感のある六本木だが、この地に何が起きているのか。地価LOOKレポートの中にある不動産鑑定士のコメントを見ると、かいつまんで以下のとおりとなっている。

「大規模オフィスの大口募集床では、前期に続きテナントの確保に時間を要している」
「(上記では)募集賃料を大きく引き下げる等の動きが見られ、当期のオフィス賃料は弱含みの下落傾向で推移した」
「優良物件の供給が限定的で、これら需要者の取得意欲は底堅いものの、賃貸市場の先行き懸念が残る」

要は、市場に力がない。そのことで当然ながら地価も盛り上がらないのがいまの六本木――ということになっている。

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ビッグターミナルの時代を六本木はどう迎えるか?

とはいえ、ご存じの方も多いだろう。六本木界隈ではいま大規模再開発プロジェクトが順次進行中だ。インテリジェントな高層ビルと、緻密に計算されたランドスケープを擁するいわゆる「ヒルズ」が、六本木駅付近から虎ノ門にかけ、やがては数珠つなぎとなる。 

計画を進めている森ビルからは、「六本木から虎ノ門にかかるエリア一帯が(中略)国際新都心となる」旨の構想が打ち上げられている。六本木の将来は、いわば端倪すべからざる状況といっていい。

ただし、筆者は日本の都市部地価に関しては、今後はますます「ターミナル」がキーワードになると思っている。さまざまな理由から、新幹線も含んだ多様な交通機関の集積地に人も経済も集中しやすい傾向がおそらく加速していきそうだ。

その様子は、地方ではいわゆる4市(札幌、仙台、広島、福岡)への人や投資の集中に如実に表れている。また、首都圏では大宮(東日本を行き交うすべての新幹線の結節点)が「住みたい街」として近年著しく脚光を浴びていることにも、実は表れているといえるだろう。

その点、六本木はターミナルの街ではない。どころか、東京のどのビッグターミナルから見ても、辿り着くまでがいまひとつ億劫な奥座敷のような街になっている。そのため、六本木が今後も東京の繁華な街のひとつでありたいと思うのならば、筆者の目からは以上のことが懸念事項となる。すなわち、六本木はターミナルではない・なれないということだ。 

上昇率トップ地区はターミナル都市・福岡に存在

ターミナルといえば、日本の地方の街のなかで、その機能の集積がもっとも優れている場所として、筆者は迷わず福岡を挙げたい。 

福岡では、東京・大阪に直結する新幹線の駅から国際空港までが、地下鉄わずか2駅で結ばれている。その間、要する時間は5分程度に過ぎない。加えていえば、この街は日本の大都市のうちでは、ソウル、北京、上海、香港、台北など、東アジアのどの大都会にももっとも近いという圧倒的なポテンシャルも持っている(活かしきれているかは別として)。

そこで、今回の地価LOOKレポートを覗いてみよう。地価上昇地区が全部で58あるうち、「3%以上~6%未満」のひときわ高い上昇率を示している地区がひとつだけ存在する。福岡市中央区の大濠地区(住宅系)だ。堅調なマンション需要が、このエリアの地価をいま大いに沸かせているらしい。飛行機、新幹線、その他域内交通・域外交通、すべてが集中する福岡市中心部が目と鼻の先に広がる文字どおりのミッドタウンとなる。

上昇率区分別の地区数内訳を掲げてみよう。

6%以上 …0地区(前回0地区)
3%以上~6%未満 …1地区(前回1地区。今回と同じく大濠)
0%超~3%未満 …57地区(前回45地区)

なお、住宅系地区は23地区すべてが上記に含まれる。商業系地区も今回は全57地区中35地区が上昇となった。前回よりも11地区増えている。冒頭に繰り返すが、コロナショックの終わりがいまのところは目に見えるかたちだ。 

地価LOOKレポートとは?

最後になったが、地価LOOKレポートとは何か? について添えておこう。

国交省が四半期ごとに公表する「地価LOOKレポート」は、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない頻繁な更新をもってわれわれに日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれるものだ。

特徴としては、地価の動向を表す9種類の矢印や、多用される表や地図により内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは異なり、土地の価格そのものが示されるわけではない。地価のトレンドを調査し、分析する内容の報告書となっている。

全国80の調査対象地区すべてにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントも添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえでよい助けとなるだろう。

留意すべき点として、地価LOOKレポートは全国の主な都市部の地価にのみ対象を絞っている。正式名称「主要都市の高度利用地地価動向報告」が示すとおりとなる。

(文/朝倉継道)

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「地価LOOKレポート」令和4年第2四半期分(2022年4月1日~7月1日)はこちらです。 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001499202.pdf

地価LOOKレポート自体の案内サイトはこちらです。 https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo04_hh_000001_00023.html

 

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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